からみ合う幾つもの危機が、
海を追いつめている。
© National Geographic Stock / Michael Nichols / WWF
アザラシにからみつく漁網、
一体、どこから来たのでしょうか。
嵐で、海岸から流されてしまった?
あるいは、違法な漁業の証拠を隠すために、
わざと海中に捨てられたのかもしれません。
今や、ほとんどの漁具がプラスチック製。
そのため、いったん海に流出すると、
いつまでも海中を漂い、多くの命を奪い続けます。
深刻な「海洋プラスチック問題」の一面です。
でも・・・この光景がうったえている危機は、
それひとつではありません。
写真に写っているのはハワイモンクアザラシ。
実はもう、1200頭ほどしかいない絶滅危惧種です。
かつて毛皮や油をとるため乱獲されたせいですが、
保護の努力が続く今も、減少は止まっていません。
原因は、沿岸の自然環境の多くが失われてしまったこと、
魚やエビが乱獲で減り、食べものが不足していること、
地球温暖化で海の環境が変化していること・・・
そして、こうした緊急事態に直面しているのは、
ハワイモンクアザラシだけではないのです。
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止まらない「獲りすぎ」
私たちの暮らしを支えてくれている漁業ですが、
過去50年間で、天然水産物の漁獲量は4倍以上に増加。
獲りすぎの状態になっている水産物も少なくありません。
中には、おとなになる前の未成魚までが獲られているケースも。
また、海鳥やウミガメなどを、
誤って獲ってしまう「混獲」もあとを絶ちません。
重りのついた網を使う底曳き網漁で、
海底の環境が破壊されることもあります。
漁業による影響は、
水産業の対象となっている生きものだけでなく、
広く海洋生態系全体に及んでいます。
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©Brian J. Skerry / National Geographic Stock / WWF
損なわれる自然環境
養殖には、過剰な漁業を抑える一助となる面もあります。
ただ、養殖に使う卵や稚魚は、海から獲ってきている、
という場合も少なからずあります。
また、養殖用のエサとして、天然の水産物が大量に
漁獲されているなど、決して乱獲と無縁ではありません。
さらに、養殆場の建設で沿岸の自然環境が損なわれたり、
魚の糞や、いけすの中に投じられたエサの食ぺ残しなどで、
養殖施設の周りの海が汚染されるという問題も抱えています。
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横行する違法・無法行為
乱獲をおさえ、
サステナブルな水産業をめざす動きを
踏みにじるかのように横行しているのが、
IUU漁業(違法・無報告・無規制の漁業)です。
大量の水産物を密漁し、
安い値段で売りさばくIUU漁業は、
海の生きものはもちろん、
ルールを守って操業している漁業者までも追いつめています。
さらに、だますようなやり方で労働者を船に乗せ、
劣悪な状態で働かせる実態も。
加工の現場では児童労働も起きており、
人権侵害という意味でも大きな問題です。
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流入が続くプラスチックごみ
陸上から海に流れ込むプラスチックごみは、
年間1,100万トンに及ぶといわれます。
これは、大型の旅客機6万8,000機以上に相当する量*です。
(*重量比)
また、漁網や浮きなどの漁具が、
使っている間に切れて流されたり、
海岸に置いてあったものが波にさらわれたりして流出。
これに絡まって自由を奪われ、
最終的に多くの生きものが命を落とすことになっています。
特にIUU漁業では、違法行為を隠ぺいするために、
わざと漁網などを海中に投棄することも。
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©James Morgan / WWF-US
海の緊急事態を、
一刻も早く解決するために。
人類は何千年もの間、海の生産力を超えない範囲で、
豊かな恵みの一部を使わせてもらってきました。
その知恵を今に活かし、
海と人との関係を修復していきたい。
WWFの海洋保全活動を、ぜひご支援ください。
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IUU漁業の撲滅をめざす
何より対策が急がれる問題にもかかわらず、日本での規制は遅れ気味です。WWFは、日本へのIUU水産物の流入状況を調査。IUU対策のための政府の検討会に参加し、規制や対策の強化を求めています。
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漁具の海への流出を止める
海洋生物に特に直接的な被害を及ぼすことから、WWFは漁具の流出防止に注力しています。日本の複数の沿岸域で、地元の漁業者や自治体と協力し、回収やリサイクルのしくみづくりに取り組んでいます。
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プラスチック全体の削減をめざす
包装容器や使い捨てプラを扱う企業に対し、リデュースを最優先とする対策の実践を呼びかけ、すでに10社の参加を得ています(22.4現在)。また、法的拘束力のある国際条約の発足を求めています。
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サステナブルな水産業への転換を促す
天然水産物の獲りすぎや混獲をなくし、養殖のやり方を環境に配慮した形にしていくために、漁業者や水産物の流通にかかわる企業に働きかけ、サステナブル(持続可能)な漁業への転換を促しています。
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消費者の参加機会を作る
サステナブルな水産物に特別なラベルを付けて販売し、消費者が選べるようにする「認証制度」の普及を進めています。また、社員食堂やレストランへ働きかけ、認証された水産物の提供の場を広めています。
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認証制度でIUU対策に貢献する
認証制度は、生産から消費までの間で「認証された水産物と、そうでないものとが混じらない」ことの徹底が図られます。そのため、IUU漁業で獲られた水産物の流通を防止するのにも貢献します。
©Antonio Busiello/WWF-US
©Brian J. Skerry / National Geographic Stock / WWF
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