目撃者の証言:恵みの海が泣いてる


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中央・南アメリカ(ベリーズ):シドニー・ロペスさん

カリブ海に面した中央アメリカの国、ベリーズ。その海沿い町プラセンシアで生まれ育ったシドニー・ロペスさんは、自分が漁業を営んできたサンゴの海と、周辺の自然が、大きく様変わりしてきた様子を目の当たりにしてきました。予測が難しくなった天候、海水温の上昇、そして漁業資源の乱獲。さまざまな問題が、豊かだった海を蝕んでいます。

メソ・アメリカの海からの証言

私の名前はシドニー・ロペスといいます。漁師ですが、ツアーガイド、大工の仕事もしています。56歳です。ベリーズのスタンクリーク州のプラセンシアという町で生まれ育ちました。私は何世代も続く漁師の一家に育ち、若い頃から漁をしてきました。14歳で学校を卒業してからずっとです。しかし、最近は魚が減ってきたのでツアーガイドや大工の仕事もするようになりました。

シドニー・ロペスさん
(C)Sydney Lopez Sr.

変貌する気候

私はこの地域の気候が変わってしまったと考えています。この新しい気候を予測することは、とても困難です。
まず、突然寒さが訪れるようになりました。以前は12月初旬に寒くなり、その寒さが数週間続いたものでしたが、現在では、寒くて冷たい雨が1日か2日続くだけです。さらに、6月の天候が4月のようになりました。ベリーズでは6月から11月まで続く雨期の間に、大量の雨が降ります。しかし今では、そういったことがめちゃくちゃになってしまいました。以前はどの時期に、どのような天気になるか、はっきりわかったものですが、3年ほど前からは、予報が本当に難しくなりました。

「サウス・ウエスター」と呼ばれる、南西から吹く嵐も、以前と大きく変わってきています。
この嵐はこれまでは主に、6月から11月の雨期の間に発生しましたが、今は一年中、いろいろな時期に発生するので予測が出来ません。激しい暴風雨によって、ベリーズ北部では鉄砲水が起こっています。プラセンシアでは、それほど直接の被害に遭っていませんが、北部の河川から大量の水が流れてくると、ロブスター漁などの漁業が影響を被ります。土砂が流入して海水が濁り、海の中で何も見えなくなってしまうのです。

ベリーズ南部の港町プラセンシアの海岸。周辺では、マングローブの消失や土砂の流入など、さいまざまな問題が起きている。
(C)Sydney Lopez Sr.

ベリーズで漁獲されるカリブ海のロブスター。
(C)Anthony B.Rath/WWF-Canon

海岸の浸食

この嵐などによって、北部では海岸線が激しく浸食されていますが、驚いたことにプラセンシアでは浜辺が拡大しています。プラセンシアの海辺には、東に伸びる岬があるのですが、北部で洪水により浸食され、押し流されてきた土砂が、この岬に堆積し、浜辺を広げているのです。

プラセンシアの沖に浮かぶ島々も浸食されています。プラセンシア沖合いのラングアナ島やハンティング・ケイ島では、昔は砂浜だったところが、今では、ほとんど水中に沈んでしまいました。海面はこの5年ほどの間、上昇し続けているようです。

ベリーズ・バリア・リーフは、世界でも屈指の多様性を誇るさんご礁の1つだ。
(C)Anthony B.Rath/WWF-Canon

ハリケーンと地域開発の影響

プラセンシアや、その周りの主にサンゴ礁でできた海抜の低い、小さな島々のマングローブの森は、失われつつあります。時間の経過とともにマングローブの林は大きく変わりました。ハリケーンによる影響でその多くが枯れ、しかも残ったマングローブを、人々が伐ってしまっているのです。
これらの人々は、マングローブを全て伐り払って、埠頭建設などの開発を進めようとしています。以前、マングローブの樹皮は靴革の染色など、さまざまな用途に使用されていましたが、今ではむしろ邪魔なものと考えられています。嵐や暴風雨の際に、島を守ってくれる防御壁としてのマングローブの利点を、人々はわかっていないのです。

以前、海岸には、4月から5月にかけて、たくさんの渡り鳥が飛来していました。しかし、今はもうそうではなくなってしまいました。これは、開発による生息環境の破壊と、気候の温暖化が影響しているためと私は考えています。もともと渡りをしない鳥たちについては、これまでとあまり大きな変化はみられません。
それでも、私が子どもの頃には、もっとたくさんの動物たちがいたものでした。昔は野生動物がくらせる茂みが、たくさんあったからです。それが今では少なくなっています。アライグマなどの動物たちはすみかを失い、数を減らしています。動物の種数も減っており、人間と開発ばかりが増えています!

