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目撃者の証言:八重山の海から魚が消える
日本(沖縄):仲田森浩さん
沖縄本島から南西に400キロ離れた石垣島でウミンチュ(漁師)として暮らす仲田森浩さん。豊かなサンゴ礁に囲まれ「どんなに魚を獲ってもなくならない」と言い伝えられてきた八重山諸島の海で漁を続けてきました。しかし近年、多くのサンゴ群落が壊滅し、それに頼っていた魚も激減。漁師の生活も厳しさを増しています。仲田さんは、環境の変化の一因に、水温の上昇や気候の変化が関係しているのではないかと感じています。
八重山のサンゴ礁からの証言
私は仲田森浩といいます。漁師の世界に入ったのは21歳の時です。漁師である父親の船に乗り込んで漁をはじめて28年目。父親の代に技術が確立した小型定置網漁とカゴ網漁を今も引き継いでいます。
私が海に入った頃は、サンゴはまだ健全でした。しかしまもなく、急速にサンゴが死滅し、魚が激減してきています。この八重山で、サンゴ礁無しに漁業はありえません。原因は、赤土の流入などによる被害と同時に、台風の増加や水温の上昇など、気候の変化も影響しているのではないではないでしょうか。
豊かな八重山の海
私が海の世界に入った頃は、カゴ網漁や小型定置網漁を中心に漁をしていました。定置網漁というのは、干潟とサンゴ礁の境目に網を設置して魚を獲る漁です。漁をはじめたばかりの頃は、2つほどの網を回収するだけで、船が満杯になるほどの水揚げがありました。
一方、夏場のカゴ網漁は、直径1メートルほどのカゴ網を使う漁法です。エサの入ったカゴを海底に設置して、サンゴ礁にいるカラフルな魚を狙います。かつては、1匹で2キロもある高級魚のスジアラが1日で7~8本くらい、フエダイの仲間は、20~30匹は獲れました。
当時は、大人がかくれんぼ出来るほどの高さのエダサンゴの群生があり、そこに沢山のハタが産卵にやってきます。それはまるで、ジャングルジムが延々と続くような見事なエダサンゴの群生で、とにかく魚がハンパじゃない。
この頃は、海に潜ってハタを1匹1匹モリで突く漁もしていましたが、魚でサンゴが見えないくらい。それほど豊かな海でした。
魚が獲れなくなってきた
漁の世界に入って数年すると、急速にサンゴが白化し、ブルドーザーで押しつぶしたようになってしまいました。
すると、もう一網打尽です。守ってくれるサンゴがないために、ハタの産卵場所が丸見えとなり、魚が一気に獲られてしまいました。すると、みるみる水揚げが減ってきました。
以前は、カゴ網漁だけで充分な水揚げがあり、それだけで充分な収入が得られました。しかし、10年ほど前には3分の1に減り、ここ5~6年は採算が取れない日もあります。魚は激減し、「幻の魚」になってしまった魚が数種類います。ひどい状況です。
一方、他の漁法と競合してない定置網漁でも水揚げが減っています。 今の時期は産卵期。まとまって魚が獲れるシーズンなのですが、やはり獲れない。みんなで採っている魚だけが減るのではなくて、わずかな定置業者が細々ととっている魚も減っているのです。
その原因もやはりサンゴです。多くの魚が、サンゴ礁の壊滅によって産卵場所を失い、個体数自体が減っている。そう考えざるを得ません。
水温の上昇と海の環境
1998年に、高水温が続いて、広い範囲でサンゴが仮死状態になり、色鮮やかなイソギンチャクも真っ白になるということがありました。
この時は、シャコ貝さえ、真っ白に白化していました。今、私たちは、水温や気候の変化に敏感にならざるを得なくなっています。
確かに、かつては、真冬の漁に出る際は、ウエットスーツのほかに雪用のウエアを重ね着していました。しかも、あまりの寒さに我慢できず、年に数回、漁をせずに帰ってくることもありました。
しかし、今では、トレーナー1枚あれば真冬でも大丈夫なほどの暖かさ。寒さで漁に行けないといったことは、ここ15年くらい一度もありません。冬が来なくなりました。
また、台風も変化しています。台風はかつて、一月くらいに1号が発生して、30号くらいになると石垣島に影響を与えていました。しかし、最近は発生数が少なくなったり、とてつもなく大きなものが来たり、統一性がなくバラバラで、全く進路が読めなくなってきました。
こうした激しい台風が通過すると、せっかく5~6年で急速に成長したサンゴも、バタバタと倒れて、すぐに壊滅してしまいます。とにかく最近は、サンゴの死に方のピッチがものすごく早い。だから昔のように、背丈まで伸びるということはなくなってしまったのです。
サンゴを食べつくすオニヒトデの大量発生も問題です。オニヒトデは、低水温だと動きが悪く、高温だと動きが活発になります。オニヒトデもまた、私がこの世界に入った直後に大量に発生し、その後、発生頻繁が増加しています。
再び豊かな海を目指して
私が小さい頃は、この八重山の海に、サンゴのない場所はないくらいでした。昔のイメージでは一面サンゴ畑。ただ近年は、サンゴがなくて当たり前という海域もあり、本当に海が変わったなという印象です。
