「わいるどアカデミー+(ぷらす)」第4回 開催報告
2014/01/21
WWFの活動について、担当職員からサポーターの皆さまに直接報告し、スタッフと参加者が交流することを目的としたイベント「わいるどアカデミー+(ぷらす)」の4回目を、2013年11月28日、WWFジャパンの東京事務所で実施しました。今回は、2012年にブータンで始まったプロジェクトの現場から、ゲストを招いての報告です。11月下旬にしては暖かい木曜の夜、32名のサポーターの方にご参加いただきました。
国立公園のマネージャーが直接説明!
今回のテーマは「TraMCAプロジェクトの現状と未来」。TraMCA(トラムカ)とは、「国境を越えたマナス保護地域」の略称で、ブータンからインドへ国境をまたいで流れ込むマナス川流域の国立公園を中心とした区域の、保全活動を目指すものです。
日本で実施される国際会議に出席するため来日した、ブータンのロイヤル・マナス国立公園の管理事務所長、テンジン・ワンチュクが東京事務所に来局、講師を勤めました。
テンジン・ワンチュクは、2009年からロイヤル・マナス国立公園の所長を勤めています。同公園にほど近いツェムガンという農村に生まれ、ブータン国内の大学を卒業。その後は農林省に就職し、同省からウィーンのボク大学に派遣され、森林と野生生物の管理を専攻、修士課程を修了しました。
海外生活の経験もあるワンチュクは、WWFジャパンの支援でできたことを紹介しながら、ロイヤル・マナスの重要性や環境保全において目指すこと、そして直面している問題を、流暢な英語で語りました。
8種ものネコ科動物が生息!ブータン南部の貴重な自然
九州と同じほどの国土をもつブータン。大国ではありませんが、海抜が4,000メートルを超える北部と、150メートルまで一気に降下する南部とで、その自然環境はまったく異なります。
ワンチュクはまず、こうした自然環境の特徴を説明した後、ロイヤル・マナス国立公園の紹介に入りました。
東京都の約半分ほどの広さのロイヤル・マナス公園で、58種の哺乳類、430種の鳥類、900種を超える植物が確認されています。この公園の生物多様性の豊かさを何より端的に示しているのは、7種ものネコ科動物が生息しているという事実。肉食動物がこれだけ生息するということは、これを食料とする草食動物を支えられるだけの豊かな自然があることを意味するからです。
赤外線カメラでとらえられたこれら動物たちの写真に、参加者の皆さんは、思わず身を乗り出して見入っていました。
ワンチュクはまた、ロイヤル・マナス国立公園内では人が居住できる区域が指定されており、約10,000人が農業と酪農をおもな生計手段として暮らしていること、家畜の頭数も約6,000頭を数えることを説明しました。
しっかりした体制のもと進められる、ロイヤル・マナス国立公園の管理
ワンチュクは次に、この公園の管理組織や体制について説明。違法行為の取り締まりやパトロール、動物の生息数調査、開発や土地利用といった、環境保全活動には不可欠な事柄に対応する組織になっていることをご紹介しました。
ロイヤル・マナス国立公園の運営については、2008年という早い時期に5年に渡る長期計画が策定され、それに沿って進められてきました。 2013年はその最終年にあたります。目下次の5か年計画を検討中で、WWFジャパンからの支援によって行われる保全活動も、これからの計画に組み入れられることになります。
参加した皆さんは一様に、ロイヤル・マナス国立公園がしっかりとした計画と組織で運営されているという印象を強く持ったようでした。
木材は輸出しない!自然を守る、ブータンの戦略
現国王の父親、ジグミ・ドルジ・ウォンチュック国王の時代、ブータンは、国土の半分以上が自然保護区に指定されました。
しかも同国では、木材を輸出せず、もっぱら国内での需要に応えるためにのみ利用しており、一世帯あたりの木材使用量まで定めています。そのため今も、豊かな森林が国内に広く残ります。
これは、国民幸福度の指標のひとつである「自然と森」を守るためのブータンの方針です。初めて聞く話に、参加者の皆さんは皆、感心していらっしゃいました。
しかし、良い話ばかりではありません。ブータンは北を中国、南をインドと接します。強大な新興国の周辺部では、急速な経済成長と人口増加の影響を受け、野生生物の密猟や、木材の違法な伐採、またその違法な取引を進めようとする圧力が、年々強まっています。
大きな懸念となっているのが、インドのアッサム州からの住民の不法侵入です。 アッサム州では2003年頃まで、自治権を主張する反体制派の少数民族と中央政府の間で激しい抗争が繰り広げられていました。
その反体制派が拠点を確保するために、国境を超えてブータンの山中に流入しました。木材の違法な伐採や、野生動物の密猟が誘発されたほか、家畜とともに移入してくる住民もいたため、環境を守る上で、望ましくない場所での放牧が増加しています。
また、拡大した農地に野生のイノシシの群が大挙して訪れ、人とのあつれきも起こっています。日本の中山間地域でも見られる問題ですが、イノシシのじっさいの画像を見た参加者は、驚きの声をあげていました。
そのほかにも、調査研究の人員不足や、悪路しかない、あるいは道すらない区域でパトロールしなければならない制約など、いくつかの課題があげられました。
日本の支援で既に進んでいることも!
これからチャレンジすべきこともあるTraMCAプロジェクトですが、日本からの支援により、既に着手していることもあります。ワンチュクは感謝の言葉とともに、これまでの成果を説明しました。
そのひとつが、公園内に生息する野生生物の生態調査です。WWFジャパンからの支援で、草食動物がミネラルを補給する「塩舐め場」と水飲み場の分布調査も行なわれました。
これは、草食動物の分布や生息の密度、ひいてはそれを食料とするトラなどの肉食動物が何頭くらい生きることができるかを推測する手がかりにもなります。
違法行為を取り締まるための活動にも、日本の支援が役立っています。公園の中心部にこのたび、違法行為を監視するための「監視タワー」が完成しました。パトロールを行なうレンジャーの重要な活動拠点になる予定です。
ご参加者からもエールの声
ロイヤル・マナス国立公園の運営に従事し、第一線で活躍する講演者からの話により、つどいにご参加くださった皆さんには、プロジェクトの成果や今後の計画、その課題やチャンスについて、よくご理解いただけたようでした。
ご参加いただいた方の声を、いくつか紹介します。
- 動物を保護するということが、動物と直接かかわるイメージが強かったのですが、むしろ環境を保護するのが大切だとよくわかりました。
- ブータンの自然の豊かさ、それを守るための様々な取り組みがわかって興味深かったです。今度の活動にも注目していきたいと思いました。
「わいるどアカデミー+(ぷらす)」でのブータン・プロジェクトの紹介は、2012年に続いて2度目でしたが、今回はロイヤル・マナス国立公園に焦点を当てた具体的な話と、これまでの支援による成果のご報告をすることができました。
今回は、約3分の1の方が、過去アカデミー+(ぷらす)にご参加いただいている方でした。
サポーターの皆さまに、徐々に定着してきた「わいるどアカデミー+(ぷらす)」。皆さまに喜んでいただけるイベントとして、これからも工夫をこらして実施してゆきますので、皆さまのご参加をお待ちしています!