【WWF声明】石炭火発の廃止年限明示に踏み込めなかったG7環境大臣会合コミュニケに抗議する


2024年4月30日、イタリアのトリノで開催されたG7気候・エネルギー・環境大臣会合は、共同声明(コミュニケ)を採択した。WWFジャパンは、当該コミュニケが具体的な目標に乏しく抜け道を残したことで、化石燃料からの転換の加速には不十分な内容に留まったことに抗議する。

当該コミュニケでは、既存の石炭火発の廃止期限として2030年代前半という年限が示された。これまでのG7コミュニケと比べると一歩踏み込んだ内容である点は評価できる。しかし、「各国のネットゼロに向けた排出経路に沿い、気温上昇を1.5℃に抑制可能にすることと整合したタイムラインで」段階的に廃止するという文言で抜け道を残している。またそもそも、IEAのネットゼロ・シナリオではOECD諸国は2030年までに石炭火発を廃止することが国際的に求められていることに鑑みると、依然として遅い。また運輸部門の脱炭素化に関しても、全ての新車販売を2035年までにEVにするといった、EV導入に関する具体的な数値・年限の目標を強化し、設定するべきであった。

WWFジャパンは、日本政府に対して、今回のG7でも議論を牽引するのではなく遅らせる側に回ったことに対して強い失望の念を抱くとともに、今後の国内政策では次の3点を実施することを要求する。

(1)次期NDCのGHG削減目標を、2019年比で2030年までに43%減、2035年までに60%減を上回る形で設定すること

 IPCC第6次評価報告書統合報告書は、パリ協定の掲げる1.5度目標の達成に向けては、世界全体のGHG排出量を2019年比で、2030年までに43%減、2035年までに60%減が必要と示す。これは、2023年開催のCOP28で合意された第1回グローバルストックテイク成果文書でも確認されており、各国はそれに整合するGHG削減目標を含んだNDCの提出が2025年には求められる。
 日本でも、次期NDCの作成に向けた議論がまもなく始まることが予想される。排出削減に向けた責任と能力を持つ先進国として、日本は上記の削減量を上回る形で、2030年目標を強化し、2035年目標を新設するべきである。

(2)第7次エネルギー基本計画では、石炭火発の廃止計画と再エネの最大限導入の方向性を打ち出すこと

エネルギー基本計画の改定に向けた議論も、早晩開始されることが予想される。次に策定される第7次エネルギー基本計画も、国際的な脱炭素化の流れに整合させる必要がある。

まず、2030年までに国内の石炭火発を全廃するという目標、及びそのための計画を盛り込むべきである。今回のコミュニケで不十分ながらも石炭火発の廃止年限が示されたことは石炭火発に対する厳しい視線の更なる高まりを示す。また、「排出削減対策」とは、IPCC第6次評価報告書第3作業部会報告書が示すとおり、火発から排出されるCO2の90%以上を削減・回収することであり、水素・アンモニア、CCSの活用で2030年代にそうした水準が達成できる可能性は乏しい。

同時に、太陽光・風力といった再エネの設備容量を国内でも早期に3倍にするなど、再エネを最大限導入する方向性とそれを可能にする政策を示すべきである。そうしてはじめて企業の予見可能性を確保でき、既存技術の導入拡大や、ペロブスカイト、浮体式洋上風力といった新しい再エネ技術の研究開発に資源を振り向けることが可能になる。

加えて運輸部門では、日本独自の「電動車」の定義を見直し、端的にEVの普及拡大を図るべきである。その上で、2035年までに新車販売の全てをEVにする形で目標を強化し、日本企業が世界市場で競争できるように必要な支援策を盛り込む必要がある。

(3)資金の流れを化石燃料から再エネ・省エネ・電化に転換し集中させること

今回のコミュニケでも言及されているように、資金の流れをパリ協定の目標に整合させることが必要である。対外的には途上国に対する資金支援に関する各種の国際約束を早期に果たすことが求められるとともに、国内では化石燃料の延命につながる支援策を止めていくべきである。
 例えば、水素・アンモニア、CCSを電力部門で使用することを目指して資金を投じるべきではない。水素・アンモニアは当面化石燃料由来であることから混焼しても排出削減効果が乏しく、CCSは適地が非常に限られる。またいずれも高額で大規模に実装する目処は立っていない。これらを資金支援することは、電力部門での化石燃料利用を長期化させる点で実質的には化石燃料への補助金に相当する。
 こうした分野ではなく、既に確立した技術であり、安価でもある再エネに資金を振り向ける必要がある。加えて、その再エネを余すところなく活用するために、省エネ・電化にも積極的に資金を投じるべきである。それを通じて、エネルギー自給率を高め、化石燃料の輸入依存度を低減してこそ、エネルギー安全保障の要請も満たされる。

 1.5度目標の達成に重要な節目である2030年まで期限が迫る中、2024年は今後の温暖化対策の方向性を大きく左右する議論が国内でなされていく。日本は、2030年を超えて石炭火発を延命することに固執し、G7の議論の足を引っ張り、孤立しているが、1.5度目標の達成を確実にする道筋が世界の趨勢である中、日本が逆行したエネルギー政策を継続することは日本企業の国際競争力をそぐ。今後のエネルギー基本計画や2035年NDCの議論において、少なくとも上記3点が確実に打ち出されることが必要である。

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