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WWF ジャパン TNFD開示にあたっての4つのキーポイント

この記事のポイント
WWF ジャパンは企業のTNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース) 開示の一助となることを目指した「TNFD開示にあたってのキーポイント(以下、TNFDキーポイント)」を発表しました。TNFDキーポイントは、WWF ジャパンが現時点でこれから企業がTNFD開示を行うにあたり、特に確認が必要と考えられる4つのポイントをまとめたものです。
目次

TNFDキーポイントの発表

TNFD開示において重要なポイントは自社事業と自然との接点をバリューチェーン全体にわたって適切に把握することです。まず自然との依存、影響関係を明らかにし、自社と自然との関係を分析した上で、リスクと機会を評価していくことが、TNFDの要であるガバナンス、戦略、リスクとインパクト管理、指標・目標の設定の基礎になります。

2023年9月に公開されたTNFDの推奨事項に基づく開示は始まったばかりであり、多くの企業がTNFD V1.0や各種ガイダンス等に加え、他社の先行事例も参考にTNFD開示を行うことが想定されます。先行事例を参考にすることは有用ですが、現時点では多くの開示が範囲を絞った部分的な開示です。そのため、TNFD開示を行う際には、まずは自社の自然との関係を検証し、自然資本や生物多様性の損失を抑える取り組みを企業戦略として検討することが重要です。

そこでWWFジャパンは、初期のTNFD開示において特に重要だと考えられる4つのポイントをTNFDの一般要件などを参考に取り出し、TNFDキーポイントを作成しました。4つのキーポイントは、各社がTNFD開示に取り組むことを通じて、実際の事業活動が自然資本や生物多様性の毀損を低減させる上で重要だと考えるキーポイントの一部を抽出したものです。TNFD の開示フレームワークは、自然関連開示のための基本概念、一般要件一式、開示提言一式で構成されておりますが、TNFDキーポイントは特に基本概念と一般要件に主眼があります。なお、現時点で公開されているTNFD v1.0や各種ガイダンスに照らした記載の全体的な網羅性はTNFDキーポイントでの項目にはなっていません。例えば、一般要件にある「考慮する対象期間」や、開示提言として推奨されている様々な項目は非常に重要ですが、4つのキーポイント入っていないのはその一例です。また、TNFDから追加的なガイダンスが公表されたり、企業が利用な可能なツールやデータが増えるにしたがって、TNFDキーポイントで示したような「現時点で重要と考えられるポイント」の内容は発展・変化していくものと想定しています。

また、TNFDキーポイントは業種を問わず重要な開示要素と考えるもののみを抽出しており、業種毎の諸々の特性を反映するものではありません。TNFDキーポイントを参考にTNFD開示内容を検討する場合、各業種や各社の事情に合わせた検討も必要です。4つのキーポイント以外の開示も積極的に、各社の創意工夫に基づく開示が期待されます。

© Elisabeth Kruger / WWF US

TNFDキーポイントを参照したベンチマーク調査

ベンチマーク調査の概要

今後目指して欲しい開示の一助となることを目指し、既に最初のTNFD開示を行った企業や今後開示を行う企業が参照できるよう、各社のTNFD開示をTNFDキーポイントと照らしたベンチマーキング調査を当面の間、実施・公開します。本調査では各項目がどのレベルまで開示されているかTNFDキーポイントの星の数に合わせて参照しています。

上述の通りTNFDキーポイントは特定の業種向けに作成されてはおりません。また業種や各社の特徴によりTNFD開示に向けた取り組みの難易度は異なります。そのため、星の数は企業の取り組み内容の質やパフォーマンスを評価したものではなく、各キーポイントの「開示」の有無の確認という側面に焦点を当てています。なお、重要な点は各企業が自然資本や生物多様性の損失を抑える取り組みに向けた実際の取り組みを進めることです。そのため、当調査は企業の取り組み内容の質や実際のインパクトを評価するものではないことから、企業のランキングなどを目的とするものではないことにもご留意の上で参照ください。

調査の対象企業

2024年12月31日までにTNFD V1.0 に基づきTNFD開示を行った企業(予定)

※1.但し、金融機関、サービス業、自然資本の利用が相対的に少ないと考えられる企業等を除く
※2.第一弾の調査結果は2024年10月頃に発表し、順次追加更新します。

調査方法

TNFD V1.0 に基づき発行されたTNFD開示レポート、およびTNFD開示に掲載されているURLリンク先から得られる情報のみを参照。
(TNFD開示に掲載されているURL先は参照するが、そこからさらに先のリンクは原則として参照しない。)

調査項目

TNFDキーポイントに掲載されている以下の4ポイントの星(★)0から4に各企業の開示を当てはめる形で実施。

  1. TNFDで開示するマテリアリティの選択
  2. 4つの自然関連課題の特定・評価、および優先地域の特定
    1.  直接操
    2.  バリューチェーン
  3. ミティゲーションヒエラルキー (マイナスインパクト回避の優先)
  4. IPLC(先住民族と地域社会)と、影響を受けるステークホルダー

