やんばる国立公園指定に対する声明


声明 2016年9月15日

2016年9月15日、環境省により沖縄本島北部のやんばる地域が、国立公園に指定された。WWFジャパンはこれを、現状で多くの課題を抱える、南西諸島の貴重な自然環境を保全する一歩として、歓迎の意を表する。

やんばるには、南西諸島の中でも最大級の面積を誇る亜熱帯の森が残り、ヤンバルクイナやヤンバルテナガコガネをはじめ、WWFの調査の結果、30年ぶりに生存が確認されたオキナワトゲネズミなど、国際的にも希少かつ固有の野生生物の生息地となっている。

今回の国立公園指定はその生物多様性の価値を認め、広く発信する機会になるとともに、世界自然遺産への登録を見据えた、実質的な保全のためのステップとなることが期待される。また、やんばる3村と呼ばれる国頭村、大宜味村、東村における自然環境の保全と、エコツーリズムをはじめとする持続可能な利用を通じた地域振興モデルを今後実現していく上でも、意義のある指定といえる。

また、やんばる国立公園の特色として公園計画書にあるとおり、今回保護の対象として指定された景観には、亜熱帯の森が広がる山地からマングローブを含めた沿岸域まで、多種多様な生物で構成された生態系の広がる自然が含まれている。

これらの自然環境を「複合的に一体となった景観」として地域社会がその自然の恵みを享受し、敬いながら文化の維持継承が行なわれてきた点を重視し、これら地域の営みを含めた保全方針が出されており、画期的な国立公園整備と評価できる。

一方で、やんばる地域の農地から発生する、海への赤土流出問題は今も続いている。2014年よりWWFジャパンは地元の行政や農業関係者、教育機関、保全NPOらと共に、地域が連携して対策を実施する体制の確立を目指してきたが、問題の解決のためには、今後はさらに広域での取り組みが求められる。

さらに希少種の盗掘・密猟の問題、米軍基地に属する広大な面積の北部訓練場で現在も進められている施設建設工事および軍用機等の運用に係る環境影響、観光利用の増大に伴う野生動物の交通事故(ロードキル)の増加など、野生生物やその生息地を脅かす課題は、いまだ多い。これらは、今回の国立公園の指定のみで解決できる問題ではなく、やんばるの自然を総合的に保全していくための対策が急務である。

これらの課題に対し、2016年3月にパブリックコメントを通じてWWFジャパンが要望した内容のうち、特に国または県が地方自治体や地元関係者と連携し取り組むべき課題や事項について、以下に記載する。

WWFジャパンは今回の決定を歓迎するとともに、今後、これらの内容について、速やかに検討が図られ、具体的な計画や方針策定が進められることを期待する。

  • 国は、県や地元自治体と連携し、民間NPOや専門機関らとの共同を通じて、特定外来生物の対策とモニタリングが行なわれる実施体制を構築すること。また地域住民への理解拡大に向けた広報・普及活動の拡充を図ること。
  • 国は、米軍基地(北部訓練場)区域について、全域の返還に向けた両国間での合意スケジュール策定と、日米地位協定に基づく合同委員会を通じて、公園区域に隣接する周辺の地域での既存施設及び軍用機や車両の使用の削減または中止を図ること。
  • 国及び県は、地域の林業、農業に起因する環境影響の包括的な対策事業を、3村(国頭村、大宜味村、東村)の連携のもとに取り組み、保全型施業を拡大推進する中長期的な事業計画を策定すること。
  • 県は、地元自治体と連携し、科学的調査に基づく環境許容量を基に、地元観光ガイド事業者らが参加した適正な利用ルールと監視体制を整備すること。その際、一部の観光ガイド事業者が行なっている、ガイド料から地域の保全活動に拠出する仕組みを拡大した基金の設立と、他の事業者らへの参加拡大に向けた協議会を設立すること。
  • 地元自治体の3村は、国及び県の協力を得て、自然環境の保全と持続的利用を横断的に取り組む、広域保全マスタープランを策定すること。

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