【REDD+ 先進事例】異文化間対話と参画の促進
2013/05/09
コロンビアの環境と気候変動に関するアマゾン先住民円卓会議
概要
「コロンビアの環境と気候変動に関するアマゾン先住民円卓会議」の設立により、アマゾン川流域先住民族と政府関係者が一堂に会することとなり、REDD+国家戦略の開発に向けた参加型協議プロセスが実現しました。
ここで取り上げるREDD+先進事例は、協力して問題に取り組むこと、そして様々な利害関係者の能力を高め、REDD+政策の策定に参画させることの重要性を明確に示しています。
プロジェクトチームの状況を評価し適応する能力のおかげで、プロジェクトは現地コミュニティでの能力形成プログラムから、重要な利害関係者間における、REDD+の政策対話に向けたより効果的なメカニズムへと進化を遂げました。
その一環として、「コロンビアの環境と気候変動に関するアマゾン先住民円卓会議」が形成され、参加型の統合されたプロセスによりコロンビアのREDD+の諸問題への取り組みが進展するよう、先住民族、非政府組織(NGO)、政府機関からの意見が集約されることになったのです。
期待された変革点
- REDD+の方針策定プロセスにおいて、先住民族の意志決定能力を高める。
- REDD+国家戦略構築のプロセスに対する先住民族の参加を改善・増大させる。
- 森林について、先住民族とのコミュニケーションと知識交換を増大させる。
参加者
- WWFコロンビア
- アマゾン流域先住民族調整組織(COICA)
- コロンビア・アマゾン先住民族組織(OPIAC)
- パトリモニオ・ナトゥラル (コロンビアの生物多様性と保護区のための基金)
- コロンビア環境・持続可能な開発省(MADS)
背景
これまで、先住民族にはコロンビア政府のREDD+政策の重要な議論の中で疑念や懸念の声を発する機会がなく、彼らにとって不透明な状況が作られていました。コロンビア政府にとっては、多くのコミュニティが人里から遠く離れた奥地にあるため、全てに接触することは非常に困難でした。こうした状況に対処するため、WWF、コロンビア・アマゾン先住民族組織(OPIAC)、パトリモニオ・ナトゥラル、コロンビア環境・持続可能な開発省(MADS)、アマゾン流域先住民族調整組織(COICA)が連携し、気候変動や生態系サービス、適応策、緩和策、そしてREDD+といった重要問題について、先住民族が権利を持てるよう、キャパシティビルディングを行うことにしました。コロンビア政府がREDD+国家戦略の確立プロセスにこれらの問題を結び付けようと望んだこともあり、この取り組みによって、先住民族がこの対話の一端を担えるような参加型プロセスが構築されました。
利害関係者
直接的利害関係者
- プロジェクトの設計やさまざまな決定に関与するとともに、受益者となります。
・OPIAC(コロンビア・アマゾン先住民族組織)
・COICA(アマゾン流域先住民族調整組織)
・パトリモニオ・ナトゥラル(コロンビアの生物多様性と保護区のための基金)
・コロンビア環境・持続可能な開発省(MADS)
・WWF
戦略的利害関係者
- 物的・人的・その他の資源を提供します。
・森林炭素パートナーシップ基金(FCPF)
間接的利害関係者
- 直接的には関与しないものの、取り組みに影響を与えます。
・アマゾン川流域の先住民族
・外務省
・オンブズマン(行政監査委員)
・ボランタリー市場向けカーボンオフセットを生み出す企業
プロジェクト進展の流れ
2008年
独立系のカーボンクレジット取引業者が、コロンビアのアマゾンの森林を訪れ、先住民コミュニティに契約を申し出るようになりました。政府内にREDD+諸問題についての懸念が拡大します。同時に、WWF、COICA、およびOPIACが連携し、、コロンビアのアマゾン地方に住む先住民族と現地コミュニティに、気候変動とREDD+についての認識を広めるためのキャパシティビルディングワークショップを展開することにしました。
2009年
国家レベルでのREDD+諸問題への対処の重要性を認識し、REDD+をめぐる対話の場を設けるため、複数のNGO(非政府組織)が「市民社会REDD+円卓会議」を設立しました。そうしたNGOには、WWFコロンビア、フンダシオン ナトゥーラ(自然環境基金)、ザ・ネイチャー・コンサーバンシー(TNC)、コンサベーション・インターナショナル・コロンビア(CI)、アメリカ合衆国国際開発庁(USAID)、そしてエコヴェルサ・コーポレーションなどがあります。その後、環境行動と子供のための基金、並びに生物多様性と保護区のための基金(パトリモニオ・ナトゥラル)が、環境保全に関する新たな資金メカニズムを開発する関心を持ってこの円卓会議に参加しました。同時に、コロンビア環境・持続可能な開発省(MADS)、COICA、OPIAC、パトリモニオ・ナトゥラル、WWFは、キャパシティビルディングのために力を合わせると決め、コロンビア・アマゾンに関するREDD+国家戦略の設計に関して合意に達しました。
2010~2011年
炭素に関する諸問題と、「自由で事前の情報に基づく合意(FPIC)」の必要性が公的アジェンダ の中で認識されました。国際的レベルでは、森林炭素パートナーシップ基金(FCPF)がベルリンでの会議においてREDD+準備段階用準備提案書(R-PP)を承認しました。R-PPではFCPFの参加型アプローチを認める一方、そのセーフガードプロセスの強化、他の利害関係者を含めること、先住民の観点を取り入れた炭素排出の計測・報告・検証(MRV)プロセスの開発を勧告しました。国レベルでは、政府がREDD+国家戦略を国の政策として確立。地域レベルではWWF、OPIAC、パトリモニオ・ナチュラル、MADS、COICAが、先住民族と現地コミュニティ向けに気候変動、生態系サービス、適応策、緩和策、REDD+についてのワークショップを実施しました。
