福島県の松川浦で「海そう」群落の調査を実施
2012/03/12
2012年3月1日、WWF「暮らしと自然の復興プロジェクト」のモデル地域の一つである福島県相馬市の松川浦において、「海そう」群落の調査を実施しました。津波の大きな被害を受けたと考えられる、この海中の植生は、海の生態系を支える重要な基盤です。今回の調査では、新たな群落も確認され、今後の自然の再生について可能性が示された結果となりました。
海草・海藻を調べる
「海そう」には大きく分けて2種類あります。
ひとつはコンブやアサクサノリ、アオノリなど、岩に根(仮根)を張り胞子をつくる、食材としてもなじみのある「海藻」。
もうひとつはアマモなど、陸上の草花と同様、地面に根を張り花を咲かせ種を作る「海草」で、ジュゴンやハクチョウ類などの食物にもなる、水中の重要な植物です。
この海藻と海草は、どちらも光合成を行ない、多くの生きものの産卵場所、生息場所としての役割を担っています。まさに、海そう群落は海の森といえます。
2011年3月11日に発生した東日本大震災では、福島県相馬市の松川浦も、津波の被害を受け、海藻、海草とも影響を受けました。
特に影響を受けたと考えられるのが海草です。津波によってアマモが生えている地面ごと流されてしまったためです。松川浦では北部を中心としてアマモ群落が広がっていましたが、その多くが消失したと考えられました。
海草の群落(藻場)がどれだけ残り、そして震災後1年が経ち、どれだけ再生したのか。これは、松川浦の自然の復元状態を表す、重要な指標の一つといえます。
また、松川浦では海藻であるヒトエグサ(ノリ)の養殖も行なわれてきました。
今シーズンは放射性物質による海洋汚染への懸念と、津波によって栽培場の環境が大きく乱されてしまったことから、試験的にヒトエグサの種場への胞子散布と栽培、生育状況の調査が行なわれている状況です。
今後、地域の水産業の復興を考える上でも、この海藻類の受けた影響を調べることも、欠かせない取り組みといえます。
水産業との関係と、今後の取り組み
今回、WWFジャパンが、海藻・海草の調査を依頼したのは、株式会社海藻研究所の新井章吾氏です。新井氏はこれまで、島根県の中海をはじめ全国各地の藻場や浅海域の調査の知見に基づき、なぜ沿岸域の環境が悪化しているのか、再生するためにはどのような施策が必要なのかを考え、NPOに協力して実効的な活動を提案、実践している方です。
そして、今回行なった調査の結果、松川浦ではこれまで群落があった北部のほかに、南部でも新たなアマモ場を確認することができ、地番沈下によって生育適地が拡大した可能性が示唆されました。これは今後の、松川浦の自然再生に向けた可能性を示すものともいえます。
さらに、アマモ群落内では、アサリの生息も確認されました。
ただ、生物多様性の基盤とも言えるアマモ場も、漁業者からみると一長一短で、アマモが繁茂しすぎると、アサリ漁の効率が下がったり、漂流するアマモの葉が養殖ノリに付着して質を落とすなど、良いこと尽くめではないようです。
WWFジャパンでは、どうすれば、松川浦の生態系を健全に保ちながら、水産業の復興を図ることができるのか、これからの課題として検討してゆきます。
また、2012年3月末には、松川浦の漁業者の方々に向けて、このプロジェクトの中間報告を行ない、意見交換の場を設けて、共に次の一手を考える予定です。