目撃者の証言:ワイン農家で起きている変化


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ヨーロッパ(フランス):ルネ・ミュレさん

ルネ・ミュレさんは、フランスのアルザス地方で11代続く、ワイン農園の経営者。1973年からワインを作り続けてきました。しかし、この十数年の間に、ブドウの花の咲く時期や、実の熟す時期が、早まってきているといいます。気候の変化がもたらした、ブドウの質への影響は、出来上がるワインそのものにも、及んでいます。

アルザスのブドウ園からの証言

私の名前はルネ・ミュレといいます。60歳です。フランスのアルザス地方で「ドメーヌ・デュ・クロ・サン・ランドラン(Domaine du Clos St Landelin)」という古いブドウ園を経営しています。この南向きのブドウ園は、粘土質と石灰岩の土壌を持つ、アルザスで最も日当たりのよい場所にあります。私は、この土地で11代続くワイン生産者の家に生まれました。そして、1973年からワイン造りを続けています。

ルネ・ミュレさん
(C)Rene Domaine

ブドウの異変

1970年代、80年代には、ブドウの花が咲き始めるのは、6月15日ごろでした。ところが今では、6月1日頃に開花し始めます。2007年は5月15日に、2008年は5月30日に咲き始めました。
ブドウの実の成熟はさらに早まっています。70年代から80年代には、収穫は10月1日に始めたものですが、現在は9月15日頃になっています。

開花と、ブドウの実の成熟の早まり。これによって、ブドウは9月ではなく、8月の暑い時期に熟すようになりました。さらに、実が成熟する期間も、短くなりました。1980年以前と比べると、ブドウが成熟する時期は、太陽が一番高くなる暑い時期に近づいています。

ブドウ園が広がるフランス東部の
アルザス地方。
(C)Rene Domaine

ワインが変わる

ブドウの実の成熟が早まった結果、ブドウの糖度は以前より高くなりました。一方で、酸味は1980年以前より低くなっています。
赤ワイン用のブドウを生産する際には、糖分の熟成が、タンニン(ポリフェノールの一種。苦味の成分)の熟成よりも早く進むので、バランスを上手く取ることが難しいのです。

暑くなったことで、短時間でブドウの果実の香りが醸成されるようになりましたが、これは、アルザスワインには珍しいことです。そして、以前に比べてアルザスワインは酔いやすくなりました。
しかし、最近の消費者には、甘みの少ない、さっぱりとした軽いワインが好まれています。

ルネ・ミュレさんは、温暖化する気候が成長期のブドウに影響を与えるため、異なる品種のブドウを使って実験をしている。
(C)Rene Domaine

変化への適応

私たちワイン産業に携わる人々は、ブドウの木の栽培方法を変化に適応させることで、地球温暖化に対応しなければなりません。
太陽の平均的な位置で考えてみると、成熟が15日間早まったということは、緯度でいえば2度から3度の違いに相当します。

地球温暖化によって生じた新たな栽培環境に合う、異なった種のブドウを栽培してみることは有効な適応策でしょう。たとえば、赤ワイン用のシラー(syrah)、カベルネ(cabernet)、グルナッシュ(grenache)や、白ワイン用のマルサンヌ(marsanne)、ルーサンヌ(roussanne)、グルナッシュ・ブラン(grenache blanc)といった南部のブドウ種です。

ワイン産業を監督するフランス国立機関、原産地呼称委員会(Institut National des Appellations d'Origine, INAO)は、気候の変化を考慮し、規定に適用しなければならないと思います。

WWFインターナショナル/ホームページ掲載日:2008年6月18日
Climate Witness: Rene Mure, France

科学的根拠

エリック・マルタン博士(Dr Eric Martin, CNRM-GAME/GMME/MC2 フランス気象庁
(Meteo-France) トゥールーズ(Toulouse))

ヨーロッパに影響を及ぼしている気温の上昇は、重大な結果をもたらしています。その一つが生物季節学、つまり動植物の季節行動の時期の変化です。ワイン用のブドウは気候条件、特に気温に非常に敏感であることが知られています。1970年前後のアルザスでは、ブドウの木の成長に適している一日の平均気温(摂氏10度以上)の日数が170日でしたが、20世紀終わりには210日まで増えました(Duchene and Schneider, 2005)。さらに、同じ研究論文の著者による検証では、現在の気候変化の影響はワインの品質にも影響しているとしています。

ミュレさんが述べている変化の全ては審査された文献と完全に一致しています。

  • IPCC report Working group 2 chap 1 : Assessment of observed changes and responses in natural and managed systems: 1.3.5.1 : changes in phenology,Box 1.2 : Wine and recent warming),Box 1.3 Phenological response to climate in Europe : the COST725 project http://www.ipcc.ch/pdf/assessment-report/ar4/wg2/ar4-wg2-chapter1.pdf
  • Duchene, E. and C. Schneider, 2005: Grapevine and climatic changes: a glance at the situation in Alsace. Agron. Sustain. Dev., 25, 93-99.

全ての記事は「温暖化の目撃者・科学的諮問委員会」の科学者によって審査されています。

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