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目撃者の証言:海の魚たちが変わってゆく
ヨーロッパ(ベルギー):ウィリー・ヴェルスルイスさん
長年、北海で漁業にかかわってきたヴェルスルイスさんは、海が暖かくなるにつれ、獲れる魚の種類が変わってきたといいます。また、外来種のカキや、漁業の妨げになるクラゲが増殖。地元の漁業者たちは、このような変化への対応を迫られつつあります。
北海の漁場からの証言
私はベルギーの海辺の町、オステンドに住むウィリー・ヴェルスルイスといいます。私は60歳で、船主として30年働いてきました。今も5隻の漁船を持ち、25人の漁師を雇っています。船のうち3隻は沿岸漁業に、大きな2隻はより遠い場所での漁に使っており、こちらはフランスのビスケー湾から、アイルランドの東海岸、ノルウェーの南端あたりまで行くことがあります。このように、北海の広い範囲で漁をしている漁業者たちは、この海のほとんど全てを知り尽くしています。そして、テレビや新聞で私たちはよく見聞きする地球温暖化についても、漁をする中や、魚をだす市場で、その変化を目の当たりしています。
北海の気候変動
北海では、海水が以前より温かくなり、10年前までは、全く目にしなかった魚や、めったに捕れなかった種類の魚が捕れるようになりました。これらは、もともと暖かい水域にすんでいた魚で、これが今では、大西洋から北海の南にかかる海域にまで、生息域を広げ始めています。
特に、最近たくさん捕れるようになったのは、タコやイカといった、さまざまな頭足類、スズキ、カタクチイワシ、たくさんのサバやアジといった類の魚です。
また、魚ばかりでなく、クラゲも増えています。クラゲの問題点は魚網にひっかかることで、大量にかかってしまうと、その重みで船の安全がおびやかされるほどです。これは、沿岸漁業の大きな妨げになっています。
外来生物も増えている
外来生物(外来種)も北海に棲みつくようになっています。
その代表は、マガキというカキの一種です。この貝は、1960年代に「クルーズ(creuse)」という呼び名で、ヨーロッパ各地に輸入されました。当
時は、このカキが生き延びるには、海水温が低すぎるので、ここでは繁殖しないだろうと、考えられていました。
初めは、確かにその通りでした。ところが今や、ここではマガキが大量発生して、はびこっています。港の運航船の船長の話では、港内でカキがどんどん増えていて、水門の間に棲みつくようになり、門がきちんと閉まらなくなっているそうです。
海が暖かくなり、新しい魚の種類が増えると(売れる種類の魚も一部増えることになるため)、漁業者にとっては利益になることも確かにあります。しかし、喜んでばかりもいられません。研究によると、クラゲはこれからも増え続けるそうです。
また、天候が変わり、嵐が増えていることも、秋のエビ漁のような沿岸漁業の妨げになっています。漁業者は一年のうち150日ぐらい漁に出ますが、嵐が増えれば、これを避けて漁を取りやめるか、危険を冒して出漁するか、いずれかを選択しなければならないのです。
必要とされる新たな漁業
漁船の船長にとって、きわめて重要な仕事は、常に海の変化を予測し、柔軟に対応することです。北海が変化していく中、船長は、現在 の技術にさらなる改良を加えれば、漁業にかかるエネルギー量を、大幅に節約できることや、それで利益を上げられること、そして、持続可能な方法で漁業が続 けられる、ということを信じなければなりません。
実際、これまで捕ることのなかった魚を捕るためには、これまでとは違う技術が必要となり、捕獲方法も変えなければなりません。仮に そうなった場合、私たちはその新しい漁法を、今行なっているトロール漁よりもエネルギー消費を抑えた、より効率的なものにする必要があります。
また漁業は、エネルギー集約型の技術や、省エネ型の漁船を開発し、再生可能なエネルギーを活用することで、温暖化の防止に貢献することが可能です。
漁業者は、昔からいる魚、新しくやってきた魚、さまざまな北海の魚たちを、今後も獲り続けていくために、新しいタイプの漁船や、新しい技術、持続可能な漁法について、学ぶ必要があるでしょう。私たちは、このような変化に備えることを迫られているのです。
今、漁業者たちは北海で、はっきりと気候変動を感じています。
漁獲量割当てと、燃料代の高騰の結果、より経済的なエンジンと、持続可能な漁業技術に投資し、新しい環境に適応しなければいけない段階にきています。
しかしながら、長期的には、気候のあまりにも極端な変動は、北海の生物と漁業者たちに、悲劇的な結果をもたらすことになると思います。
そのため私は、漁業の世界を代表して、すべての人たちが温室効果ガス排出量の大幅削減に責任を果たすよう呼びかけています。もちろん、ただお願いをしているだけでなく、私たちも積極的に、この取り組みに協力してゆくつもりです。
WWFインターナショナル/ホームページ掲載日:2009年1月23日
