国連気候変動ボン会議(ADP2.4)報告
2014/03/20
2014年最初の国連気候変動会議(ADP2.4)が3月10日~14日の日程で、ドイツ・ボンにて開催されました。今回は、2015年に予定されている新しい国際枠組み合意(2015年合意)へ向けての交渉を加速できるかどうか、そして、2020年までの各国の排出量削減の取り組みを底上げする具体策を生み出せるかどうかが大きな論点でした。内容面では大きな進展はありませんでしたが、交渉の場の格上げが行なわれたり、合意の下書きに当たる「交渉テキスト」の作成過程が話題になったりするなど、2015年の合意へ向けていよいよ交渉が本格化する兆しが見られました。
2015年合意へ向けての交渉本格化の兆し?
現在の交渉は、2011年のCOP17・COP/MOP7(国連気候変動枠組条約第17回締約国会議・京都議定書第7回締約国会議)で設立された「ダーバン・プラットフォーム特別作業部会(ADP)」という場で、以下の2点を中心にして行なわれています。
- 2015年までに、2020年以降に関する新しい国際枠組み合意を作ること
-
2020年までの各国の排出量削減の取り組みを底上げする具体策を生み出すこと
現在、世界の国々は京都議定書の第2約束期間(2013年~2020年)の目標を持っているか(欧州など)、あるいは、2010年のカンクン合意の下で自主的な排出量削減目標・削減行動計画を掲げています(アメリカ、日本、途上国など)。
「2015年合意」の中心となるのは、京都議定書の第二約束期間(2013年~2020年)が終了する2020年以降、世界の国々が、いつまでに、どれだけ温室効果ガスの排出量を削減するか、その目標を明確にすることです。
また、2020年までの排出削減の「底上げ」とは、各国が、今やろうとしていること以上に、何を追加でできるかについての検討です。
現状、世界各国が掲げている2020年までの削減目標や削減行動計画では、地球の平均気温上昇を「2度未満」に抑えるという国際目標には到底足りないという分析を受けての対応です。
今回の会議も、2013年の会議から引き続き、これらの論点について議論が続けられました。 2012年の「ドーハ気候ゲートウェイ」と呼ばれる合意によって、今後のスケジュールが決まっています。
それによると、2014年末までに「2015年合意」に入る「要素」の議論を開始し、2015年5月までに新しい合意の下書きに当たる「交渉テキスト」を準備するということが決まっています。
加えて、2013年のワルシャワ合意によって、各国がそれにむけて準備することとして、新しい国際枠組みにおける国別目標案(排出量削減目標など)を、2015年12月の会議よりも「相当前に」かつ「その準備のある国は2015年第1四半期(3月)までに」提示するということが合意されました(表 1)。
時期 | 予定されていること |
---|---|
2014年12月 | COP20・COP/MOP10:2015年合意の「要素」の議論 |
2015年3月 | 「その準備のある国は」国別目標案を提示 |
2015年5月 | 「交渉テキスト」が準備される |
2015年12月 | 新しい国際枠組みの合意 |
今回の会議では、1週間弱の交渉の結果、大きな進展があったとは言い難いですが、重要な動きが3つありました。
- 交渉の場がコンタクト・グループというより公式度の高い場に(次回から)移行することになったこと
- 各国が2020年以降について掲げる目標をどのようなものにするべきかの議論が始まったこと
- 今回から始まった「専門家会合」が、国連気候変動会議に新しい役割を与える可能性が出てきたこと
全般の雰囲気としては、2015年12月という新しい国際枠組み合意予定まで2年を切ったことで、いよいよ本格的な「交渉」へと突入していく兆しが見え始めました。
この本格化してく交渉の中では、日本も遅かれ早かれ、「2020年以降、日本はどのように貢献していくのか」を問われていくことになります。
その際に、自国の削減目標すら議論を始めていない状況では、出遅れることは必定です。日本でも、新しい国際枠組みのあり方とともに、その中でどのように貢献していけるのかの議論がされなければなりません。
以下は、上記それぞれの動きについての報告です。
コンタクト・グループの設立と「交渉テキスト」議論
過去2年のADPでの2015年合意へ向けての交渉は、「自由協議(open-ended consultation)」という形式で議論が行なわれてきました。
