黄海の保全成果を政策決定の場へ
2015/03/24
2015年3月、中国の全国人民代表大会(日本の国会に相当)と並行して開幕された全国政治協商会議(国政の助言機関)で、干潟の減少が続く中国沿岸の現状が、いくつも指摘されました。国境を越えた立場で黄海の生物多様性保全に取り組んできたWWFでは、今回の全国政治協商会議での議論を、今後の取り組みの拡充につながる一歩として歓迎すると共に、その行方に注目をしています。
科学的視点で、重要地域を抽出
東アジアを代表する大陸棚を擁した、約46万平方キロに及ぶ黄海エコリージョン。
その海域の沿岸に広がる2万平方キロにおよぶ干潟は、シベリアやアラスカから、東南アジア、オーストラリアまで、国境を越えて旅するシギやチドリなどの渡り鳥の国際的に最も重要な生息環境であり、日本をはじめアジア地域で消費されるアサリやハマグリなど多くの水産物の生産を支える、重要な自然環境になっています。
WWFジャパンがこの黄海エコリージョンの保全活動を開始したのは2002年。日本国内での湿地保全活動を発展させ、渡り鳥の保全を主な目的とした取り組みとしてスタートしました。
その中で、WWFが最初に取り組んだのが、広大な黄海エコリージョンの中から、生物多様性の観点で優先的に保全すべき重要地域を明らかにすることでした。
そして、各分野の研究者の協力のもと、さまざまな野生生物の生息データを綜合し、2006年に黄海エコリージョン優先保全地域マップを完成させました。
さらに2007年からは、パナソニック株式会社のご支援を受けて、黄海エコリージョン支援プロジェクトを開始。優先保全地域の保全を強化し、地域で生物多様性の保全をリードできる人材の育成にも取り組み始めました。
この支援プロジェクトの柱は、保全管理の「モデル」となる取り組みを中国遼寧省の鴨緑江河口干潟、および韓国全羅南道のムアン干潟で実施し、その成果を関係者に紹介し、保全のノウハウを共有していくことでした。
そして、鴨緑江河口では、干潟環境の生態調査と社会経済調査を行ない渡り鳥の保全と、漁業の管理を持続的なものにするための提言を行ない、ムアン干潟では地域コミュニティが主体となった干潟の保全管理と持続可能な利用を推進する取り組みを実践してきました。
現場の成果を行政関係者へ
こうした保全モデル活動の成果は、地域コミュニティ、国内外のNGO、メディア、研究者、行政関係者など多岐にわたる対象に伝えられ、取り組みとその重要性の認知は、徐々に広がってゆきました。
そして、2014年9月、一連の取り組みを大きく総括する場として、WWFは北京林業大学と共に、湿地保全に関わる行政関係者をまねき、北京で黄海エコリージョンの湿地保全と管理に関わるワークショップを開催。
モデル活動の成果などの発表と共に、出席者らによるグループ討議を2日間にわたって行ないました。
このワークショップは、中国国内外の専門家、国際機関、ノルウェー大使館の協力を得て開催され、中国国家環境保護部、国家海洋局、国家林業局といった中央政府をはじめ、遼寧省、河北省など黄海に接する各省保全と各地の自然保護区管理担当者ら、およそ100名が参加しました。
ワークショップの最後には、WWFなどの実行委員メンバーが当初から目指していた、全国政治協商会議への提言の一助となるような、黄海湿地保全に関する「宣言」を採択することができました。
中国国内での干潟保全への動き
2015年3月に開催された、今回の全国政治協商会議では、中国沿岸の開発に伴う、渡り鳥生息地の減少、水質汚染、漁業資源の衰退を指摘した提言が複数出されました。
ある提言は、IUCN(国際自然保護連合)の調査報告書を基に、黄海沿岸の湿地に飛来する水鳥の個体数は、毎年5から9%減少していることを指摘。
また、中国の潮干帯域における水産物生産量が世界全体の20%近くを占める800万トンにのぼり経済的に重要な環境であることや、不適切な干潟の開発によりそれが失われ、年最大で18億ドルの損失が生じた、といった指摘もありました。
こうした一連の重要な指摘や提言の中には、2014年9月のワークショップで採択された宣言の趣旨に沿ったものが、多く含まれています。
この全国政治協商会議では、数多くの提言がなされますが、会合後には、提言内容に応じて、関連する行政機関にそれぞれ引き継がれ、公式見解が示されます。
これはつまり、提言の内容が今後、国の政策に反映される可能性を示すものであり、黄海の生物多様性保全においても、その前進が期待できるということです。
今回の沿岸湿地の保全に関する提言に対しては、国家海洋局か国家林業局が、提言を行った人口資源·環境委員会などの委員や組織メンバーに対して、今後、提言に関連する施策や活動について説明をおこなうものと考えられます。
WWFも、今後の中国における環境保全政策の動きに注視すると共に、多様な利害関係者への働きかけ、協働を通じて、黄海沿岸湿地保全の取り組みを継続してゆきます。