COP10第一週が終了 閣僚級会合に向けた課題
2010/10/25
2010年10月18日から名古屋で開かれている生物多様性条約締約国会議(CBD・COP10)は、第一週目の会合を終えました。しかし、交渉はすでに難航しています。WWFでは現地の名古屋で、会議の一週目を振り返る記者会見を行ない、閣僚級会合が始まる二週目に、世界の国々が何をするべきなのか、声明を発表しました。
難航する名古屋会議
COP10で行なわれている会議には、重要な議論が2つあります。
一つは、「2020年目標(ポスト2010年目標)」。これは、世界の国々が2020年までに、地球の生物多様性保全のために何をするか? という戦略計画をまとめたものです。これは「新戦略目標」と呼ばれる、より大きな目標の一部として設定されています。
もう一つは、ABS(遺伝資源へのアクセスと公平な利益配分)の新しいルール「名古屋議定書(仮称)」を定める議論。こちらは、バイオテクノロジーなどの産業分野が生み出す利益にかかわる問題であるため、各国の間でも意見の相違が大きく、議論がなかなか進展していません。
いずれも、各締約国が自分たちの立場を崩そうとせず、歩み寄りが見られないためです。
こうして第一週目が週末を迎えた2010年10月22日、WWFは現地名古屋で記者会見を開催し、問題を指摘する声明を発表。
WWFの代表団の中で、主な交渉を担当しているスタッフたちが、意見を述べました。
会見に臨んだのは、WWFドイツのギュンター・ミットラッハ、WWFブラジルのクラウディオ・マレッティ、WWFインターナショナルのジェラルド・シュタインドレッガーの3人です。
「2020年目標」の危機
ギュンター・ミットラッハが指摘したのは、「2020年目標」案が、COP10に先立つ、2010年5月の事前会合で協議した時よりも「後退しているところがある」という点でした。
この「2020年目標」案は、COP10の閣僚級会合までに案を固め、本会議で採択する事になっていましたが、ここにきて、そのテキスト案に対して、各国から注文が相次ぎ、議論が逆行してしまっているのです。
しかも、2010年5月に、ケニアのナイロビで開かれた事前会合で整理された2つの案は、WWFの見解ではいずれも積極的な内容であるとはいえず、「2020年までに生物多様性の損失を止める」という大きな目的を果たすには、不十分なものでした。
それを、さらに良いものにする場が、COP10で開かれるコンタクト・グループという小会合のはずだったのですが、そこにさらに3つの案が持ち込まれ、状況が更に悪くなっている、という状況です。
また、2020年までの新戦略計画の「目標11」に入っている、陸や海の保護区を、それぞれの生態域の「何%にするか?」という目標案の設定も、うまく行っていません。
WWFでは「20%」という目標を提案していますが、各国が主張する「%」の数値には幅があり、締約国間で折り合いがついていないのです。
会期中、交渉に張り付いていたギュンターは「とにかく交渉のスピードが遅いと感じています。このままでは何日かかるか分からず、急がないといけません」と、危機感を募らせています。
ABSの問題
クラウディオ・マレッティは、ABS議定書(名古屋議定書)について、見解を述べました。
これも当然、今回の名古屋COP10の重要事項。しかし、成立するかどうかは目下、五里霧中の状態です。
クラウディオは、この議論について「カナダ、オーストラリア、LMMC(メガ生物多様性同志国家グループ)などで意見が分かれている」といいます。国益がかかっていることもあり、意見の歩み寄りが見られないのです。
しかし、地球環境の問題を考えるときに、個別に国が自国の権益ばかりを主張していたら、話は進みません。
閣僚級会合での採択までに、各国が名古屋議定書の成立に合意するかどうか。クラウディオは、これが「今後のほかの交渉にも影響してくる可能性があります」と懸念を示しています。
世界の生物多様性は失われている
WWFインターナショナルのジェラルド・シュタインドレッガーは、「COP10の成功が期待されていますが、現時点ではそれから程遠い状態です」と、会議の現状に警鐘を鳴らします。
「この名古屋では、政治的意思を示すことが会議の成功のために大切になってきます。強固なミッションと野心的な目標をもった新戦略計画を採択し、長期的かつ安定的な資金を確保することが欠かせないのです」。
WWFはCOP10の開催に先立ち、最新版の『生きている地球レポート(Living Planet Report)』を発表し、過去40年で地球の自然の豊かさが3割も失われ、特に熱帯では60%も損なわれていることを指摘しました。
名古屋で会議が行なわれている、今この瞬間にも、世界のあちこちで自然は失われ、生物多様性は損なわれています。
世界の森(一次林)は毎年1,300万ヘクタールというペースで失われており、この状況を食い止めなければ、気候変動枠組み条約で求められている、「温暖化による環境への悪影響を防ぐためには、地球の平均気温の上昇を2度未満に抑える必要がある」という目標も達成することはできないでしょう。
こうした問題を解決する、明確な意思と目標を、2020年までの新戦略計画に盛り込まなければ、世界の生物多様性の保全に向けた、この先10年の国際社会の取り組みは、文字通り骨抜きになり、さらなる環境の悪化が進むことになります。
WWFは何としても、このような事態が起こるのをを食い止めるために、29日の会期終了まで、各国の代表団に働きかけて交渉を進展させ、名古屋に集まっている締約国に結束することを呼びかけてゆきます。
WWFの声明:2010年10月22日