いきなり本格的な交渉モードに入ってしまうより、当初は自由な意見交換を行なう形にした方がよいであろうという判断からでした。
しかし、今会議冒頭から、途上国グループは、「今後の本格的な交渉のためには、現在の『自由協議』から、より公式度の高い『コンタクト・グループ』という形式に移行するべきだ」との主張をしていました。
とりあえず今回の会議については、これまで通り自由協議の形式のまま議論が開始されましたが、週半ばで開催された経過報告の総会で、途上国は再び「2015年までに合意するために公式度の高い形式に移行する必要がある」と強く主張。
会議最終日にコンタクト・グループという、より公式度の高い場を設立し、次回から本格的な交渉形式へと移っていく方向に議論が流れました。
先進国グループは、現在のままの方が自由な議論ができてよく、まだ時期尚早ではないかという意見が主でしたが、交渉の本格化自体に反対するものではないので、最終日、コンタクト・グループの設立が正式に決まりました。
この議論の中で、同時に、どのようにして「交渉テキスト」を作っていくべきかということも話題になりました。
交渉テキストとは、2015年末にフランスのパリで開催される国際会議(COP21・COP/MOP11)の場で予定されている「2015年合意」の下書きとも言うべきもので、交渉の土台となるものです。2012年のドーハ会議の決定で、2015年5月までにこの「交渉テキスト」を作る予定になっていました。
しかし、2014年12月の締約国会議(COP20・COP/MOP10)の議長国であるペルーは、それを前倒しにして2014年の会議で成果として作りたいという希望を持っており、その背景もあってか、今回の時点で交渉テキストを作り出す過程についても議論がありました。
議論が未成熟なため、本当に12月の会議の時点で交渉テキストまでたどり着けるかどうかは不明ですが、今回の時点で交渉テキストにまで議論が及んだこと自体がやや驚きです。先の交渉の場の移行と合わせて、いよいよ交渉が本格化していく兆しととれます。
国別目標案に含まれるべきものは何か
2013年のワルシャワ会議(COP19・COP/MOP9)の決定により、今後各国は、「2015年合意」の中心となる目標案を準備していくことになりました。
この「目標」とは、すなわち2020年以降の新しい国際枠組みの中で、世界の国々がいつまでに、どれだけ温室効果ガスの排出削減を行なうか、というその内容です。
たとえば、2020年からいつまでを期間とするか、については、多くの国が、2030年もしくはその前後を目標年にすると考えられます。
こうした各国が出す案は、「国別目標案(intended nationally determined contribution)」と呼ばれ、ワルシャワ会議では、各国が提出する期限について、極めて弱い表現ながら、「2015年3月」という時期が示されました。
そして、今回の会議では、このワルシャワでの決定を受けて、国別目標案にいったい何が含まれるのか、また、それを各国が準備して発表する際には、どのような情報が盛り込まれなければならないのかの議論が開始されました。
この議論については、先進国と途上国の間に対立が生じています。 基本的な対立のポイントは、国別目標案の中に何を含めるか、という下記のそれぞれの主張にあります。
先進国 | 国別目標案の核となるのは、温暖化を「緩和」するための目標、つまり温室効果ガスの「排出量削減」である |
---|---|
途上国 | 国別目標案の中には、温暖化の影響に対する「適応」またそのための「資金」なども含むべき。これまで温暖化を引き起こしてきた先進国は、途上国に対し、資金・技術・能力開発の支援を行なう条約上の義務がある |
また、2013年の会議の際には、先進国も途上国も区別なく「国別目標案」を準備することに合意がされましたが、途上国の中には、まだ根強く「先進国と途上国をきちんと区別すべきだ」という意見が残っています。
また、国別目標案を提示する際に盛り込むべき情報の要件についても、議論が始まりました。
緩和(排出量削減)目標を例にとれば、京都議定書の時のように、原則1990年比からX%という形で統一されていれば、盛り込むべき情報も比較的容易に特定できます。
しかし、「2015年合意」による新しい枠組みは、先進国のみが排出削減数値目標を持っていた京都議定書と異なり、途上国もなんらかの国別目標案を提示することが期待されているため、その形式は多様な形をとると考えられています。
たとえば、GDPあたりの排出量をX%減らす、というような目標です。
