奄美群島国立公園指定に対する声明
2017/03/14
2017年3月14日
(公財)世界自然保護基金ジャパン
2017年3月7日に、奄美群島国立公園の指定が環境省より告示された。WWFジャパンは、生物相の豊かな南西諸島において保全に取り組む立場から、この保護区域指定の施策に対し歓迎の意を表する。
1980年の世界自然保護戦略(WWF、IUCN、UNEP策定)において、南西諸島が島嶼生態系の点で世界において保全すべき地域として報告されて以降、WWFジャパンでは、保全上重要な地域として、保全や普及啓発活動に取り組んできた。 WWFジャパンは、国際的に優先保全地域として活動を展開する南西諸島において、過去に多くの研究者らと取り纏めた「WWFジャパン南西諸島生物多様性評価プロジェクト」においても、陸及び海の生態系として重要保護地域を数多く有する地域であることが確認されている。またWWFが保全プロジェクトとして現在取り組む、アマミノクロウサギの生息地の奄美大島や徳之島の陸域のほか、群島内の陸域及び海域を含め、その面積はおよそ7万5,000haに及ぶ広大な国立公園が成立したことは、今後の南西諸島の保全施策を図るうえで意義のあるものである。
今回の国立公園指定は自然の価値とともに「地域の暮らし・営みと自然環境の保全のバランス維持に貢献」する、国による保護区域の指定として先進的なものである。2018年の世界自然遺産登録に向け、地元の行政や観光産業のみならず、住民を含めた様々な関係者が、改めてその自然価値を認識し、持続的な利用に向け取り組むきっかけとなることが期待されている。 一方で、今後観光利用の増加に向けた地元の受け入れ態勢や利用ルールの整備、未対策状態にある外来種による希少種への影響やその管理体制の不足など、引き続き地域が直面する課題の対処に予断を許さない状況である。
今回の国立公園の指定および利用計画でも、解決への道筋はいまだ見えていない。国及び地方レベルの行政の取り組みに、地元民間産業が協力し取り組むことにより、長期的視野で奄美群島の自然を総合的に保全していくことが急務である。
WWFでは昨年に、奄美群島国立公園の指定に向け募集されたパブリックコメントの機会を通じて国として対処を促すよう要望してきたが、今回の指定内容において、その対処・取組方針が十分図られているとは言えない。引き続き以下の項目について検討がなされ、世界自然遺産登録に向けて具体的な計画や方針策定が進められることを求める。
生態系保全上の指定区域・保護管理体制
希少生物の生息域の分断による遺伝的、環境的リスクが考えられる地域については、人間社会との軋轢を考慮した生息域間のコリドー設置や観光等の利用制限等による保全措置など、地元自治体や産業関係者らと共にすすめること。
持続的な観光利用に向けた地域ルールの整備
今後増大が予想される観光利用及び新規参入事業者らに対し、島ごとまたは地域ごとの科学的調査に基づく適正な環境収容力を把握すること。またその継続的モニタリングの実施と共に、それら情報を地元自治体および、観光事業者らと共有するとともに、それらが参加した適正な利用ルールの整備・順守に向けた、相互の監視体制を図ること。その際、やんばるなど他地域での観光ガイド事業者が行なっている、ガイド料から地域の保全活動に拠出する仕組みを参考にした基金の設立や、地元住民向けの環境学習の機会提供を進めること。
地域が主体となった保全管理体制の推進
地元自治体の支援と共に、地元環境NPOや観光ガイド等の事業者らが協働し、当該地域の自然環境を含む国立公園の利用管理及び現在抱える外来種などの課題について、横断的に協議を行う連絡協議会などの地元体制の構築に取り組むこと。この地元体制が主体となり、域内への訪問者や観光客に対し広報・啓発及び地元の環境教育活動などに、連携して取り組むこと。さらに、密猟・盗掘や観光利用による生態系への影響などの監視、管理、情報共有を通じ、自然環境の保全に主体的に取り組むよう、国、県、及び自治体は事業化を含む支援を行うこと。
環境保全に関する住民への広報・学習機会の充実
地元小中学校など教育機関において、総合学習のカリキュラムとして、国立公園を含む地元自然環境やそこで営まれてきた文化及び現在抱える課題について、学習機会の充実を図ること。この際、上記の連絡協議会などの地元で自然環境の利用と保全にかかわる関係者が協力するとともに、国立公園を活用し若年層のみでなく広く住民一般向けへ広報・啓発を図る機会を創出すること。これらの機会を通じて、住民の一人一人が環境価値とその地域課題について、多角的に理解し保全に取り組むことを目指した、島ごと又は地域ごとに特色のある内容となるよう地元自治体が協力して、支援すること。
外来種問題についての対策の拡大
本公園地域を含む南西諸島全域の諸島において大きな課題となっている外来種の問題について、これまで対策事業が進められてきたマングースのほかに、ノネコ、ノヤギ、ノイヌなどの対策が不十分なものを喫緊の課題として、2015年に制定された「外来種被害防止行動計画」に則り、特に侵略的外来種の根絶を目指して取り組むこと。この際、地元自治体のみならず地域及び広域なNPOや専門機関らと連携した官民協働による対策とモニタリングの実施体制の構築を図ること。また、住民の飼育管理の理解とマナーの向上のため、地元NPOらと連携した啓発・普及や対策活動への補助事業の充実を図ること。 さらに島嶼域における閉鎖的生態系の保全上、外来種導入の予防原則に則って、空港や港での人や物の確認・監視など水際管理の実施体制を強化するとともに、離島間を含む国内での物資・資材混入などによる地域間の外来種導入要因とならないよう、十分な対策を図ること。
海域生態系の保全推進
現在、南西諸島全体でサンゴ礁生態系が衰退する傾向にあるなか、奄美群島国立公園に発達するサンゴ礁とその生態系は、日本の生物多様性を保全するうえで極めて重要な海域と位置付けることができる。この為、今後作成する公園管理計画の基本方針においてサンゴ礁海域の保全に対する具体的な方針を示すとともに、公園区域内の造礁サンゴ群集の状況を把握するための継続的なモニタリングの実施、モニタリング地域の拡大を図ること。
以上
出典: UNEP, IUCN, WWF (1980) 「World Conservation Strategy(世界保全戦略‐持続可能な開発のための生物資源の保全)」