「持続可能な紙利用のためのコンソーシアム」取り組み報告


環境や社会に配慮した紙利用を拡大するために先進的な取組みを行う企業5社とWWFジャパン、株式会社レスポンスアビリティが2013年11月に立ち上げた「持続可能な紙利用のためのコンソーシアム(CSPU)」。翌年の2014年には、新たに2社の新メンバーが参画し計7社となりました。自然林の減少と紙の原料調達に関しては、依然として多くの問題が報告されています。企業や団体による個々の取り組みだけで持続可能な紙利用を社会全体に広げることは困難でも、メンバーが協働しつつ、それぞれの立場でも取り組みを推進することを通じて、持続可能な紙利用の拡大、浸透を目指しています。

参画企業(2017年5月時点、50音順)

 

味の素株式会社、イオン株式会社、花王株式会社、カシオ計算機株式会社、キリンホールディングス株式会社、JSR株式会社、ソニー株式会社、株式会社ニコン、三井住友信託銀行株式会社

運営アドバイザー:株式会社レスポンスアビリティ


持続可能な紙利用を広げるために

「持続可能な紙利用のためのコンソーシアム」は、紙を生産もしくは販売する企業ではなく、製品パッケージや販促資材用の印刷物、コピー用紙や封筒類などの紙製品を自らで利用するために購入する企業や団体をメンバーとしています。

このコンソーシアムに参画する企業は、責任ある調達方針を策定し、運用することが求められます。より消費者に近い立場にある企業が責任ある紙調達を運用することで、サプライチェーンの下流にいる消費者・消費企業はもちろん、上流の事業者に対しても持続可能な紙利用を広めることを目指しています。

特にサプライチェーンの上流に対してこれを行なうためには、紙を生産、供給する側の企業の理解と協力が必要ですが、現状では紙製品を販売する企業や担当者が、利用側の環境や社会に配慮した紙が欲しい、または策定した調達方針に適合しているかを確認したいという意図を理解できないというケースも聞かれます。このような状況では、取り組みを前進させることは難しく、そのため本コンソーシアムではサプライチェーンの上流の理解と協力を得ることを目的に、次のような取り組みを行ないました。

「持続可能な紙利用のためのコンソーシアム」の紙利用に関する基本的な考え方

・信頼できる認証制度や再生紙を優先的に利用すること 

・保護価値の高い地域を破壊していないこと 

・伐採にあたって原木生産地の法令を守り、適切な手続きで生産されたものであること
・重大な環境・社会的問題に関わる事業者の製品ではないこと

取り組み報告1 製紙・供給企業とのダイアログ

製紙メーカー、印刷業、コピー用紙などのオフィス用品を販売するサプライヤー企業8社と1社ずつ、本コンソーシアムの取り組みの紹介や意見交換を行うダイアログを実施。以下のような質問が投げかけられました。

  • 製紙原材料や紙製品の調達方針の有無
  • FSC®認証紙の供給状況と認証紙が調達できない場合の持続可能性確認方法
  • 持続可能な紙利用のために行っている取組みやコミュニケーション
  • 本コンソーシアムへの要望や期待等

ダイアログに参加した企業(五十音順):アスクル株式会社、王子グリーンリソース株式会社、大日本印刷株式会社、凸版印刷株式会社、日本製紙株式会社、富士ゼロックス株式会社、三菱製紙グループ、株式会社リコー

参加した多くの企業からは、「大半の消費企業では、品質と利便性が同等ならば、価格が購入を決める際の大きな指標になってしまっていて、環境という要素が重要視されていない。さらに流通するほぼ全てが環境配慮型とされ、そこにはNGOなどから多くの問題が指摘されているような製品も実際には含まれるが、一般の消費企業には判断が難しい」などの点が指摘されました。

しかし、「そうした状況でも本コンソーシアムのような取り組みが始まっていることは歓迎でき、紙製品を扱う企業として、日々の事業活動を通じてこうした動きが拡大するよう努めたい」といった前向きな声もありました。

一方で、あるサプライヤーからは、「改善が期待されるサプライチェーンの上流に対しては、購入企業という影響力をもって改善を求めている。本コンソーシアムからすれば望ましくないとされる製品であっても、自社基準に照らし、確認したうえで販売している。ただ、品揃えは幅広く揃えているので顧客はその要件に適合する製品を選ぶことができる」といった声も聞くことができました。

取り組み報告2 サプライチェーンへのアンケート

紙は出来上がった紙製品だけを見ても、それがどのような環境、社会的配慮のもとで生産されたかを知ることができません。

そのため、特に植林木の利用に関しては慎重な確認が必要とWWFは考えます。例えば「この紙は植林木でつくりました」という言葉に、なんとなく良いイメージを持つ人も少なくないでしょう。もちろん植林地によっては、環境にも社会にも十分に配慮されて管理がなされている可能性もありますが、製紙原料用の植林地を開発するために、自然の森を破壊し野生生物や人々の暮らしを脅かしているといった問題も世界では報告されており、植林木だから環境や社会に配慮していると一概に言うことはできません。

古紙配合率や森林認証のラベルなどは、その紙製品の環境、社会的配慮について知るための有益な情報になりますが、そういった情報がないものも多くあります。そこで本コンソーシアムに参画し、責任ある調達方針を運用する企業の多くが、その調達方針に適合するかどうかをサプライチェーンの上流に尋ねるアンケートを行ない、購入する紙製品の原材料について確認しています。