サンゴの海の死

現在、ますます温暖化が進み、気温も海水温も高くなっています。海水温の上昇はサンゴの白化を招きますが、近年、この現象は特に深刻化しています。1998年の後半には、大量のサンゴが白化し、海は大きなダメージを受けました。

とりわけ、沿岸で見られたエルクホーンとスタグホーンという2種のサンゴが、多く死んでいます。死滅の原因の大半は、過去のサンゴの白化現象ですが、河川沿いのバナナ農園やエビの養殖場から流出した農薬の影響も、あるのではないかと考えています。とりわけ、激しい雨が降ると、そのたびに農業に含まれる化学物質が多く海に流出します。さらに、多くの樹木も、このような事業のために伐採され続けています。

観光客が使う日焼けローションも原因のひとつだと思います。観光客が集まる沿岸の海水には、ローションの成分である多くの油分と化学物質が含まれていますし、それが着いた手で人々はサンゴに直接触れたりもします。日焼けローションはサンゴに悪影響を与えるのです。

サンゴ礁で主に見られる、ロブスターやホラガイも減少しています。今では、以前よりも深く潜らないと、ホラガイは見つけられません。私が若い頃は、ホラガイは本当にたくさんいたものでした。こういった貝などの生物が、生息し繁殖していた沿岸のサンゴ礁の多くが、1998年の白化以降死滅してしまったのです。その結果、今は、まだサンゴの残るわずかな海域に、漁業が集中しすぎしまうようになりました。

海の生きものたちが繁殖し、成長する期間を確保するため、設けられている禁漁期間にも、他の場所から漁師たちがやって来て、まだ十分に成長していない漁業資源を獲ってしてしまうこともあります。中には、ハンマーでサンゴを叩き壊し、卵を持ったロブスターを持ち去ってしまう漁師もいます。
それなのに、海をパトロールしたり、違法な漁業を取り締まる人は、一人もいません。パトロールは漁が解禁になる直前に始まりますが、禁漁期間にも必要なのです。

WWFインターナショナル/ホームページ掲載日:2007年11月7日
Climate Witness: Sydney Lopez Sr, Belize

科学的根拠

アン・ゴードン(Ann Gordon)氏 気象学者 ベリーズ気象学研究所(Belize Meteorology Office)ベリーズ

気温と海水温の上昇についてロペスさんが述べている証言は気候変動が原因と考えられる影響と一致しています。科学的証拠と現地の記録は大気の温暖化傾向を示しています。この地域の気候の専門家によれば、海面は1年ごとに2ミリ上昇しています。海水温の上昇だけでなく氷河や氷原、南極・北極の大氷原がとけていることが、海面上昇の原因です。これは大規模な海岸線の変化と、低地での浸水につながります。ロペスさんが目撃したプラセンシアでの海面上昇は、カリブ海地域での観察と一致しています。

土地利用の変化は、その地域で見られる固有種の生息を脅かすでしょう。海面温度と海面の上昇、増加する洪水による海水の濁り、栄養素の蓄積、化学汚染や熱帯低気圧による被害も漁業を支えるサンゴ礁や海洋生態系に悪影響を及ぼすと考えられます。これは、海面温度の上昇と人間の行動によって、サンゴが死滅し、水産資源が減少しているというロペスさんの証言と一致しています。

提供された情報によれば、プラセンシアでの観測は、これまでに報告されている気候の影響に関する専門家の科学的文献と一致しているといえます。

追加情報は以下のウェブサイトから入手することが出来ます。
Climate change 2007: Impacts, Adaptation and Vulnerability

全ての記事は「温暖化の目撃者・科学的根拠諮問委員会」の科学者によって審査されています。

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