2012年
コロンビア環境・持続可能な開発省(MADS)が、REDD+プロジェクト登録簿を確立するための決議案を作成しました。OPIACはパトリモニオ・ナトゥラルとWWFの支援を得て、「環境と気候変動に関するアマゾン先住民円卓会議(スペイン語ではMIAACC)」を創設しました。その目標は、テリトリー・環境・気候変動・REDD+に関する政策と戦略および活動を定めるために、分析と議論、そして合意形成を図る公正な意志決定の場を作ることです。
成果
- 「環境と気候変動に関するアマゾン先住民円卓会議」の設立。その結果、REDD+についての議論と対話が促進され、炭素市場および同様のREDD+諸問題に関するプロセスを明確化する必要性について、より認識が高まりました。
- 先住民族は現在、彼ら自身の森林管理計画と土地利用計画を有しており、それらはREDD+の取り組みの中に組み込まれています。
- 10回のワークショップが開催され、40の先住民コミュニティから700名の人々が集まり、気候変動、生態系サービス、適応策、緩和策、REDD+に関する問題について、コロンビアのアマゾンでトレーニングを受けました。ワークショップの内容と方法論に関し重要な教訓が特定されるとともに、その中に先住民族の知識と考え方が取り入れられました。
- コロンビアでの国家政策と戦略を構築するに当たってのこうした参加型のアプローチは、国際的な評価を受けています。
10回のワークショップ開催と、40の先住民コミュニティから700名が参加し、気候変動、生態系サービス、適応策、緩和策、REDD+の問題について、コロンビアのアマゾンでトレーニングを受けました。
課題
- 適切な資金と人的資源の不足。より多くの資金提供者やパートナーからプロジェクトへの支援を得られた可能性があります。
- アマゾン最深部へのアクセスの難しさ。
- 特に「自由で事前の情報に基づく合意(FPIC)」に関連する法制度の未整備。REDD+に関する協議プロセスをより明確に定義する必要性があります。
得られた教訓
- 参加型の政策決定プロセスの成功は、多様な利害関係者間における対話と知識共有の推進にかかっています。当初、各関係者とグループ(学術、科学、文化等)は、それぞれ自分たちの考えを持っていました。対話が進展するにつれ、これらの考え方は、各利害関係者全員からのインプットを盛り込んだひとつの集団的プロセスに統合されていきました。異なる視点を伝え合うことで、そのグループや個人の見方がより高められ、包括的かつ参加型の公共政策の策定が促進されました。
- 参加型の政策決定プロセスでは、各利害関係者は、自分たちの見解を明確に定める必要がありますが、様々なグループのニーズに適応するために、柔軟性も必要とされます。非政府組織(NGO)、先住民団体、政府機関、そして他の利害関係者の代表者たちは、自分たちが何を望むのかを分かっている必要がありますが、それと同時に、状況に応じて必要な変更をいとわない柔軟性も必要になります。どのプロセスにも困難は存在しますが、そうした困難を克服する代替案を探したり、解決策を見つけるため違った道を選んだりすることが重要です。
- 公共政策の確立の成功は、トップダウンとボトムアップという、二つのアプローチを統合することで達成されます。地域レベルや国レベルに取り込みうる重要な知識が現地にあり、一方、それと同時に、国レベルでの政治的意志が、現地や地域レベルでの重要な変革の原動力となる可能性があります。これらのアプローチを統合することで、政策の成功率が高められます。
その他のコメント
- REDD+は、かつてほぼ排他的に、炭素プロジェクトおよび炭素市場に結びついていました。このことが、不完全な情報に基づく非現実的な資金への期待を生み出しましたが、そうした情報は、身勝手な目的を持つ独立系炭素ディーラーによるものであったことが少なくありませんでした。REDD+の対話が、先住民族と現地コミュニティを含むより多様な利害関係者へと拡大するにつれ、能力が高まり、より広範な恩恵をもたらすREDD+の法的枠組みが形成されるようになりました。
- 重要なのは、先住民族と現地コミュニティからの幅広い参加を得て、REDD+政策の策定にボトムアップアプローチを統合することです。コロンビアでは公共政策に関して、パブリックコンサルテーションが義務付けられていますが、単にこれを認めるだけでなく、真の意味での協議を行なう参加型プロセスを構築し、実施する能力を持つことが重要です。
- コロンビアのREDD+国家戦略対話において、先住民族は、単に政治的観点ばかりでなく、彼らの森林管理と保全に関する伝統的知識という価値から見ても、極めて重要な参加者と認識されています。国際的な討論の場 への先住民族の参加もまた、現地プロセスを育成するリソースを得るための重要な要素になります。
- 先住民族には、居住するテリトリーの土地利用に関して長年維持されてきた了解事項があり、何世紀にもわたってそれを管理してきました。例えば、どのエリアが釣りや動物の繁殖専用に使用されるのか、またどのエリアが神聖な場所であるかといったことを、彼らは特定することができるのです。先住民族は往々にして独自の非公式な土地管理計画を有しており、それに基づいて土地利用を制限したり、不適切な土地利用を糾弾したりしています。こうした理由から、REDD+の土地利用計画の策定に、先住民族を含めることが重要なのです。