「暮らしと自然の復興プロジェクト」南三陸町で海洋調査を実施中
2012/06/12
WWFは「暮らしと自然の復興プロジェクト」の一環として、宮城県南三陸町の志津川湾において影響調査を行なっています。この調査は、被災状況等の実態を調査し、東日本大震災により被災した地域の水産業復旧・復興に役立てるとともに、持続可能な水産業への支援を目的としています。今回は、志津川湾の養殖施設に海洋調査機器を設置するとともに、海洋汚染調査のためサンプルとなる魚の調達に行ってきました。
志津川湾の海洋調査機器設置
南三陸町の水産業は、志津川湾におけるカキ、ワカメ、ホタテ、ギンザケなどの養殖業が中心です。養殖施設は津波により全損しましたが、2011年秋より再開され、2012年春より順次出荷されています。
この養殖業の再開にあたり、宮城県漁協志津川支所戸倉出張所では、カキなどの養殖施設を半分に減らし、志津川湾の環境の収容量に合わせた生産体制へと大きく舵を切りました。
これは品質の高いモノづくりを実現すると同時に、環境への影響も大きく減らすことができます。
そもそも、養殖業が及ぼす環境の影響とは、どのようなものでしょうか。
例えば、カキ。カキは海水中の動物プランクトンや有機物を食べるため、水質浄化機能が高い生物とされています。
しかしながら、高密度で養殖を行なうと、カキが排出する糞により海底環境が悪化することが知られています。また魚類の養殖では、排泄される糞や過剰に投与されるエサにより水質や海底環境が汚染される例も報告されています。
戸倉出張所で目指す新しい養殖業を支援する取り組みの一つとして、WWFでは、養殖業の環境負荷測定のため、水温・濁度・プランクトン量を自動計測する機器を、宮城県漁協戸倉出張所の養殖業者に依頼し志津川湾内に設置しました。
設置場所は、カキの養殖場と、ギンザケの養殖場の2か所。
30分に1回の頻度で、水温、濁度、植物プランクトン量を自動計測します。データを約3か月から半年ほどかけて蓄積し、志津川湾で養殖業の環境負荷を分析することで、養殖の環境影響モニタリングの第一歩となるのです。
今後、モニタリング結果を関係者と共有し、環境影響の少ない養殖を行うためにはどのような対策が必要かを話し合っていく予定です。
調査サンプルの調達
また、このプロジェクトでは、震災による影響として海洋汚染調査も実施しています。
あまり問題視されませんが、放射性物質だけではなく、がれきやがれき処理の過程から出るダイオキシンや難燃材といった有害化学物質による海洋生物への汚染も懸念されています。
これらの有害化学物質は微量ながら震災以前から広く生物体内から検出されていましたが、セシウムなどの放射性物質よりも高濃度で生物濃縮されます。
環境省などでも調査を進めていますが、放射性物質とことなり細かなモニタリングや対策がなされていません。
そこで「暮らしと自然の復興プロジェクト」では、愛媛大学沿岸環境科学研究センターの田辺信介教授らに依頼し、調査分析を行なっています。
今回、3月の志津川湾で養殖されたカキ、ワカメ、ホタテ、そしてイガイに続いて、養殖ギンザケ、志津川湾産のヒラメやアイナメなどの魚類を漁協の協力を得て入手、センターに発送しました。
2012年6月1日現在、志津川湾の水産物からは基準値を超える放射性物質は検出されていません(水産庁ウェブサイトによる)が、漁業者にとって目下の最大の心配時は放射性物質による海洋汚染と風評被害です。消費者の懸念を低減、払拭するためには、放射性物質だけではなく、有害化学物質についても検査をしっかりと行ない、情報を蓄積・管理する体制を構築していくことが重要です。
WWFの「暮らしと自然の復興プロジェクト」も開始から1年が過ぎました。
復興は徐々に進みつつありますが、依然として課題は山積しています。WWFジャパンの国内外で培ってきた知見やネットワークを活かし、自然環境の保全と再生、そして持続可能な漁業への応援を、地域の関係者の方々と進めていきたいと考えています。