サンゴが無くなると、やはり不安です。サンゴがなければ、生活が成り立たないというのが身にしみて分かっていますから。
観光客を相手にサバニクルーズをはじめたのは10年前。夏場に魚がまったく獲れなくなり、採算が取れないことに危機感を抱いて、経営的になんとかしなければという思いが原点でした。
当初は、漁協で禁漁を提案しましたが、全体で禁漁するというのはなかなか意見がまとまらない。結論をただ待っていても仕方がないと思い始めたのが、このサバニクルーズです。
サバニとは、漁に使う小型船。これに観光客を乗せて、サンゴ礁の海や汚染された漁場を案内し、海の環境について考えてもらう、いわゆるエコツーリズムです。
大した効果は出ないかもしれないけど、1人でもそういう方向に行けば、将来的に、漁師仲間の意識が変わるかもしれない。そういう思いでした。
今では、漁協での禁漁も決まり、毎年4月、5月の2カ月間、全体で禁漁する取り決めが定着しています。
父親たちがやってきた漁、昔の先輩がやってきた漁。普通の漁をして、普通に生活していけるためには、豊かなサンゴ礁。それが目標です。かつての海に戻れたら。それが一番の幸せです。
WWFインターナショナル/ホームページ掲載日:2010年7月27日
Climate Witness: Morihiro Nakata, Japan
科学的根拠
サンゴ礁は世界的な減少が深刻な問題となっている。環境省がまとめた報告書「気候変動への賢い適応」によると、すでに30%のサンゴ礁が甚大な劣化状態にあるという報告もある(Jackson et al;, 2001)。原因としては、漁獲に伴って物理的に破壊されること、埋め立てなどのよる物理的な改変、台風の巨大化と頻発化による破壊、オニヒトデの大量発生による食害などが指摘されている。中でも高水温に伴うサンゴの白化、及び病気の急速な拡大が1980年代以降各地で頻繁に報告されるようになった。(原沢・西岡、2003、Weil et al., 2006).仲田さんの言う1998年の白化は、世界的に起こった現象である(環境省・日本サンゴ礁学会、2004, http//:www.wwf.or.jp/shirahonature/hakuka.htm)
IPCCによると、サンゴは熱ストレスに脆弱であり適応能力が低いため、約1~3度の海面温度の上昇は、サンゴに熱に対する適応や順応が生じない場合、より頻繁な白化現象と広範な死滅をサンゴにもたらすと予測されている。(IPCC WG2 Summary for Policy Makers)また、サンゴが打撃を受けることによって、仲田さんがすでに目撃しているように、サンゴに依存して生息する多くの生物の消滅を招くと予測されている(Reynaud et al., 2003)
気候変動への賢い適応 -地球温暖化影響・適応研究委員会報告書「第2部第4章 自然生態系分野」
4.2.(6) 沿岸生態系(サンゴ礁・マングローブ・干潟・藻場・砂浜等)12p, 2008環境省
http://www.env.go.jp/press/file_view.php?serial=11631&hou_id=9853
原沢英夫, 西岡秀三, 2003:地球温暖化と日本第 3 次報告-自然・人への影響予測-, 古今書院, 411pp.
Jackson J.B.C., Kirby M.X., Berger W.H., Bjorndal K.A., Botsford L.W., Bourque B.J., Bradbury R. H., Cooke R.,
Erlandson J.,Estes J.A., Hughes T.P., Kidwell S., Lange C.B., Lenihan H.S.,Pandolfi J.M., Peterson C.H., Steneck R.S., Tegner M.J. andWarner R.R., 2001: Historical overfishing and the recent collapse of coastal Ecosystems, Science, 293, 629-638.
Reynaud, S., N. Leclercq, S. Romaine-Lioud, C. Ferrier-Pages, J. Jaubert,and J. P. Gattuso (2003),
Interacting effects of CO2 partial pressure andtemperature on photosynthesis and calcification in a scleractinian coral,Global Change Biol., 9, 1660- 1668.
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公開日:2010/07/27
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