津波の被災地・松川浦で自然環境調査を実施
2011/10/04
東日本大震災から半年が過ぎた9月11日、福島県相馬市の沿岸域、松川浦において、WWFは「暮らしと自然の復興支援プロジェクト」の一環として第1回自然環境調査を実施しました。松川浦は、渡り鳥の重要な飛来地であり、貴重な干潟の生態系が残る、東北地方を代表する湿地の一つで、大津波による被害と、その後の回復が注目されます。
自然の回復と被災地復興をめざして
WWFジャパンは現在、「自然環境と生物多様性の再生」、さらに「持続可能な水産業の支援」を目的とした、「暮らしと自然の復興プロジェクト」を展開しています。これは、WWFが国内外で実績を積んできた活動の知見を通じて、被災地の復興支援をめざすものです。
今回、WWFが中心的に活動を展開する地域を選定するため、ここ数カ月の間、生物多様性が高く、かつ水産業が地域産業の基盤となっている候補地を数カ所選び、さらに漁業者や市民団体から被害実態や復興に向けた課題を取材してきました。
また同時に自然科学、社会科学の専門家からの助言を通じて、プロジェクトの実施可能性を探ってきました。
その結果、宮城県南三陸町(戸倉地区)と福島県相馬市(松川浦)を中心に、まずは活動を展開することになりました。
沿岸の自然への津波の被害を調べる
今回の地震とそれに続いた大津波は、沿岸の自然環境にも大きな打撃を与えました。
地盤沈下や砂浜など地形の変化、砂や泥の移動による底質環境の攪乱、藻場や海浜植生の破壊、がれきからの有害化学物質の流出、そして福島第一原子力発電所からの放射性物質の放出などです。
これらは、沿岸を生息環境としていた動植物に多大な影響を与えただけではなく、海の生物多様性を産業の基盤としている漁業の復興にも大きく影響します。自然環境の影響評価と回復に向けた活動支援は、漁業の復興にも寄与するものといえるでしょう。
この影響調査の第一歩として、2011年9月11日、松川浦(福島県相馬市)において、底生生物(ゴカイや貝など)調査と鳥類調査を実施しました。
松川浦は砂州によって太平洋と隔たられた南北5キロ、東西3キロほどの汽水湖(海跡湖)です。
福島県立自然公園に指定され、多くの観光客を惹き付ける景勝地として、そして環境省が定めた日本を代表する重要湿地500にも指定される、生物多様性上の保全上重要な地域です。また松川浦はノリやアサリの産地であるとともに、豊かな相馬の漁場を支える場所ともなっています。
松川浦の自然の今
松川浦の象徴ともいえる松林は今回の津波によりことごとく破壊されました。船や自動車なども含め、がれきの撤去作業は今も続いていますが、湖内には今も多くの残骸が山積しています。地元の方は震災後、干潟の出現面積が少なくなったと言います。地盤沈下か海底地形が変化したためと思われます。
今回は、底生生物調査を東北大学の鈴木孝男氏に、鳥類調査を特定非営利法人バードリサーチの守屋年史氏に協力いただき、松川浦内4~5地点において、それぞれ調査を行ないました。
底生生物調査は、コアサンプラーと呼ばれる直径15センチのパイプを地中に差し込み底質を採取し、それを1ミリ目のふるいでふるって出現した生きものを同定するという手法で行ないました。震災前は多くの底生生物が暮らしていたようですが、今回はあまり多くの生きものは確認できませんでした。
鳥類調査は、シギ・チドリ類、サギ類、カモメ類などの水鳥を中心に観察されました。この日は、モニタリングサイト1000のシギ・チドリ類全国一斉調査日でもあり、この調査結果は、過去に松川浦を訪れていた渡り鳥のデータや、他の調査地との比較にも使われる予定です。
WWFでは今後、こうした自然環境調査や、社会経済調査を実施しながら、まず課題と優先事項を明らかにし、自然環境の回復と水産業の復興を進めてゆきます。
さらに、地元の相馬の方々とも意見交換をし、地域の課題と、復興に向けたニーズを細かくフォローしながら、中長期的な支援を実施していきたいと考えています。