TNFDキーポイントを参考にしたベンチマーク調査結果 ―2024年までの開示企業 (更新中)
2024/09/26
- この記事のポイント
- WWF ジャパンは企業のTNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース) 開示の一助となることを目指した「TNFDキーポイント」を発表しました。WWFジャパンは、当「TNFDキーポイント」に基づいてTNFD開示を行った企業のベンチマーク調査も合わせて行っています。TNFD開示の先行事例を参照する際などに一助となることを期待します。
TNFDキーポイントに基づくベンチマーク調査
ベンチマーク調査の概要
WWFジャパンは初期のTNFD開示において重要となる項目を抽出した「TNFDキーポイント」を作成いたしました(TNFDキーポイントウェブページはこちら)。
「TNFDキーポイント」は各社がTNFD開示に取り組むことを通じて、実際の事業活動が自然資本や生物多様性の毀損を低減させる上で重要だと考える点を抽出したものです。
WWFジャパンは、TNFDキーポイントと照らしたベンチマーキング調査を実施しています。この調査の目的は、いわゆるランキングをつけることではなく、調査結果をご参照いただくことで、今後、さらに充実した開示をしていただくことです。TNFD開示を行った企業が今後、更新される際にご活用いただくのはもちろんのこと、これから開示を予定している企業の一助になることを目指しています。
調査の対象企業
2024年12月31日までにTNFD V1.0 に基づきTNFD開示を行った企業(予定)
※1.但し、金融機関、サービス業、自然資本の利用が相対的に少ないと考えられる企業等を除く
※2.ベンチマーク調査結果は、順次追加公開します。
調査方法
TNFD V1.0 に基づき発行されたTNFD開示レポート、およびTNFD開示に掲載されているURLリンク先から得られる情報のみを参照。
(TNFD開示に掲載されているURL先は参照するが、そこからさらに先のリンクは原則として参照しない。)
調査項目
「TNFDキーポイント」に掲載されている、4つのキーポイント(下記に記載)の各企業の開示状況を、星の数によって段階的に示しています。☆(星なし)がキーポイントに関する記載が限定されている開示、そこから星の数が増えるにつれより充実した開示になります。
また、キーポイント2から4では「星4つ」が現時点でTNFDに沿った、理想的と考えられる状態であり、開示初期に星4つに相当する開示を行うことは困難である場合も多いと考えられます。星1つから3つは望ましい開示に近づくための段階です。将来的には星4つが目指すべき状態と認識し、より多い星の数に相当する開示がなされることに期待します。
星の数の付け方についての詳細は、下部の「TNFDキーポイント 」をご参照ください。

調査結果
1. TNFDで開示するマテリアリティの選択
TNFDの一般要件ではマテリアリティの選択の開示が求められています。TNFDでは財務的(フィナンシャル)マテリアリティとインパクト・マテリアリティという二つの視点があります。前者は企業と自然の相互関係の財務的な面、後者は企業が自然に与えている影響を指します。マテリアリティ・アプローチの採用は開示全体のトーンに大きく影響します。この項目では、いずれのアプローチを選択したかの記載の有無を確認しています。WWFジャパンは、自然資本の毀損を防ぐためにもインパクト・マテリアリティでの開示を期待します。
★★ | 熊谷組・サントリーHD・清水建設・竹中工務店 |
★ | |
☆ | 味の素・イオンモール・ANAHD・キリンHD・クボタ・サッポロHD・住友林業・住友ゴム工業・大和ハウス工業・東急不動産・日本航空・日清オイリオ・ニッスイ・明治HD・森永乳業・LIXIL・ロッテ |
2. 4つの自然関連課題の特定・評価、および優先地域の特定
TNFDではまず、自社事業がどの自然資本や生態系サービスによって成り立っているか(依存)、影響を与えているか(インパクト)を分析します。その際、「依存」と「インパクト」がある場所がどこにあるか特定する必要もあり、場所も踏まえて「依存」と「インパクト」を診断し、導かれる「リスク」と「機会」があるかを評価し、何から取り組むかの優先順位を開示することとされています。
当設問においては、業種により直接操業、バリューチェーンでの分析で難易度が全く異なるため、直接操業とバリューチェーンに関する設問を分けてあります。例えば原材料を「直接操業地点」から調達している企業と、原材料をサプライヤーから購入している企業とではバリューチェーン分析に置かれるべき比重は異なります。また、バリューチェーンにおいて自然への依存・影響がより高いと判断された場合に、まずはバリューチェーンに注力して開示すること等も、自然資本の損失を抑える有用なアプローチと考えます。
