震災後の調査結果の報告と震災復興に向けたWWFジャパンの提案


東日本大震災から2年半あまり。WWFジャパンはこの間、多くの方のご支援とご協力のもと、被災地の復興と環境保全をめざす「暮らしと自然の復興プロジェクト」に取り組んできました。そして2013年11月、各分野の専門家に依頼した調査結果と、さらには地域の関係者との意見交換等をもとに、復興に向けた提言をまとめた実施報告書を発行しました。この提言は、プロジェクトのモデル支援地域での知見をもとにまとめたものですが、他の被災地域の復興にも通じる内容のものです。

「暮らしと自然の復興プロジェクト」の総括と提言

WWFジャパンが「暮らしと自然の復興プロジェクト」を開始したのは、2011年3月に起きた東日本大震災の直後からでした。

このプロジェクトでは、モデル支援地域として、宮城県南三陸町(志津川湾)と福島県相馬市(松川浦)を選定。自然環境、海洋汚染、漁業経済の各分野の専門家に依頼した調査と、さらには地域の関係者との意見交換等を行なってきました。

それらをもとに、2013年11月、WWFジャパンは復興に向けた提言をまとめた実施報告書を発行しました。

以下の提言は2つのモデル支援地域での知見をもとにまとめたものですが、他の被災地域の復興にも、あてはまる要素を持つものです。

1.自然環境はどうなったか?

今回の調査によると、底生動物、海藻(海草)群落、鳥類などは、震災後半年から1年の間で、生息数(密度)の回復が確認されました。

もちろん、すべての生態系が回復したわけではなく、海岸林などの沿岸植生とそれを生息地とする生物など、回復に長期間を要する環境もあります。

一方、場所によっては、震災がきっかけとなり、環境が改善されたり、新たな環境が生じたことで、生物多様性が震災以前より向上することが期待されています。

これらの自然環境の変化とそれによる影響は、生態系サービスを基盤とする産業に影響を与えます。

関係者と協力の上、継続的にモニタリングし、適切な保全管理計画をたて、復興の過程において生物多様性が再び損なわれないよう配慮することが重要です。

2.海洋汚染にどのように向き合うべきか?

放射性物質による海洋汚染の分析体制は整い、その結果も集積、公開され、多くの情報が利用可能となりました。

しかしながら、残念なことに、福島第一原子力発電所からの放射性物質の流出は、震災から2年半が経つ今もなお続いており、生態系の汚染はより深刻化、長期化するとみられています。

一方、あまり話題にならないものの、がれきの流出に伴うPCBなど有害化学物質による生態系への蓄積、汚染が懸念されています。

これらの化学物質は分析した海洋生物から検出されており、マダラの例では、震災以前より濃度の上昇が確認されており、さらなる実態調査が待たれます。

海洋生態系の保全計画の中でモニタリングと対策を位置づけるとともに、リスクの有無と程度も含めた情報を周知させ、一人一人が正しい対応を心がけることが重要です。

3.水産業の復興を目指して

被災した沿岸地域の主幹産業である水産業は各地で順次復興が進んでいるものの、海洋汚染の懸念が依然として残る福島県とそれ以外では大きく異なります。

復興を進める地域の中には、補助金等を活用した協業化により、生産性の向上や省力化などの効果が得られています。

漁法や魚種、生産構造に合わせた協業体制の構築は、新たな水産業へのきっかけになるかもしれません。

施設や組織の再興はもちろんですが、協業化や震災以前の操業体制を見直すことで、適切な資源管理の徹底や、品質管理、ブランド化など付加価値の創出を進め、自然環境と調和した持続可能な水産業へと転換していくことが重要です。

これからの復興に向けて

各地で復興に向けた動きが進む一方、被災地では今もなお多くの困難に直面しています。

大きな被害を受けた集落は荒れ地と化し、自然環境の保全管理、水産業をはじめとする地域産業を支えるコミュニティも分断されたままです。

また復興事業として行なわれる大型堤防建設については、新たな問題として自然環境へのマイナスの影響が、多くの専門家や地元住民からも指摘されています。

放射性物質による深刻な海洋汚染が長期化している福島県では、水産業などの一次産業はもとより観光業などへの影響も重大です。

海洋汚染に対するモニタリングと情報公開を徹底するとともに、自然再生や資源管理の先駆的なモデル地域として、研究、視察、環境教育などの場としての活用も望まれます。

本プロジェクトの実施にあたっては、調査を実施していただいた専門家の方々をはじめ、被災地の方々、関係団体の方々、さらにはWWFジャパンのサポーターの方々の多くの協力を得ました。

WWFジャパンは今後もこのプロジェクトを継続し、自然環境の保全と持続的な水産業の支援を通じ、被災地の復興に貢献していく予定です。

報告書(PDF)

WWFジャパン「暮らしと自然の復興プロジェクト」実施報告書

WWF Japan Report on the Nature and Livelihood Recovery Project [Executive Summary]

関連情報

この記事をシェアする

人と自然が調和して
生きられる未来を目指して

WWFは100カ国以上で活動している
環境保全団体です。

PAGE TOP