アンケートを実施して

キリン株式会社 CSV本部 CSV推進部 藤原啓一郎

キリン社では、主に商品を包装する段ボールや板紙、ラベルなどに紙を使用していますが、これらが、違法な森林伐採からの原料を使用したものではないことを確認するために、サプライヤーへのアンケートを行なっています。

アンケートは、WWF ジャパンの協力の元、調達方針があるか?トレーサビリティは取れているか?バージンパルプの合法性は?といった内容で質問票を作成し、弊社の調達部経由で実施します。今回対象としたサプライヤーは数十社あり、それなりに手間と時間を要する事も想定されましたが、従来から調達部がサプライヤーCSRガイドラインに基づくアンケートを行っていたこともあり、サプライヤーの協力もスムーズに得られ、2か月程度で全ての回答を頂く事が出来ました。

アンケートの結果、森林の適法性の現地モニタリングまでされている先進的なサプライヤーもあれば、調達方針もまだ作られていないサプライヤーがあるなど、取組みの内容にばらつきはあったものの、少なくとも違法伐採についての問題意識を持ち、対策を取られている企業ばかりであることが確認できました。

多くのサプライヤーで充分な適法性の確認が行なわれていることが確認できたことから、今後は紙コンソーシアムでの製紙会社・印刷会社とのダイアログを活用するなど、確認の負荷を下げるための多面的な方法も検討していきたいと考えています。

以下は各企業の取り組みです。

(1)森林生態系にかかわる課題現場の視察

味の素株式会社 CSR部 専任部長 杉本信幸

スマトラ島リアウ州の植林地

視察の様子

持続可能な調達・利用のテーマは、様々な環境・社会課題が関係しているため、実効ある取り組みを行なうためには、課題の生じている現場実態をよく理解して順応的に推進することが重要です。企業として自らの判断に基づき意思を持って責任ある行動をとるために、重要な課題現場は、自らの目・耳で実際に確認しています。

森林生態系(紙・パーム)にかかわる課題現場の状況を確認するために2014年11月、インドネシア・リアウ州を訪問視察しました。リアウ州はパーム油や紙の不適切な生産による森林破壊が激しい、国際的に懸念が大きい地域です。

現地NGOの協力を得て、3日間、約600キロメートルにわたり、自然と人間の営みの接点の実情の把握に努めました。事実として、自然公園、保護区であっても生態系の破壊と消滅は激しいものがあり、様々な社会問題も存在するであろうことが見てとれました。同時に、その背景には多くの複雑で困難な問題が絡み合っていることも理解できました。

解決は決して単純でも容易なものでもありませんが、味の素グループは自らの責任ある行動と多様なステークホルダーとの協働・連携を通じ、課題解決に向けて貢献していくよう継続して努力します。

(2)製品カタログへのFSC認証紙採用事例

ソニー株式会社

ソニー株式会社では、紙資源が有限であることを認識し、紙資源を使用する場合には紙・印刷物の購入方針に沿って、森林認証紙や再生紙などの環境に配慮した紙の優先購入を推進しています。森林認証紙については、合法性だけでなく森林の持続可能性なども評価しているFSC認証紙の使用を進めており、アニュアルレポートなどのコーポレート刊行物、カレンダー、名刺などに、2014年度は合計279トンの紙を使用しました。

また、100%子会社であるソニーモバイルコミュニケーションズ株式会社では、スマートフォン XperiaTM Z5シリーズのカタログ約380万部で、FSC認証紙を使用しています。

(3)取引先とのコミュニケーションとグループ全体での取り組み

三井住友信託銀行株式会社 総務部 丸山春代

三井住友信託銀行は、2015年1月、グループ会社全体で取組むべく「CSR調達方針」を制定しました。CSR調達とコスト削減の両立を図ることを目指してグループ関係会社24社を個別訪問し、CSR調達への理解と実践を要請しました。グループ全体で発注先やアイテムを統合する集中購買の実施によって、環境・社会配慮および価格面でのメリットを出すことができたと考えています。現在では、名刺はFSC認証紙、コピー用紙は古紙配合比率100%の再生紙を採用しています。

また「持続可能な紙利用のためのコンソーシアム」の活動と並行し、参画企業としてサプライヤーとの交流を深めています。今後は、コンソーシアムの設立趣意の実現に向け、「サプライヤーとユーザーの協働」をテーマに対話をさらに重ねて参ります。サプライヤーとの協力関係を構築するとともに、紙調達における課題を各取引先企業とも共有し、調達における環境・社会配慮への重要性をご理解いただけるよう、広く根差した取組を実践していきます。これらの取組の成果はCSRレポートやホームページで公開していく予定です。

関係者コメント

WWFジャパン 森林プログラム 古澤千明

「持続可能な紙利用のためのコンソーシアム」の主体は、WWFジャパンではなく参画企業です。この2年間、参画企業各社による責任ある調達方針の策定や運用など多くの容易ではない取り組みを見ることができました。また本コンソーシアムとして取り組んだ製紙・供給企業とのダイアログを通じては、山積する課題を再認識できた点を含め、お互いをより理解するために有益であったと認識しています。今後、環境や社会に配慮した紙利用を一層拡大していくため、本コンソーシアムの参画企業と同じように責任ある紙調達に取り組む製紙・供給企業とも連携してゆけることを期待します。


持続可能な紙利用のためのコンソーシアム 関連資料

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問合せ

WWFジャパンウェブサイト 森林プログラム 古澤千明
(Tel:03-3769-1364 chiaki@wwf.or.jp)

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