干支のコラム:蛇の問いかけ
2013/01/02
2013年 巳の年を迎えて
手足を持たず、飛ぶ翼も、泳ぐヒレも持たない。
神秘そのものといってよい姿を持つ蛇(へび)は、実際、途方もなく不思議な魅力を持つ生き物だ。
世界に無数に存在する神話や伝承の中で、蛇はしばしば生命の力の象徴とされてきた。
脱皮は新たな生まれ代わりを、自分の尾をくわえた蛇の輪は、永遠の循環を象徴する。無限と、自ら再生する命の力のシンボルである。
あまたの物語に登場し、太古の世界の怪物として退治される巨大な蛇たちも、秩序によって統制される以前の、原初の生の力の体現なのかもしれない。
エデンの園で、蛇が「知恵の木の実」を食べるよう人をそそのかし、神に「最も呪われた獣」とされた旧約聖書の話は有名だが、それより以前の中近東の地で、女神と蛇が神と崇められていた歴史をふまえれば、これも見方が変わってくる。
豊穣を司る母なる地の神と、永遠の命を象徴する蛇。
片や、これを征服した父なる天の神は、すべてを創り、与える存在であった。
蛇の力は断罪され、無限の循環は断たれ、そして命のベクトルはその方向を変えねばならなかった。
めぐる輪から一直線に、「最後の審判」という終末に向けて。
目的に向けた前進、進歩、限られた時間の中での最大限の努力。
こうした何らかの「終着点」を目指す生き方の方向性が、人に発展をもたらしてきたことは確かである。
しかし、その行き着いた先、今この世界で「循環」という言葉が、強く意識され始めている。
「右肩あがり」が良いとされる世界。その「終末」に何があるのか?
人はそこで、本当に幸せに生きられるのか?
自分の尾をくわえた蛇が、問うている。
私たちは、見つけられるだろうか。
エデンの園で見失った、調和と循環への道標を。
(会報『WWF』2013年新年号 より)