『脱炭素社会に向けた長期シナリオ2017 ~パリ協定時代の2050年日本社会像~』を発表
2017/02/27
WWFでは2021年9月にエネルギーシナリオのアップデート版を発表しております。
気候変動枠組条約のもと2016年11月に発効した「パリ協定」。すべての国が参加する、地球温暖化に取り組むための国際的枠組です。パリ協定は、世界平均気温の上昇を1.5~2℃までに抑えることを目標に、各国に、温室効果ガスの削減への具体的道筋を示す「長期戦略」の提出を求めています。日本では、今、その策定に向けた議論が進んでおり、WWFジャパンは、それに対する提言として、2017年2月、『脱炭素社会に向けた長期シナリオ2017』を発表しました。
震災後の新しいエネルギー社会実現に向けた「シナリオ」
東日本大震災と福島原子力第一発電所の事故を受け、WWFジャパンは2011年から2013年にかけて、研究報告書『脱炭素社会に向けたエネルギーシナリオ 1部~4部』を発表。
日本が目指すべき将来のエネルギー社会のあり方として、化石燃料や原子力に頼らない「脱炭素社会」の実現を、科学的な検証に基づき、提言してきました
その趣旨は、省エネルギーによって必要なエネルギーの量を大幅に減らし、それをすべて自然エネルギー100%で賄うことをめざすというものです。
その中で提言した、電気自動車(EV)や燃料電池自動車(FCV)の社会の到来、自然エネルギー中心の電力系統のあり方、余剰電力からの水素製造などが、ここ数年で実社会に根付き始めています。
このような中、WWFジャパンは、最新データに基づいた研究を株式会社システム技術研究所に委託。
シナリオの新たなアップデート版として、研究報告書『脱炭素社会に向けた長期シナリオ2017~パリ協定時代の2050年日本社会像~』を作成し、2017年2月16日、発表会を開催しました。
自然エネルギー100%は84兆円の節約
本報告書の中でWWFジャパンは、日本は2050年までに、技術的にも経済的にも、自然エネルギー100%の脱炭素社会を実現できることを改めて示し、そのために今、どんな政策が必要なのかについても提言しています。
現在想定できる無理のない省エネ技術と対策の普及や、人口減少などにより、エネルギー需要は半減(2010年比47%減)、それをすべて日本で利用可能な自然エネルギーで供給できることを提示。
気象データ等をもとにしたシミュレーションの結果、太陽光と風力などの天候によって変動する電源構成でも日本の電力系統は十分に対応可能であり、太陽光と風力の割合が2:1であることが望ましいことも分かりました。
また、費用の観点からも、自然エネルギー100%は長期的にお得であることが示されました。2010~2050年までの約40年間の設備費用は365兆円、運転費用は449兆円のマイナスとなり、正味の費用は84兆円の節約となります。
橋渡しとしての「ブリッジシナリオ」
今回の報告書の新しい点は、2つのシナリオを検討していることです。
一つは、WWFが一貫して提案する「100%自然エネルギーシナリオ」で、2050年までに日本のエネルギーがすべて自然エネルギーによって供給されていることを前提としたシナリオ。
もう一つは、国が掲げる「2050年までに温室効果ガス80%削減」(2010年閣議決定)という目標の達成を前提とするシナリオです。
パリ協定が提出を求める日本の「長期戦略」に具体的に提言するために検討を試みました。報告書ではこれを「100%自然エネルギーシナリオ」の実現につなげてゆく、橋渡しのシナリオとして位置づけ、「ブリッジシナリオ」と名付けています。
政府目標の80%削減は最低限可能
WWFが提案するシナリオの一つの大きな特徴は、自然エネルギーの活用の仕方にあります。
ここでは、自然エネルギーで電力の全てを賄うだけでなく、余剰電力を活用して製造する水素で、電力以外の熱や燃料需要を満たしていくことを想定しています。
