南米の国・チリの海は、特別な海です。
南極海から北上するフンボルト海流と、
深層から湧き上がる湧昇流が、
無数のプランクトンを育み、魚の大群を呼び寄せる。
それをめあてに集まってくるペンギン、ペリカン、イルカ、クジラ、オットセイ・・・
世界屈指の豊かな生物多様性が広がる、この南米チリの海では、驚くほど多くの生きものたちが、命をつないでいます。
そして、実は日本に住む私たちも。
チリの水産物は、世界の食卓をも支えているからです。
ただ、その豊かさは、決して無限ではありません。
すでに水産業の急拡大で、さまざまな問題が起きています。
かけがえのない、海流からの贈りもの。
使い尽くしてしまうことなく、どうかこれからも、いつまでも。
それがこの海に生きる、みんなの願いです。

チリの海で、何が起きているの?
世界の「食」を支えるチリの水産業。
私たちもその恩恵を受けています。
しかしその一方で、海の環境と生きものたちを追いつめることに…
サケ(サーモン)養殖の急拡大

深い入江が連なるチリ南部は、サケの養殖に適した場所です。
そのため2000年代から養殖場が急増し、海洋保護区にまで広がっているところも。
産業としては成功しましたが、環境や人権の面で、さまざまな問題が起きています。
- サケの排泄物やえさの食べ残しによる汚染が起きている
- サケの病気の予防や治療用の化学薬品が多用されている
- いけすから逃げたサケによる自然界への影響も
- 海の利用などに関して先住民との対立が起きている
オタリア (アシカの仲間)

© Marcelo Flores / WWF Chile
養殖場の網を破ってサケを食べてしまうため、「害獣」として殺されるケースが起きている。
チリイルカ

© Sonja Heinrich/ WWF-Chile
生息数の減少に、サケ養殖場の影響があることも示唆されている。
チリ産の養殖サケの輸出先1位はアメリカ、2位が日本。
また、日本が輸入しているサケ・マス類の約6割がチリ産です。

天然魚の乱獲

海の食物連鎖を支える重要な魚、カタクチイワシやニシンの乱獲が起きています。
魚粉・魚油に加工され、養殖魚のエサとして使われるほか、
畜産用のエサや農業用肥料の原料として、世界に輸出されています。
- 一部の魚種の乱獲が生態系のバランスを狂わせる
- 海の動物たちが誤って漁網にかかり、命を落とす
ザトウクジラ

© Shutterstock / Tomas Kotouc / WWF
夏になるとチリの海へやってきて小魚などを大量に捕食。子育てに必要な体力をここで蓄えている。
マゼランペンギン

© Makoto Yoshida / WWF Japan
泳ぎは得意だが、漁網にかかると溺れてしまう。
日本が輸入している魚粉や魚油の多くは、チリや、
同じ海域でつながっている隣国ペルーから来ています。


日本から、チリの海への恩返しを!
WWFジャパンは、日本がチリの海に与える影響が大きいことから、2014年にWWFチリの海洋保全活動への協力を開始しました。生物多様性の保全と、持続可能な水産業への改善をめざして取り組みを進めています。
豊かな海の生物多様性を守る、WWFの4つの活動
野生生物の状況を調べて
保全計画に活かす

チリイルカの調査
© Makoto Yoshida / WWF Japan
シロナガスクジラやマゼランペンギン、チリイルカなどの生息状況の調査を行ない、危機要因を明らかにして保全計画に活かしています。2025年には、「謎多きイルカ」チリイルカの保全計画を完成させ、実施に向けた活動につなげる予定です。
海洋保護区の
管理を強化する

多様な立場の人が集い、
保護区の管理計画を作る
© WWF Chile
ここ10年で海洋保護区の指定は増えていますが、利用(生産活動など)が認められている場合も多く、保護区として適切に管理されていないところがほとんど。WWFは、住民、企業、行政などの関係者の協働による保護区の管理を推進し、守るべき場所が守られる先行事例を作り、広めています。
サケ養殖業を
環境や社会に配慮した形に

日本でもASC認証サケの普及をはじめ、
持続可能なサケ養殖業への転換に取り組む
© WWF Japan
サケの養殖はチリの海に多大な影響を与えますが、約5万人の雇用を支えてもいます。環境や人権に関する厳しい基準を満たす「ASC認証」の養殖企業による取得をはじめ、持続可能なサケ養殖業への転換に向けてチリ政府にも働きかけを行なっています。2022年には、チリで養殖されるサケの生産量の約30%までASC認証が増えました。
混獲の防止と、
乱獲を防ぐ漁業管理の強化

漁網が絡まったマゼランペンギン
© naturepl.com / Enrique Lopez-Tapia / WWF
カタクチイワシやニシンが今どのくらいいるか、獲り過ぎていないか評価する手法の改善や、その情報に基づいて持続可能な漁業が行なわれるよう管理していく方法の改善、混獲などによる他の生きものへの影響の把握と防止策の導入などを、政府機関や研究機関と協働で進めています。
海流の贈りものを、どうかこれからも、いつまでも。
海の生物多様性を守る、WWFの取り組みを、ぜひご支援ください。
人と自然が調和して
生きられる未来を目指して
WWFは100カ国以上で活動している
環境保全団体です。