© McDonald Mirabile / WWF-US

調査結果

1. TNFDで開示するマテリアリティの選択
TNFDの一般要件ではマテリアリティの選択の開示が求められています。TNFDでは財務的(フィナンシャル)マテリアリティとインパクト・マテリアリティという二つの視点があります。前者は企業と自然の相互関係の財務的な面、後者は企業が自然に与えている影響を指します。マテリアリティ・アプローチの採用は開示全体のトーンに大きく影響します。この項目では、いずれのアプローチを選択したかの記載の有無を確認しています。WWFジャパンは、自然資本の毀損を防ぐためにもインパクト・マテリアリティでの開示を期待します。

★★★★
★★★
★★


(ベンチマーク結果は10月中旬以降順次公開予定です)

2. 4つの自然関連課題の特定・評価、および優先地域の特定
TNFDではまず、自社事業がどの自然資本や生態系サービスの依って成り立っているか(依存)、影響を与えているか(インパクト)を分析します。その際、「依存」と「インパクト」がある場所がどこにあるか特定する必要もあり、場所も踏まえて「依存」と「インパクト」を診断し、導かれる「リスク」と「機会」があるかを評価し、何から取り組むかの優先順位を開示することとされています。

当設問においては、業種により直接操業、バリューチェーンでの分析で難易度が全く異なるため、直接操業とバリューチェーンに関する設問を分けてあります。また、例えば原材料を「直接操業地点」から調達している企業と、原材料をサプライヤーから購入している企業とではバリューチェーン分析に置かれるべき比重は異なります。

2.1 直接操業
企業は自社の操業地点を基本的には把握できるため、直接操業における場所の把握の難易度は相対的に高くありません。この項目では、多くの企業が既存のデータ分析ツールを用いて初期段階の一般評価をしていますが、業種を俯瞰した一般的な依存、インパクトの特定から、いかに自社の拠点および、事業の特性に結び付け、自社の自然関連課題を分析できているか、という点を確認しています。

(ベンチマーク結果は10月中旬以降順次公開予定です)

2.2 バリューチェーン
直接操業と比べバリューチェーンでは自然との接点となる場所の把握の難易度が上がります。一方、こちらも直接操業と同様、業種毎の一般的な自然関連課題の分析で簡潔に済ませてしまうのではなく、自社事業と自然との関わりの分析、バリューチェーンを遡り場所を明らかにするトレーサビリティ確保の開始などを行った上での自然関連課題分析が重要です。この項目では、トレーサビリティ確保、自然関連の複数の依存、インパクト、リスク、機会の特定と、それらの地理的位置を把握しているかを確認しています。

★★★★
★★★
★★


(ベンチマーク結果は10月中旬以降順次公開予定です)

3. ミティゲーションヒエラルキー (マイナスインパクト回避の優先)
TNFDではSBTNのAR3Tフレームワークなどのミティゲーションヒエラルキーに沿って、取り組みの優先順位をつけるべきとしています。企業はまず事業に起因する自然へのマイナスインパクトの回避・軽減に努めるべきです。自然再生や、社会貢献的な活動が否定されるものでは全くありませんが、直接操業とバリューチェーン全体を通じた自社事業に起因するマイナスインパクトの回避・低減に積極的に取り組む前に自然再生などの機会を強調しすぎることは、グリーンウォッシュとの批判を受けかねません。この項目では、ミティゲーションヒエラルキーに基づく開示姿勢を確認しています。なお、他項目同様、開示状況のみを判断しており、取り組みの質やインパクトは確認していません。

★★★★
★★★
★★


(ベンチマーク結果は10月中旬以降順次公開予定です)

4. IPLC(先住民族と地域社会)と、影響を受けるステークホルダー
TNFDは自然資本について先住民族や地域社会が自然資本に関する豊かな知識を持っている一方で、企業の活動から様々な影響を受けるという認識を示しています。TNFDの中での人権に関する開示は、自然課題と人権との問題を独立した別の問題と捉えずに、先住民族や地域社会へのマイナスインパクトを回避すると同時に、先住民族や地域社会の知見を取り入れた事業活動をゴールに据えることが重要です。

★★★★
★★★
★★


(ベンチマーク結果は10月中旬以降順次公開予定です)

注)
・TNFD開示の難易度は事業の特性により全く異なります。本来、異なる業種ごとで横並びに比べることはできないことから、当調査は業種を超えた絶対的な評価を目指していません。
・本調査は開示に向けてのアプローチを主に確認したもので、自然資本や生物多様性の棄損を減らす取り組みや施策などの具体的な取り組みの内容の善し悪しは判断材料としていません。

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