目撃者の証言:桜と地球温暖化


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日本(京都):佐野藤右衛門さん

天保3年(1832年)創業の「植藤造園」16代目の佐野藤右衛門さん。京都御室の仁和寺領で庭の御所の手入れをしていた植木職人の家系で、祖父の代から桜守として、全国の桜を訪ね歩くようになりました。気候によって毎年花のつき方が変わる桜。今年は桜の花の色が薄いと言います。今でも、藁葺き屋根の家屋で暮らす佐野さんは、自然がおかしくなっているのではなく、人間がおかしくなっていると訴えかけます。

日本の桜守の証言

私の名前は佐野藤右衛門です。京都右京区の山越という場所で造園業を営んでいます。この名前は、親父が亡くなったときに襲名しました。我が家では代々跡目を継ぐものが藤右衛門の名を継承することになっています。私は16代目。先祖は御室の仁和寺領で、御所の手入れなどをしていました。
かつて日本では、桜の花の開花を、田植えや漁業の目安に使っていました。それだけ人間の暮らしに密着していたのです。桜とつきあっていると、人間こそが暮らしを変え、自然とうまく調和していく必要があると感じます。

佐野藤右衛門さん
(c)WWF Japan/OurPlanet-TV

桜守として

桜を見るようになったのはおじい(祖父)の代からです。桜も生き物ですから、いずれ枯れて死んでしまう。日本では、全国各地に名桜が沢山残っていますが、その桜もいずれは枯れる。

祖父は、そんな名桜を後世に残しておこうと、桜の跡継ぎを作ろうとしたわけです。 各地にある巨桜、名木があると聞きつけると、出かけて行って、桜の接ぎ穂を貰って苗を育てる。千島や樺太まで渡ってまで、桜を探して歩いたというから大変な作業です。
これで桜の苗木を10万本作りました。

そんな祖父の後ろを歩いているうちに、私も知らず知らずのうちに、自然の摂理を教えられました。私が桜について本格的に取り組むようになったのは、親父が死んでからです。
すでに芽がある木から花を咲かすということは、人間でもある程度できます。でも、芽が出なければ何もできません。木の命とか、木の生かし方を強く意識するようになったのは、桜と付き合いはじめてからです。

今も桜を守り続ける佐野藤右衛門さん

天候によって変わる桜の花

桜は、その年によって、花の数や色が異なります。そのほとんどは、前年の夏の気候が影響しています。

夏は桜にとって、成長の季節。葉桜の時期は、桜は根から吸い取った養分を枝先に運んで光合成を促し、それが落ち着つくと、今度はその養分は幹に回ります。本格的に幹が太りはじめるのはお盆過ぎ。この頃、次の春に花を咲かせる花の芽が出来るのです。これをゼロ芽といいます。つまり、桜の花はこの時期に準備が始まるわけです。

いったん芽吹いた桜の芽は、植物の生理現象で、冬の間に、つぼみの中にどんどん、どんどんエネルギーを溜め込んでいきます。それがある時期になると、ぐうっとふくれ、ちょうど15度から20度くらいの気温に定まったときに、花が開くというわけです。
ただ、最近は、冬がなくなってきているので、桜も完全に変わってきています。まず今年は色が出ない。以前はもっと濃かったのです。

また、2009年はすでに2月の時点で15度くらいまで気温が上がってしまったために、まだつぼみが小さいときに、びっくりしてぱかっと口を開いてしまいました。それが3月に入ると再び寒くなったため、中途半端な状態で枝にしがみついたまま、次の営みに移れない。そんな状態が2週間も続いています。

花が早く散ればその後、すぐに葉が出るのですが、今年はなかなか葉の芽が出ない。その葉の芽が出ることで桜の1年が始まるわけですから、これからどうなるか、気になっています。

気候変動に弱いソメイヨシノ

ヤマザクラ、ヒガンザクラ、オオシマザクラというのは、日本の自生の桜です。
もとをたどれば、ヒマラヤから来たといわれています。ヒマラヤザクラというのがあって、鳥や虫が東に東に運び、長い期間をかけて日本にたどりついたと言われています。日本は四季があって、水がある。たまたま桜にとって好条件が揃っていたのでしょう。

今、日本では園芸品種を含めれば、300種類以上の桜はあります。ただ、最近人気のあるソメイヨシノは人間が作った花。なぜ、こんなに全国に広まったかというと、ソメイヨシノは接ぎ木がしやすいのです。それに成長がものすごく早い。しかも、どこで植えても同じように咲くからです。

ただ、ソメイヨシノは人間の手で作られた桜だから、種がありません。寿命も短く、子どもが生まれることはありえません。幹もなく、土から枝が出ている状態ですから、雨や暑さなどの天候にも弱い。最後まで人間が関わらないと生きていけない運命にあります。

このところ、夏に大雨が降ることが増えていますが、ソメイヨシノは雨が多いと根腐れがおきやすい。このまま大雨が多いなどの異常気象が続けば、全国に植えられているソメイヨシノはかなり危機的でしょう。

ソメイヨシノが短命なことは、開発されてから100年以上経った最近になってようやくわかりました。植物の世界では、本当のことは、1世紀経たないと分かりません。
植物というものは、動くことが出来ない。そこにしかいられないから、自分が生きていけるように、自分でバランスを取ろうと一生懸命考えている。今は人間が自然を無茶苦茶にしているから、桜も次第に衰退してきています。

名桜と称えられる桜が枯れかけたら、人間は大騒ぎして保護しようとしますが、目の前の一本だけを保護しても意味はありません。自然がおかしくなっているのではなく、人間の生き方がおかしくなって、自然界全体に影響しているのです。
変えていくべきなのは、消費一辺倒で使い捨てをする、人間の暮らしのほうではないでしょうか。

科学的根拠

佐野さんの証言のように、ソメイヨシノは人間の手で作られた桜で、日本全国に普及しているソメイヨシノはいわばクローンで、開花するときには、いっせいに咲くという特徴があります。その開花は、気温条件と強い相関性があります。近年の平均気温の上昇で、ソメイヨシノの開花は早まってきました。気象庁によると、日本全国平均では、この52年で4.2日早くなっています。大都市の平均では、都市のヒートアイランド現象の影響も加わって、50年間で6.1日早くなっており、中規模の都市では2.8日早くなっています(*1)。(全国6大都市と中小規模の都市17地点のうち桜の開花を観測している11地点)

一方、桜の開花には、春先の暖かさだけではなく、冬の低温も関係しています。桜は秋に休眠に入りますが、それを解除するためには、冬の低温の期間が一定以上続くことが必要です。休眠が解除された後に、一定以上の暖かさの期間があってはじめて開花します。温暖な地方では、冬季の気温が上昇することによって、低温期間が不足してきており、桜の生態に影響が出始めています。いずれは桜の生存そのものが困難になる地域もあると予想されます(*2)。

環境省2008年6月発表の「気候変動への賢い適応」によると、2082年から2100年の間に、1981年から2000年の桜の平均開花日から比べて、東日本、北日本においては、さらに14.5日早まると予測されています。また開花時期の変動が大きくなる可能性があります(*3)。
桜の開花は、古来から農業や観光に活用され、日本人の生活に深く溶け込んでいます。桜の開花がずれると、日本人の季節感そのものが変わってゆくかもしれません。

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