トラ、ゾウ、サイを襲う、世界の密猟と密輸の現状
2012/07/30
2012年7月23日、WWFは密猟や国際的な違法取引(密猟)の大きな犠牲となっている、サイ、トラ、ゾウに ついて、各国の実態を評価したレポートを発表しました。この結果、主要な生息国と消費国が集中するアフリカとアジア地域において、密猟と、象牙、犀(サイ)角、虎骨などの取引の水準が、最悪のレベルに達している実態が明らかになりました。
各国の現状をまとめた「成績表」
今回、WWFが発表した報告書のタイトルは、『Wildlife Crime Scorecard: Assessing Compliance with and Enforcement of CITES Commitments for Tigers, Rhinos and Elephants(野生生物犯罪に関するスコアカード:象牙、犀角、虎骨取引をCITESで規制するための法令遵守と法施行)』。
2013年にタイで開催が予定されているCITES、すなわち「ワシントン条約(絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引における条約)」会議に向け、警鐘を鳴らすものです。
この報告書では、サイ、トラ、ゾウの生息国と、象牙や虎骨などの中間取引国、最終消費国、合計23カ国における、密猟や取引の最近の状況を集約。さらに、動物ごとに、事態の深刻さに応じて、赤・黄・緑の3色で色分けしたスコアつまり「成績」を示してしています。
この結果、違法取引が調査対象となった23カ国の全て続いていることが、あらためて確認されました。
さらに、違法行為を規制するための現行の施策がきわめて不十分である国と、消費国ではないが、その取引の経路として関係する国を、識別することが可能であることも明らかにしました。
ベトナムの不名誉
今回の「スコア」で最も低評価を得たのはベトナムでした。
ベトナムは、トラとサイについて「赤」の評価。とりわけ、南アフリカで近年多発している、サイの密猟を増加させる要因となっている犀角の、最も重要な消費国と位置づけられています。
またその南アフリカ共和国は、自国内に生息しているサイについて「黄」の評価。この国では、2011年の1年間に、448頭のサイが犀角を目的とした密猟の犠牲になっており、2012年も既に262頭が殺されています。
報告書では、ベトナム人外交官を含む多数のベトナム人が、犀角の不法所持によって、南アフリカで逮捕されたり、身柄を拘束されている事実も指摘しています。
ベトナム政府は、角の違法な消費が、絶滅の危機にあるサイの密猟をアフリカで増加させている事実を、強く認識する必要があります。そして、国内で行なわれているインターネット広告を含めた、サイの角の違法な取引を撲滅し、罰則を強化することが求められます。
象牙をめぐるアジア諸国の問題
象牙をめぐる問題も深刻です。
毎年、その牙を狙われ、多くのアフリカゾウが密猟者によって殺されていますが、その象牙の最終消費国の上位2カ国は、中国とタイ。
特にタイは、密猟されたアフリカゾウから象牙を業者に販売できる「法の抜け道」があることから、報告書では「赤」の評価が付けられています。
タ イでは、違法に持ち込まれたアフリカの象牙が、観光客向けの高級ブティックで公然と販売されています。タイ政府はこうした問題に対し、十分な対応をとってきませんでした。氾濫している出所不明の大量の象牙に対応するためには、象牙取引を一時的に禁止することが最も賢明な方法といえるでしょう。そうした施策が行なわれるかどうかが、今後注目されます。
中国については、象牙取引に対する取り組みの不十分さを指摘。ゾウについて「黄」の評価をつけました。市場での適切な施策が遂行されていないことが、その理由です。
報告書は「現在も続いている中国に向けた大量の象牙の違法取引の流れは、中国国内の合法な象牙取引にまぎれて行なわれている可能性がある」と報告書はしています。
実際、中国国内における象牙に関する法律の整備は、緊急かつ継続的に行なうことが求められますさらに、アフリカの中国人社会に対しても、中国本国へ違法な野生生物商品を輸出した場合、誰であれ起訴され重い刑が科せられるということを、十分に理解させることが必要です。
生息国の懸念 中央アフリカ諸国の課題
象牙については、生息国各地でも課題が明らかになってきました。
アフリカゾウの亜種マルミミゾウが生息する中央アフリカ諸国では近年、象牙密猟が危機的なレベルに至っています。2011年には、統計データが取られるようになってから、最も高い密猟数を記録しました。
2012 年になってからも、たった一回の密猟で、数百頭のゾウが殺される事件が、カメルーンの国立公園で発生。「アフリカでの象牙密猟の激増は、その取引に関連した犯罪の増加にもつながっている。一つ確かなことは、状況はかなり深刻だということだ」と報告書は述べています。
こうした状況の中、多くの中部アフリカ諸国は、ゾウについて「黄」か「赤」の評価となりました。
しかし、この事態を打開しようという動きも始まっています。
ガボンでは2012年6月、すべてが違法取引由来のものではなかったにも関わらず、象牙在庫の全てを、「違法取引の根源を断つ」決意として、焼却処分しました。
この折、同国のアリ・ボンゴ大統領は、野生生物犯罪を厳しく罰すること、そして国内の公園での保護政策を強化することを約束。WWFもこのガボンの決断と意思を評価しました。
中央アフリカに限りませんが、野生生物をめぐる犯罪は、絶滅の危機にある動物を脅威に陥れるだけではなく、土地の所有権や法規制、地域社会にすむ人々にも、さまざまな問題をもたらします。
したがって、地域や国同士が連携した対策が欠かせません。
現在、中央アフリカ諸国は、国境を越えて行なわれている違法な象牙取引に対して、互いに連携して対応する動きを見せており、WWFもそれを支援しようとしています。
CITES:COP16に向けて
今回の報告書は、多くが各国の状況の悪さを示すものとなりましたが、トラ、ゾウ、サイの全てについて、「緑」の評価を得た国も、少ないながらありました。
インドとネパールです。
とりわけネパールでは、2011年の1年間に、サイの密猟事件が1件も起きませんでした。こうした密猟や違法取引に対する厳しい法の施策が、今回のスコアでも高い評価として反映されました。
WWFは、今回の「報告書」をワシントン条約の常設委員会で発表しました。
これは、2013年3月にタイで開催される、条約の第16回締約国会議(COP16)を視野に入れたものです。
この会議までに、WWFでは密猟や違法取引の取り締まりを確実に強化させるため、情報の発信に取り組みつつ、各国政府に対する意見の申し入れと、取り組みへの支援を継続していきます。