Climate Witness: Willy Versluys, Belgium
科学的根拠
ジャン・セイズ氏(Jan Seys) ベルギー・フランダース海洋研究所
ヴェルスルイスさんによる観察は気候変動に関する科学的文献の内容と一致しています。北海の平均気温は1950年から2000年の間に0.6度から1度上昇し、その傾向は続いています。(1)
海洋生物学者は、ヴェルスルイスさんの証言にある魚の種類の分布が変化し(2)及びマガキ(1)とクラゲ(3)が著しく増加していることを観測しています。
現在のところ北海における嵐の数や強さについては大きな変化はありません。しかしながら、気候モデルによると沿岸部で風速が増し(4)、高潮や(5)嵐が増える(6)ことが予測されます。
References:
1. Perry, A.L., J.P. Low, J.R. Ellis & J.D. Reynolds, 2005. Climate change and distribution shifts in marine fishes. Science 308: 1912-1915.
2. Kerckhof, F. & J. Seys, 2006. Fauna en flora in een opwarmende Noordzee. Grote Rede 13, infomagazine Vlaams Instituut voor de Zee (VLIZ). http://www.vliz.be/docs/groterede/GR13_fauna.pdf
3. Edwards, M., A.W.G. John, & D.G. Johns, 2007. Annual Report 2006, Sir Alister Hardy Foundation for Ocean Science (SAHFOS). http://www.sahfos.ac.uk/annual_reports/annual%20report%202006>/2006_ann_report_final_all_sections.pdf
4. Rockel, B. & K. Woth, 2007. Extremes of near-surface wind speed
over Europe and their future changes as estimated from an ensemble of RCM simulations. Climatic Change, 81, S267-S280.
5. - Hulme, M., G. Jenkins, X. Lu, J.R. Turnpenny, T.D. Mitchell, R.G.
Jones, J. Lowe, J.M. Murphy, D. Hassell, P. Boorman, R. McDonald & S. Hill, 2002. Climate Change Scenarios for the United Kingdom: The UKCIP02 Scientific Report, Tyndall Centre for Climate Change Research, University of East Anglia, Norwich,120 pp.
- Meier, H.E.M., B. Broman & E. Kjellstrom 2004. Simulated sea level in past and future climates of the Baltic Sea. Clim.
Res., 27, 59-75.
- Lowe, J. A. & J.M. Gregory, 2005: The effects of climate change on storm surges around the United Kingdom. Philos. Trans.
Roy. Soc. London, 363, 1313-1328.
6. Woth, K., R. Weisse & H. von Storch, 2005. Climate change and North Sea storm surge extremes: an ensemble study of storm surge extremes expected in a changed climate projected by four different regional climate models. OceanDyn., doi: 10.1007/s10236-005-0024-3.
全ての記事は「温暖化の目撃者・科学的根拠諮問委員会」の科学者によって審査されています。
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公開日:2009/01/23
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