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目撃者の証言:変化を強いられる日本の米作り
日本(宮城):佐々木勝雄さん
宮城県で40年以上にわたり、米作に携わってきた佐々木勝雄さんは、自然との共存を重視し、有機米作りに取り組んでいます。しかし近年、米粒が白く濁ったり、過去には見られなかった規模でカメムシが発生するなど、夏の高温が原因と思われるさまざまな被害が発生しています。佐々木さんは今、高級米の産地である宮城県の米作の将来を憂えています。
東北の有機米農場からの証言
私の名前は佐々木勝雄です。私は農家で、本州北部の宮城県で40年以上お米を作り続けています。私は食の安全を守ろうと、1993年から有機米を生産してきました。しかし、特に最近の十数年間で私の農業に影響を与える、多くの気候の変化を感じています。私は、その変化は温暖化の影響だと考えています。このまま温暖化が進めば、数十年後には、宮城県は高級米の産地ではなくなるのではないかと心配しています。
おくやみ |
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「地球温暖化の目撃者」として、日本の米作りの現場から温暖化の影響を証言してくださった、佐々木勝雄さんは、2011年3月11日に東北地方を襲った大震災で被災され、お亡くなりになりました。 2011年3月19日 記 WWFジャパン事務局 |
米の品質が低下している
宮城県は、品質の高い米の生産地として有名です。しかしこの十数年間、種々の要因で米の品質が低下しているのです。
その例の一つに、夏の気温が高すぎると、高温障害で米粒が白く濁る「乳白粒」があります。特に最近の十数年間、私も含めたこの辺りの多くの農家は、この乳白粒に悩まされてきました。
これを防止するため、2007年には、宮城県の農業支援センターが、植え付け時期を遅くするよう指導しました。穂が出る時期をずらし、真夏の高温を避けて、稲の稔りの適温となる秋に、登熟(稲の籾(もみ)が成長しふくらむこと)期を迎えるようにするのです。
つまり、気候の変化の影響で、私たちは、それに対応しながら自然環境を受け入れ、米作りをしなくてはいけなくなっているのです。
増える害虫
最近は害虫も増えていて、特にカメムシが多くなりました。
カメムシは米に黒い斑点を付け、品質を低下させます。多く発生すると米検査で不合格となるため、米作り農家を悩ませています。
十数年前はカメムシをほとんど見ませんでしたが、今は日本の各地で被害が報告されています。
米作りだけでなく野菜や果樹栽培も含めた多くの農家が、害虫発生の変化と、頻度が増えている原因は、温暖化だと感じています。その結果、以前は被害が全くなく、殺虫剤の撒布は必要なかったのですが、多くの農家が殺虫剤の使用量を増やさざるを得なくなりました。
私はずっと有機米の生産に力を注いできており、カメムシ被害を避けるため、作付け時期を遅らせるなどの工夫をしています。しかし、それでも被害が出ます。数十年後には宮城県で高級米を作ることができなくなるのではないかと心配しています。
おいしい米を作るためには、三つの条件が必要です。適した気候、良い土、そして、きれいでミネラルが豊富な水。宮城県は今、温暖化のせいで、適した気候という条件が失われつつあると私は感じます。数十年後には米の生産地は北海道に移り、今は高級米産地として有名な宮城県や周辺の地域の評判は落ちていくでしょう。
温暖化によって、私は悪い見通ししか立たず、とても心配です。
異常な天気
私は、私が農業を始めた頃よりも、異常な天気がより頻繁に起こるようになったと感じています。ここ4~5年の例を見てみましょう。
2003年の冷害では7月下旬に中山間地で10度以下まで気温が下がり、不稔(稲の穂が稔らないこと)が発生しました。これは、1993年に見舞われた100~200年に一度の大冷害の時より低い気温でした。
2004年には、本土に上陸した台風の数が例年の数個から、一気に10個に増えました。2006年には、12月中旬と年末に、二度の大雨洪水警報が発令。2007年は異常高温の年で、日本各地で最高気温の観測記録の更新がありました。仙台でも37.4度を記録し、最高記録が更新されました。
この記録ずくめの異常気象は、80年以上生きてきた農家の長老たちにとっても初めての経験であり、これから地球はどうなるのかと嘆いています。
真夏の極端な高温と低温に見られるように、温暖化の影響で気温の変化の幅が大きくなっているように思います。私が覚えている限りでは、2006年12月の大雨も、2007年の異常高温も、初めての経験です。これからは、以前は起こらなかった、このような異常気象への対策も進める必要があると感じています。
自然と共存する
今まで私たちは、収穫量や生産を増やすため、「農業の近代化」という名のもとに、自然に配慮せず、多くの農薬や化学肥料を使い、自然のサイクルを無視、つまり考えてこなかったのです。そのせいで、生態系は崩れていると感じます。
一番、温暖化を感じているのは、生きものたちです。自然環境に敏感な生きものの生息地の北限が北上していることは、温暖化のバロメーターであり、何よりの証拠です。
自然界では、食うか食われるかの互いの関係で、生態系のバランスが保たれ、ある特定の生き物だけが大発生して被害を与えるということを防いできました。しかし、農薬や化学肥料の使用偏重が生態系を狂わせ、生き物たちを減らし、その結果、害虫が増え、殺虫剤の使用を増やさざるを得ず、悪循環に陥っています。
私は有機米を生産して、この悪循環を断ち切ろうとしています。
それが消費者に安全な米を提供するための最も良い方法だと信じているからです。私たちは自然を守り、生態系を大事にし、温暖化防止に努めなければなりません。元来、稲の持つ性質・特徴を見直し、生かしながら工夫をかさね、より安全でおいしいお米を生産できるよう研究対応する必要があります。
人間の傲慢さこそが地球環境破壊の元凶です。傲慢さを捨て、自然に対する畏敬の念を持ち、自然に生かされているという謙虚さが求められています。自然と共存することが最も大切だと信じています。
WWFインターナショナル/ホームページ掲載日:2007年4月18日
Climate Witness: Katsuo Sasaki, Japan
科学的根拠
IPCCの第3次評価報告書によると、日本の平均気温は1度上昇し、降水量も5~10%増加しています。IPCCはこの傾向は続くと予想しており、日本の農業に深刻な影響を与えるでしょう。農業・生物系特定産業技術研究機構(NARO)は、温度上昇は米の品質を低下させ、日本の70%の水田で害虫が増えたと発表しました。また、米の生産地は北上するとも予測しています。
The National Agriculture and Food Research Organization (NARO), Japan
Katsuo Sasaki's observations are consistent with reports from the Japanese National Agriculture and Bio-oriented Research Organization (NARO) that concludes warmer temperatures have degraded rice quality and increased the incidence of harmful insects in 70% of Japan's rice fields, and that rice production is likely to shift to the northern part of Japan.
Further, according to IPCC Third Assessment Report, the average temperature increased 1oC in Japan, and the precipitation increased 5 to 10%. IPCC projections suggest that this trend will continue, thus affecting Japan's agriculture sector.
全ての記事は「温暖化の目撃者・科学的根拠諮問委員会」の科学者によって審査されています。
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公開日:2007/04/18
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