海を脅かす赤土をどう防ぐ?沖縄「やんばる」の森より
2014/12/12
雨などによって陸域から海へと流出し、サンゴなどに大きな被害を与えている赤土。沖縄をはじめとした南西諸島の島々においてその影響は、サンゴのみならず、沿岸の景観そのものや、漁業、観光業にまで及んでいます。沖縄の各地で、この赤土問題をどう解決するか長年模索される中、WWFジャパンでは沖縄島北部の「やんばる」地域で、地域の方々と協力した新たな活動に着手しました。2014年11月27日には、その第一弾となる意見交換会を沖縄の大宜味村で開催しました。
土砂に脅かされる「やんばる」の海
沖縄島北部に広がる亜熱帯の森「やんばる(山原)」。
ここは、ヤンバルクイナやノグチゲラ、ヤンバルテナガコガネなど、世界でこの森にしか生息しない固有種を含めた、多くの野生生物の貴重な生息域です。
その自然は、島内最高峰の与那覇岳を中心とした山岳地帯から、東西の両沿岸域に連なり、森から海へと続く景観を形作っています。
とりわけ、沿岸域については、国の天然記念物にも指定されている東村の慶佐次川河口域にひろがるマングローブ林をはじめ、カキの養殖が始まった場所としても有名な、汽水域の湖を擁した大宜味村の塩屋湾など、美しい場所や景観が数多く知られてきました。
しかし、こうした地域は最近、自然環境はもちろんのこと、景観そのものが変化を見せています。
原因となっている理由の一つは、「やんばる」の山から海へそそぐ川から、長年にわたって流出し、堆積してきた赤土などの土砂です。
これらは自然に発生したものではなく、多くが開発工事や開墾によって土壌を支える森が失われた結果、生じていると考えられる現象です。
この結果、慶佐次川河口や塩屋湾も広く土砂で埋まり、カヌーなどの地元の観光業も被害を受けているほか、かつて多くのサンゴが見られた入り江の自然も、すっかり失われてしまいました。
久米島での挑戦を活かす
こうした沖縄の赤土の問題は、自然環境の破壊だけにとどまらず、地域の産業や暮らしにも、大きな影響を及ぼしていることが特徴です。
このため、解決には人の暮らしとのかかわりを十分に考慮した、地域に根差した取り組みが必要となります。
WWFジャパンでは、そうした取り組みの先進的な事例として、2009年10月から2012年9月にかけて、沖縄島の西方に浮かぶ久米島で、海洋生物や赤土の専門家らと共に「久米島応援プロジェクト」を展開。
久米島町と協力しながら、農業関係者や自然保護活動などにかかわる島内の住民の方々の参加を得て、地域が主体となった自然の調査や赤土の流出防止に取り組む体制づくりを行ないました。その活動は、現在も地元で継続されています。
そして今後、この取り組みを沖縄島の「やんばる」地域をはじめ、他の地域でも展開し、さらに相互の協力ネットワークを構築することにより、点から線、線から面へ、広域な対策が進むことを期待しています。
その第一弾として2014年11月27日、「やんばる」を地元とする大宜味村のご協力のもと、意見交換の場として「赤土流出防止対策取組交流会 "美ら海・美ら島"を未来へin 大宜味村」を開催。
地域の農業関係者、各地区の区長、行政担当者、村議会議員や漁業者、また近隣の市町村や沖縄県の行政担当者の皆さんのご参加を得て、「久米島応援プロジェクト」を紹介する機会をいただきました。
地域の相違を越えた取り組みを目指して
この交流会では、まずWWFジャパンのスタッフから、多くの専門家や久米島町が協力して実施した、赤土流出の削減のための科学的調査・分析による長期的な対策目標の設定や、行政・農業・観光・保全団体など島内の協力体制づくりなど、プロジェクトの活動について解説。
その後、久米島の市民団体「一般社団法人 久米島の海を守る会」が継続している保全活動の内容を、団体メンバーから直接発表していただきました。
さらに、沖縄県全域で赤土の対策活動を進めている「NPO法人おきなわグリーンネットワーク」からは、沖縄県と連携した各地の農地で小中学生と進めるグリーンベルトづくりの取り組みや、パルシステムによる恩納村漁協と協働するモズクの生産支援の取り組みなど、さまざまな事例の紹介が行なわれました。
赤土の流出は、多くが農業活動に起因する農地由来の流出であることが知られていますが、その原因や背景は、地域によって異なります。
たとえば、沖縄の主要農業作物であるサトウキビがあげられますが、「やんばる」地域では、シークワーサーなどの柑橘系作物やパイナップルといった果物が多く生産されており、その農地が大きな赤土の発生源になっていると考えられます。
これは、同じく赤土が流出する農地でも、サトウキビの栽培を中心としている、久米島や沖縄南部と、「やんばる」が異なる点です。
また、山地から海へと続く比較的急峻な陸の地形も「やんばる」の大きな特徴で、今後の赤土対策を拡充していく上でも、重要なポイントになる可能性があります。
会場では参加された地元の方から、「ぜひ塩屋湾をよみがえらせたい」、「地域の振興のためにも取り組んでいきたい」、といったご意見や、海を脅かす問題は赤土だけでなく、他にもさまざまな問題があることを指摘する声も聞かれました。
今回は、大宜味村地域で行なう初めての会でしたが、WWFジャパンでは今後も、地域の方々とともに今後の計画を練り上げ、対策活動を進めていきたいと考えています。