この場合は、GDPの成長率をどれくらいに想定しているか等の情報がなければ、他の国も目標と比較したり、全ての国の合計を出したりすることができません。
さまざまな形式の目標が出てくる際に、どのような情報がなければいけないのかを決めることが、2014年の1つの課題です。
この課題が単に「計算ができない」という技術的な問題以上に重要なのは、その後に控えている「各国の目標を(最終的に合意に盛り込む前に)評価し、見直す」という過程の基礎になるからです。 細部に関する意見も出たものの、今回は、交渉としては細かい内容を詰めるところまではいきませんでした。しかし、各国が本格的に国別目標案を準備していくためには、そもそもそれに何が含まれるのか、そして、実際に案を提示する時にはどのような情報を盛り込まなければならないのかを早めに決めていかなければなりません。
再生可能エネルギーと省エネルギーに関する専門家会合
2013年のワルシャワでのCOP19の成果の1つとして、「専門家会合(Technical Expert Meetings)」をADPの下で開催するという決定がありました。
これは、各国の「2020年までの排出量削減の取り組み」を底上げするために、排出量削減のポテンシャルが高い分野で何ができるかを議論するために設立されたものです。
初回の今回では、再生可能エネルギーと省エネルギーの分野に関する議論が順番に行なわれました。 各国代表とそれぞれの分野での国際的な専門機関(国際再生可能エネルギー機関(IRENA)、国際エネルギー機関(IEA)、グリーン気候基金(GCF)など)がプレゼンをして、その後に意見交換という形式がとられました。
図 1は、IRENAによるプレゼンで、再生可能エネルギーのシェアを2倍にすることが、2030年で8.6Gt近い削減につながることを説明したものです。 こうした全体像を俯瞰するプレゼンから、各国や各国際機関のイニシアティブとその課題についてプレゼンまで、様々なプレゼンと意見交換がありました。
図 1:IRENAによるプレゼンからの抜粋
国連気候変動会議は、これまでの歴史の中では、どちらかといえば、「国際レベルでの目標やルールを作る」ということに専念してきました。
しかし、この専門家会合は、再生可能エネルギーや省エネルギーの分野で、各国にどのような取り組みがあり、そこから何が学べるのか、そして、よく見られる障害や難しさは一体何なのか、そして、それらを克服していくために、様々な国際機関間・国家間の協力や国連気候変動会議の場が、一体どのような役割を果たせるのかが議論されました。
「ルール形成」よりも「具体的対策促進」に重きを置いた議論であったと言えます。
こうしたことがあえてこの場で行なわれることになった背景には、政治的になりがちな目標議論を避けつつ、具体的なイニシアティブの推進を何とかしてはかれないかという小島嶼国連合(AOSIS)の提案に多くの国々が共感したからでした。
初回ということもあり、やや運営上の難しさもありましたが、総じて参加した国々の評判もよく、実際の対策レベルでの協力を促すために、国連気候変動会議がどのような役割を果たせるのかを、もっと突き詰めようという雰囲気が出てきました。
今回の会議をもって、この専門家会合が具体的成果を生むと断定するには早すぎますが、国連気候変動会議がこれまで担ってきた国際目標やルール形成という役割に加えて、政策イニシアティブの促進、パートナーシップの構築、経験共有の場の提供といった役割を果たす可能性が見え始めました。
これが具体的な排出量削減の取り組みにつながり、少しでも2020年へ向けての削減努力の底上げに貢献できるか、WWFとしても注目していきたいと思います。
日本にとって
上述の通り、これから、2015年合意へ向けての交渉は本格化してくと考えられます。 その中では、「どのような国際枠組みが作られるべきなのか」という全体像に対する考え方と、日本自身が「その中でどのような貢献をしていくのか」、特にどのような削減目標で貢献していくのかが問われていくことになります。
逆に言えば、それらがなければ、今後の国際交渉で出遅れることになります。
それは、世界全体にとっても、そして日本にとっても不幸な結果となるでしょう。 今回の会議の動向を受けて、国内の議論が加速化させることが必要です。次回6月の会議には閣僚級会合も併催される予定であり、また、9月には潘基文国連事務総長の呼びかけでの気候変動に関する国連特別首脳会議もあります。
そうした機会を活用しつつ、日本としての積極姿勢をまとめていかねばなりません。