2.1 直接操業
企業は自社の操業地点を基本的には把握できるため、直接操業における場所の把握の難易度は相対的に高くありません。この項目では、いかに自社の拠点および、事業の特性に結び付け、自社の自然関連課題を分析できているか、という点を確認しています。
★★★★ | 住友林業 |
★★★ | キリンHD・クボタ・サッポロHD・サントリーHD・清水建設・住友ゴム工業・大和ハウス工業・竹中工務店・日清オイリオ |
★★ | 味の素・イオンモール・東急不動産・日本航空・ニッスイ・明治HD・LIXIL・ロッテ |
★ | ANAHD・熊谷組・森永乳業 |
☆ |
2.2 バリューチェーンの上流・下流
直接操業と比べバリューチェーンの上流・下流では自然との接点となる場所の把握の難易度が上がります。この項目では、トレーサビリティ確保、自然関連の依存、インパクト、リスク、機会の特定と、それらの地理的位置を把握しているかを確認しています。
★★★★ | |
★★★ | サッポロHD・キリンHD・大和ハウス工業・明治HD |
★★ | 味の素・ANAHD・キリンHD・住友ゴム工業・住友林業・清水建設・日本航空・ニッスイ・日清オイリオ・森永乳業・ロッテ |
★ | イオンモール・サントリーHD・竹中工務店・LIXIL |
☆ | クボタ・熊谷組・東急不動産 |
3. ミティゲーションヒエラルキー (マイナスインパクト回避の優先)
TNFDではSBTNのAR3Tフレームワークなどのミティゲーションヒエラルキーに沿って、取り組みの優先順位をつけるべきとしています。企業はまず事業に起因する自然へのマイナスインパクトの回避・軽減に努めるべきです。自然再生や、社会貢献的な活動が否定されるものでは全くありませんが、バリューチェーン全体を通じた自社事業に起因するマイナスインパクトの回避・低減に積極的に取り組む前に自然再生などの機会を強調しすぎることは、「グリーンウォッシュ」との批判を受けかねません。この項目では、ミティゲーションヒエラルキーに基づく開示姿勢を確認しています。なお、他項目同様、開示状況のみを判断しており、取り組みの質やインパクトは確認していません。
★★★★ | |
★★★ | 味の素・大和ハウス工業・明治HD・ロッテ |
★★ | ANAHD・キリンHD・クボタ・サッポロHD・サントリーHD・清水建設・住友ゴム工業・住友林業・東急不動産・日本航空・日清オイリオ・ニッスイ・森永乳業・LIXIL |
★ | イオンモール・熊谷組・竹中工務店 |
☆ |
4. IPLC(先住民族と地域社会)と、影響を受けるステークホルダー
TNFDは自然資本について先住民族や地域社会が自然資本に関する豊かな知識を持っている一方で、企業の活動から様々な影響を受けるという認識を示しています。TNFDの中での人権に関する開示は、自然課題と人権との問題を独立した別の問題と捉えずに、先住民族や地域社会へのマイナスインパクトを回避すると同時に、先住民族や地域社会の知見を取り入れた事業活動をゴールに据えることが重要です。
★★★★ | |
★★★ | キリンHD・住友林業 |
★★ | サントリーHD・大和ハウス工業・ニッスイ |
★ | 味の素・ANAHD・イオンモール・クボタ・熊谷組・清水建設・住友ゴム工業・竹中工務店・東急不動産・日本航空・日清オイリオ・明治HD・森永乳業・LIXIL・ロッテ |
☆ |
※留意点
また、調査結果を参照いただく上で以下の点にご留意ください。
・TNFDキーポイントは特定の業種向けに作成されてはおらず、業種や各社の特徴によってTNFD開示に向けた取り組みの難易度は異なります。そのため、星の数は企業の取り組み内容の質やパフォーマンスを評価したものではなく、各キーポイントの「開示」の有無の確認という側面に焦点を当てています。
・重要な点は各企業が自然資本や生物多様性の損失を抑える取り組みに向けた実際の取り組みを進めることです。当調査は企業の取り組み内容の質や実際のインパクトに対する評価は行っておりません。したがって、本調査は企業のランキングなどを目的とするものではありません。
WWFジャパン作成の「TNFDキーポイント」の詳細については、下記をご参照ください(クリックすると、PDFが開きます)
TNFD キーポイント (PDF)

ご不明点、ご相談などある方は以下、担当( WWF ジャパン 金融グループ 小池)までお問合せください。
yusuke.koike@wwf.or.jp