沖縄県「下地島空港及び周辺用地の利活用」に対する要請


沖縄県知事 玉城 康裕 殿
(同報)宮古島市長 座喜味 一幸 殿
(同報)環境大臣 伊藤 信太郎 殿

沖縄県「下地島空港及び周辺用地の利活用」に対する要請
 
公益財団法人世界自然保護基金(WWF)ジャパン 会 長 末吉 竹二郎
公益財団法人日本自然保護協会 理事長 土屋 俊幸
公益財団法人日本野鳥の会 理事長 遠藤 孝一
特定非営利活動法人どうぶつたちの病院沖縄 理事長 長嶺 隆
宮古野鳥の会 会 長 仲地 邦博
(以上、五十音順。団体印省略。)

沖縄県は、宮古島市において、下地島空港及び周辺用地の利活用を推進しています(以下、本件事業)。本件事業は、「下地島土地利用基本計画(第二次改定)」(以下、基本計画)と、「下地島空港及び周辺用地の利活用基本方針」に基づいて進められており、これらには、自然環境の保全への配慮と、「伊良部島県立自然公園 公園計画書」に即したゾーニングが明記されています。
しかし、宮古諸島を代表する希少な野生動物であるミヤコカナヘビ*1とサシバ*2の生息状況に照らし合わせると、基本計画のゾーニングでは、両種の保全への悪影響が強く懸念される状況にあります。特に、「空港及び航空関連ゾーン」に含まれる100ha以上のまとまった緑地は、両種を含む多くの希少種及び絶滅危惧種の重要な生息地となっているにもかかわらず、本件事業において保全や配慮がされていない状況にあります。
国は、生物多様性国家戦略として「ネイチャーポジティブ」の実現を掲げ、30by30ロードマップに基づく国立・国定公園の拡充として宮古島沿岸域を新たな国定公園指定候補地に挙げており、既存の伊良部県立自然公園もその候補地に含まれると聞いています。沖縄県は、国連の持続可能な開発目標を推進する自治体として「SDGs未来都市」に選定されており、その新・沖縄21世紀ビジョン基本計画において、宮古圏域の施策としてエコアイランドの実現、自然環境等を生かした観光振興を掲げているほか、「自然、歴史、文化を尊重し」「環境容量の範囲において」観光産業の成長と維持を目指す「沖縄観光推進ロードマップ」を表明しています。これらの状況を踏まえ、本件事業について、下記の通り要請します。

  1. 下地島における、ミヤコカナヘビとサシバの他、宮古島市自然環境保全条例保全種やレッドデータおきなわ指定種等の絶滅危惧種について生息状況を調査し、基本計画とそのゾーニングを見直すこと。後に、「伊良部島県立自然公園 公園計画書」にも反映すること。
  2. 「空港及び航空関連ゾーン」の緑地は、宮古諸島最大規模のまとまった緑地であり、保全優先度の極めて高い場所であることから「自然共生サイト」へ登録する等、保護担保措置を整備するとともに、本件事業における生物多様性への悪影響を十分に回避すること。
  3. 本件事業の全てのゾーニング区分において、利活用事業者に、事業における緑被率の確保等、ミヤコカナヘビやサシバ等の生物多様性への配慮を求めること。

*1 ミヤコカナヘビの生息地保全のために
ミヤコカナヘビは、世界で宮古諸島にだけ生息する固有種であり、沖縄県文化財保護条例に基づく天然記念物および宮古島市自然環境保全条例に基づく保全種に指定されています。近年土地開発・外来生物の影響・乱獲等により個体数を減少させ、絶滅危惧種となっています(レッドデータおきなわ:絶滅危惧IB類(EN)、環境省レッドリスト:絶滅危惧IA類(CR)、IUCNレッドリスト:Endangered(EN))。絶滅のおそれが極めて高いことから、絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律(種の保存法)に基づく国内希少野生動植物種にも指定され、爬虫類として初めて同法に基づく保護増殖事業の対象種となり、全国の動物園水族館の協力により域外での系統保存が実施されています。さらに保護増殖事業計画書では、生息状況の把握、生息環境の維持及び改善等の計画が記載されており、国、関係地方公共団体や専門家、保護活動団体、地域の住民の連携に務めるとされてます。ミヤコカナヘビは、宮古島市内の小中学校で実施されている環境出前授業において、宮古諸島の生物多様性を学ぶ教材とされており、宮古高校等の生徒による調査研究の対象にもされてきました。また、沖縄県が、県外来種対策行動計画に基づいて進めているニホンイタチ防除事業でも、ミヤコカナヘビを含む在来爬虫類の保全が目標に掲げられています。さらに、宮古島市によるエコアイランド宮古島宣言では、固有種の永続的な保全が目標に掲げられており、その代表的なものとしてミヤコカナヘビが明示されています。
宮古諸島の下地島には、ミヤコカナヘビの遺伝的特性のある地域個体群が生息しており、その生息地の大部分が本件事業の対象範囲に含まれます。特に「空港及び航空関連ゾーン」の緑地は重要な生息地となっています。本件事業が現行の基本計画のまま実施されると、下地島の地域個体群が消滅する危険性が極めて高いと言わざるを得ません。これを防ぐためには、ミヤコカナヘビの分布状況と遺伝的特性に関する環境省・琉球大学等の調査結果を踏まえて、ミヤコカナヘビの安定的な存続に十分配慮した事業へ変更する必要があります。

*2 サシバの生息地保全のために
サシバは、宮古島市の鳥であり、宮古島市自然環境保全条例に基づく保全種に指定されています。近年、生息分布が急激に縮小していることから絶滅危惧種に指定されました(レッドデータおきなわ:絶滅危惧Ⅱ類(VU)、環境省レッドリスト:絶滅危惧Ⅱ類(VU))。下地島のある伊良部地域は日本最大規模の秋の渡りの中継地であり、宮古諸島全域が越冬地になっています。伊良部地域とサシバの関わりは深く、長年サシバの密猟防止活動が行われ、近年は地元小中学校と民間企業による生息地保全活動も行われています。それらは「宮古のサシバ文化」として、2021年に宮古島市で国際サシバサミットの開催を通じて、繁殖地、中継地、越冬地との国際的な交流に発展しています。このことは、沖縄県が公表した「地域外交基本方針」に掲げられた「歴史・文化・自然等に関する学術研究及び各種交流」に合致します。また、沖縄県と宮古野鳥の会は伊良部島におけるサシバの飛来数調査を50年以上に渡って実施し、その調査結果は国内のサシバの個体数の指標になっています。
宮古野鳥の会と日本自然保護協会は2019年から5年間、下地島におけるサシバの越冬個体数調査を実施した結果、「空港及び航空関連ゾーン」の緑地は、サシバの生息密度が最も高い場所となっていました(未発表)。そのため、当該緑地の保全は、上述の地域外交の推進において地域間の協力・信頼関係を維持・強化する上で重要です。サシバは、まとまった緑地と農耕地等の開けた場所の両方が重要な生息環境であるため、本件事業は、まとまった緑地を保全する仕組みを備えた事業へ変更する必要があります。

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