持続可能な水産物調達を推進する欧米企業
2017/09/11
現在、ヨーロッパやアメリカでは、多くの企業が環境や社会に配慮した「持続可能な水産物」の調達方針を掲げて具体的な目標を公約し、サプライヤーや外部のステークホルダーと協力しながら、その達成に向けた取り組みを進めています。水産物を持続可能に利用していくことは、地球の生物多様性にとって重要な海洋環境の保全につながるだけでなく、企業が水産物を将来に渡って安定調達していくためにも欠かせません。日本においても企業の持続可能な水産物の調達に向けて、より踏み込んだ取り組みが求められています。WWFの調査による欧米の先進的な事例をご紹介します。
進む「持続可能な水産物調達」に向けた欧米の取り組み
過剰な漁獲や不適切な管理等により、将来に渡っての水産物の安定的な調達が危機に瀕する中、欧米では水産物を取り扱う企業の多くが、持続可能な水産物の調達方針についての具体的な目標を公約し、サプライヤーやNGOとその達成に向けた取り組みを進めています。
今回はその中から、特にWWFと協力して持続可能な水産物調達を推進する4社の取組をピックアップし、日本で水産物を取り扱う企業が、今後どのように持続可能な調達を推進していけるかを提案します。
事例その1:オーストリア Spar (スパー):
海岸線を持たない内陸の国オーストリアでも、魚を食べるのは一般的になっており、鮮魚コーナーの設置されている小売店も珍しくありません。その中で、世界有数の食品小売りチェーンで、オーストリアで大手小売店の一角を占めるスパーは、2009年に持続可能な水産物の調達目標を設定。2011年よりWWFと一緒にその目標達成に向けた取組を推進しています(※1)。同社は明らかに持続可能ではないと判断される水産物の調達比率を、2012年にWWFが評価した時点の38%から、2017年には3%にまで減少させました。さらにスパーは、消費者がコードを入力することによって店頭で販売されている魚がどの漁業で獲られたのかを遡ることができる「トラック・アンド・トレース」というシステムを自社ブランドの一部に導入するなど(※2)、調達の透明性を高める取り組みを行っています。
事例その2:フランス Carrefour S.A. (カルフール)
ヨーロッパ有数の魚食国であるフランスでは、日本人(年間の国民一人当たり平均49kg)には及びませんが、かなりの水産物(一人当たり平均33kg)を消費しています。以前日本に進出したこともあるカルフールはフランス最大の小売店で、2015年よりWWFと持続可能な水産物調達を推進しています。2016年に同社は、2020年までに鮮魚・冷凍食品部門で販売する水産物の5割を持続可能なサプラインチェーンからの調達とし、(ウナギやクロマグロ等の)特に危機的状況にある魚種の販売を中止すると発表しました(※3)。さらにWWFなどと協力し、世界的な問題となっている違法・無報告・無規制漁業(IUU漁業)への対策ガイドラインを策定しカンファレンスで発表するなど(※4)、漁業全体の持続可能性の向上にも積極的に取り組んでいます。
事例その3:イギリス Marks & Spencer (マークス&スペンサー)
寿司などシーフードの人気が高まっているイギリスでは、国民一人当たり年間20kg程度の水産物の消費があり、テスコやセインズベリーズをはじめとした多くの企業が持続可能な水産物調達に取り組んでいます。同国の主要な小売店であるマークス&スペンサー(M&S)でも、2010年にWWFの定める企業の持続可能な水産物調達の枠組みであるGlobal Seafood Charter(シーフード憲章)に署名し(※5)、持続可能な水産物調達や、漁業改善プロジェクト(FIP)等への支援を通じたサプライチェーンの持続可能性の向上を推進しています。同社は調達する天然魚を「MSC (Marine Stewardship Council: 海洋管理協議会)認証済みか、その取得を目指したFIPに取り組んでいるもの」とすることを目指し、それに至らない場合もWWFと持続可能性の改善に取り組んでいます。また自社の調達する天然魚について漁獲された海域や漁法を公表するなど(※6)、透明性のあるコミュニケーションに努めています。
事例その4:アメリカ Hyatt(ハイアット)
ヘルシーな食材としてシーフードに根強い人気があるアメリカでは、イギリスと同様に年間国民一人あたり20kgほどの水産物の消費量あり、ウォルマート・ストアーズやコストコホールセールなどの主要企業が、持続可能な水産物の調達方針と測定可能な目標を発表し、その達成に向けて取り組んでいます。ここで取り上げるアメリカの世界ホテルチェーン、ハイアットも2014年にWWFによる調達内容の審査に基づいて、2018年までにグローバルな水産物調達量の5割以上を責任ある調達に切り替え、又、水産物調達量の15%をMSC認証済みの漁業、及び、ASC (Aquaculture Stewardship Council:水産養殖管理協議会)認証済みの養殖業からのものとする目標を発表しました(※7)(※8)。一方、危機に瀕する水産物の調達を削減もしくは排除する取り組みを推進中です。そしてWWFと世界の従業員向けのトレーニングプログラムを実施するなどして、調達目標の達成に向けて改善を図っています。日本でもパークハイアット東京が2015年に国内ホテルで初めてのMSCとASCのCoC認証(Chain of Custody: サプライチェーンにおいて認証製品を取り扱うための認証)を取得し、レストランで持続可能なシーフードを提供するなどしています。
日本の水産物取り扱い企業への提案
上記のケースを含め、欧米では水産物を取り扱う多くの企業が、調達する水産物の持続可能性の向上について調達方針の設定に加え、具体的な目標を発表することで言わば公約し、その達成に向けた取り組みを推進しています。
日本では、水産物の調達において環境や持続可能性に配慮するとの方針を掲げている企業は少なくありませんが、欧米企業のように具体的な目標まで発表している企業はほとんどありません。もちろん地道に活動している日本企業もありますが、これらの企業が具体的にどのように持続可能な水産物の調達を推進していくのか、そして、どのようにその進捗を管理して取り組みを改善していくのかが外からは分かりません。
現在、世界の漁業資源は、その約9割が過剰利用か限界まで利用されている状況にあり(※9)、持続可能性が危ぶまれています。このことは企業にとって、水産物の将来に渡っての安定的な調達が危機に瀕していることを意味しています。
一方で、2020年の東京オリンピック・パラリンピックでは水産物を含めた持続可能な調達がテーマとなっており(※10)、日本での企業の取り組みにも世界的な関心が高まりつつあります。
WWFは、世界有数の水産物の消費国で輸入国でもある日本でも、水産物を取り扱う企業は、持続可能な水産物調達方針を明示し、具体的な目標を公約して、それを着実に進めていくことが必要と考えています。