小売・食品業界に広がるパーム油の持続可能な調達
2018/05/17
パーム油の消費と熱帯林破壊
アブラヤシから採れるパーム油は、世界で最も多く生産されている植物油脂です。
日本では菜種油に次ぎ、2番目に多く使われる植物油脂ですが、消費者の認知は高くありません。
その理由は、パーム油の多くが、スナック菓子やカップ麺などを揚げるための油や、パンなどに含まれるショートニングなど加工製品に利用されており、一般家庭で使われる製品が少ないためです。
パーム油は農地面積あたりの生産性が高く、さまざまな用途に使える便利な油ですが、一方で主要な生産国であるインドネシアやマレーシアでは森林破壊や人権問題の原因として長年指摘され続けてきました。
アブラヤシ農園(プランテーション)開発が深刻な熱帯林の消失と、そこに生きる野生生物の危機を招き、また農園での劣悪な労働環境が大きな社会問題となっているためです。
WWFは、それらの問題を解決する1つの手段として、「RSPO(持続可能なパーム油のための円卓会議)」という国際的な認証制度を企業と共に推進しています。
RSPOは熱帯林の自然環境や、労働者の権利に配慮して生産される「持続可能なパーム油」を認証するもので、消費者がRSPOラベルのついた製品を選び、購入することで、その取り組みを支援できる仕組みです。
食品企業に広がるパーム油対応
パーム油の生産が国際的な問題として広く認識される中、イギリスでは既に9割以上のパーム油がRSPO認証油に切り替わるなど、海外ではいち早く企業による取り組みが進められています。
日本でも、サラヤ株式会社、花王株式会社、太陽油脂株式会社など、パーム油を原料として扱う洗剤・石鹸メーカーが中心となって、RSPO認証パーム油の調達を推進。
しかし、日本に輸入されるパーム油、年間約65万トンのうち8割以上を利用している食品業界、そして食品を取り扱う小売業界では、なかなか取り組みが広がっていませんでした。
そうした中、2017年4月、イオン株式会社が「イオン持続可能な調達方針・2020年目標」の中で「プライベートブランドは、持続可能な認証原料の100%利用をめざす」という方針を発表。
さらに2017年10月には、日本生活協同組合連合会(日本生協連)が同じく調達方針を発表したほか、米ウォルマートグループである合同会社西友も、数年前から取り組みをスタートしています。
また食品業界でも、味の素株式会社に続き、株式会社明治、タカナシ乳業株式会社、日清食品ホールディングス株式会社、エスビー食品株式会社、ハウス食品グループ本社株式会社、森永乳業株式会社などがRSPOに加盟。
パーム油の持続可能な調達に向けた具体的な検討を開始しています。
そして2018年3月には、食品では日本初となるRSPOマーク付のマーガリンが株式会社創健社から発売されました。
コープのコミットメントとキャンペーン
日本企業によるRSPO認証の取得と、認証製品の販売に向けた動きが強まる中、2018年5月21日、日本生協連はWWFジャパンを支援先とする「コープの洗剤環境寄付キャンペーン」を開始しました。
このキャンペーンは、パーム農園の開発により失われている熱帯林を守るために、日本生協連がWWFジャパンのボルネオ森林保全プロジェクトを支援するものです。
また、キャンペーンでの売り上げから寄付金が発生する対象商品の一部には、コープ商品として初めて、RSPOマークが付けられ販売されることになりました。
日本生協連がRSPOに加盟したのは、2017年10月。
その折、日本生協連ではコープ商品(プライベートブランド)について、パーム油の調達に対する「3つのコミットメント」を発表しています。
日本生協連による持続可能なパーム油に関する「3つのコミットメント」
- 2017年度中に、コープ商品(プライベートブランド)のうち、すべての食品についてB&C(*1)による認証パーム油への切り替えを進めます。
- 2018年度中に、MB(*2)認証パーム油を使った石けん、化粧品の供給を開始します。
- 2020年までに、コープ商品(プライベートブランド)全体についてB&C、MB方式による認証パーム油への切り替えを進めます。
- *1:B&C(ブック&クレーム):生産された数量の認証油を証券化し、その証券を消費者が購入することで生産者を支援するモデル。
- *2:MB(マスバランス):認証油が流通過程で他の非認証油と混合される認証モデル。購入した認証農園とその数量は保証されます。
特に、「2020年までに、プライベートブランド全体について、認証パーム油への切り替えを進める」と宣言している点は重要です。
2020年の目標に向け、食品も含めてRSPOマーク付の認証製品が更に拡大していくことが期待されます。
日々の買い物が熱帯林の破壊に繋がることを意識している消費者は少ないかもしれません。
しかし、問題に意識を向け、積極的に取り組みを始める企業は確実に増えています。
2020年のオリンピックやSDGs、ESG投資なども、こうした企業の動きに影響を及ぼすものになっているといえるでしょう。
この動きをさらに広めるため、WWFは企業と協力しながら、一般消費者に向けた発信と、取り組みの遅れている企業に対する、持続可能な調達を促す取り組みを推進してゆきます。