地元NPOと共に博多湾の自然環境に配慮した福岡市に感謝状


2012年11月、 WWFジャパンは、渡り鳥の生息に配慮した事業を実施した福岡市に対し、感謝状を贈呈しました。これは、博多湾における名島海岸整備事業に際して、地元NPOとの緊密な協働のもと、自然環境に配慮した事業を表彰したものです。福岡市とNPOの連携による今回の事例は、これからの行政の活動のあるべき一つの姿を示すものとして、今後の展開が期待されます。

都市の干潟と渡り鳥

福岡市に面する博多湾。ここは、東部の和白干潟、西部の今津干潟をはじめ、貴重な湿地環境が点在し、シギ・チドリ類、クロツラヘラサギなどの渡り鳥、カブトガニなどの希少な動植物の生息地となっています。

しかしこの数十年間に、他の大都市と同様、沿岸環境は埋立てや護岸工事などさまざまな開発が進められ、今や生きものたちは、残されたわずかな自然環境にすがりつくようにして生き延びています。

博多湾のように、人の生活圏と鳥の生活圏が近接する場合、鳥に対する脅威のひとつが「人による水辺のレジャー利用」です。ピクニック、潮干狩り、犬の散歩など、人の日常的な活動が、鳥から安心して「休める場所」を奪ってしまうことがあります。

干潟を採餌場所とする鳥は通常、川岸や周辺の田んぼなどで休息をとりますが、都市部ではそうした環境が失われている場合が多いため、どうしても干潟や湾内で休む場所を探さねばなりません。

季節によって、何千キロという大距離を飛ぶ渡り鳥にとって、これは、食物を採る場所が奪われるのと同じくらい重大な問題です。

福岡市と地元NPOとの協力による新しい試み

この問題に、博多湾で長年取り組んできた団体があります。NPO法人ふくおか湿地保全研究会です。

研究会は、緻密な観察とデータを積み重ね、行政ともこまめにコミュニケーションを取りながら、「行政が得意とすること、行政だからこそできること」を提案してきました。

その一つが「名島海岸整備事業における渡り鳥の休息地の造成」です。

名島海岸は博多湾東部に位置する小さな海岸で、マンションや住宅地と接しており、2003~2007年の福岡市の事業により、親水護岸として整備されました。

この整備に際して、研究会が渡り鳥の休息地を確保するための提案を行なったのです。
WWFジャパンも2006年に福岡市に対し、要望書「名島海岸整備事業における自然環境保全のお願い」を提出、ふくおか湿地保全研究会と連携しつつ、事業の環境配慮に加えて、研究会の提案内容に則した追加事業を行なうよう要望しました。

結果、ふくおか湿地保全研究会の提案に基づき、福岡市では海岸から少しはなれた沖合に、事業で使う石材の一部を積み上げた、渡り鳥の休息場を造成する事業を実施。

その後の研究会の調査によって、この場所を渡り鳥たちが利用していることが明らかになったのです。

WWFからの感謝状

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福岡市により整備された人工の休息地

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福岡市港湾局職員より名島海岸整備事業の説明を受けるWWFの樋口事務局長

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当日はカワウが休息する姿が見られた

この福岡市の決定と、渡り鳥への配慮に対し、WWFジャパンは2012年11月30日、感謝状を贈呈しました。

行政に対する感謝状の贈呈は異例のことですが、ここには、日ごろから地元NPOとの連携に前向きに取り組み、WWFの要望を受け入れた、福岡市の姿勢に対する評価と、これからの行政の活動に対する期待が込められています。

実際、感謝状を贈呈の折には、福岡市港湾局の方々も、ふくおか湿地保全研究会に対し、強い信頼を寄せている旨を話されていました。

こうした行政の姿勢と取り組みの在り方は、他の地域や自治体も参考とすべきものです。

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感謝状はWWFジャパンの樋口隆昌事務局長から福岡市の渡邊正光副市長に手渡されました。渡邊副市長(右から3人目)とふくおか湿地保全研究会(左3人)とともに記念撮影

WWFジャパンは、ふくおか湿地保全研究会の活動を、行政とNPOが協働で行なう生息地の管理の事例のひとつとして2011年に発行した「現場の声から学ぶ 豊かな海のつくり方入門」にて紹介。

さらに同年7月に実施した「日韓干潟交流ツアー」では、韓国からの参加者を現地に案内し、このNPOの実施体制などを学んでもらいました。

世界的に都市部の開発が進む中で、近隣の湿地保全のあり方を考え、よい取り組みの事例を国内外に広く発信、展開していくことが求められているのです。

残された自然が失われる前に

開発によって、一度失われた自然を取り戻すことは、容易なことではありません。巨額の費用がかかるだけではなく、そのプロセスの決定や、合意のための手続きにも、途方もない歳月を要することになります。

しかも、開発が急な都市部に近い沿岸域では、そうした検討の間にも、自然が徐々に失われています。

こうした状況の中で、環境を未来に引き継いでいくためには、現状で点在する残された湿地の自然が持っている価値と保全の可能性を追求し、着実に可能な施策を打っていくことがまず求められます。

過去に、市民団体による多くの反対の声がある中、和白干潟の前面に人工島「アイランドシティ」を造成した福岡市が、今後行政の立場から、生物多様性と人の暮らしとを両立させてゆく取り組みをどれだけ推し進めてゆくのか。
NPO法人ふくおか湿地保全研究会による取り組みともども、展開が注目されます。

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