これによって、自然エネルギーの発電量が天候や時間帯によって大きく変動することによる余剰の問題を解決し、熱や燃料需要を満たしていくことが可能になります。
実は、電力を100%自然エネルギーで賄うことは、すでに今ある技術の延長線上にあり、実現が十分想定内に入りますが、熱や燃料、鉄鋼などの産業プロセスも含めてすべて自然エネルギーで賄うことには未知数の面があります。
その点、電力部門にガスを残し、現状では代替が難しい分野でガス・石油・石炭の使用を許すブリッジシナリオの「80%削減」は、より実現可能性が高く、最低限2050年80%削減を達成することは十分可能であることが明示されました。
パリ協定「長期戦略」への提言
本シナリオの検討には、いくつかの前提条件が設定されています。つまり、前提条件を達成すれば「100%自然エネルギーシナリオ」の実現が可能であると言えます。本報告書では、それらを踏まえ、2050年の脱炭素社会実現に向けて達成すべき代表的事項として、以下を提言しています(詳細は概要版を参照)。
省エネルギー
- 住宅や建築物の省エネルギー化の加速
- 産業の効率化(2050年までに2~3割の効率改善や鉄のリサイクル促進)
- 電気自動車(EV)と燃料電池自動車(FCV)のより急速な普及
自然エネルギー
- 電力系統運用の改革を通じて自然エネルギーを優先的に活用
- 2030年頃を見据えての水素インフラの整備素インフラの整備
- バイオマス熱利用の拡大
化石燃料・原子力発電の段階的廃止
- カーボン・プライシングの導入
- 電力部門の先行的脱炭素化
- 原発の原則30年廃止方針の明確化
現在、「長期戦略」の議論は、環境省(長期低炭素ビジョン小委員会)と経済産業省(長期地球温暖化対策プラットフォーム)の2つの場で進められています。2017年3月末にはそれぞれが最終案を出し、その後、国の「長期戦略」として完成される予定です。
WWFジャパンでは、この政府の長期戦略の策定を促すとともに、実効性ある長期戦略がパリ協定に提出されるよう、今後、具体的な提言活動を展開していきます。2050年まであと33年。今、政府が明確な方向性を示せば、化石燃料に頼らない脱炭素の未来は実現可能であると、本報告書は明示しています。
地球温暖化対策としてのシナリオの実現を!
2017年2月16日に東京で行なわれたシナリオの発表会には、企業、大学、研究機関、NGOなどから約100人が参加。
冒頭、WWFジャパン気候変動エネルギーグループ長の山岸尚之は、シナリオ発表の意義を「シナリオはツール。脱炭素社会の実現のために、今何をすべきかを割り出し、どういう課題を超えて行かなくてはならないのか、このシナリオをたたき台に、議論を重ねて実際の地球温暖化対策に繋げていくことが重要」と述べました。
本報告書の研究を手がけたシステム技術研究所の槌屋治紀所長からWWFシナリオの解説があった後、WWFジャパン小西雅子が槌屋氏にインタビューする形で、さらに理解を深めて行きました。
参加者からは、「2050年への夢をかきたてられ元気が出た」「期待している」といったコメントのほか、「2050年に風力1億キロワットまで増やせるのか」「山林を切り開いて作る太陽光発電も出てくるなどデメリットがあるが、10倍に増やせるのか」など、立地や導入可能量の前提についての指摘もいただき、発表会は『脱炭素社会の実現に向けた長期シナリオ2017』最初の議論の場となりました。
脱炭素社会に向けた長期シナリオ(2017年2月発表)
パリ協定の下で、各国は2050年までの「長期戦略」を描き、国連に提出することが求められています。その内容は、当然ながら、パリ協定が目指す「脱炭素化」に貢献しなければなりません。
この「長期戦略」へのインプットとして、WWFジャパンは、2011〜2013年に作成したシナリオをアップデートしました。基本的な考え方は変わりませんが、新版では、政府が掲げる「2050年までに80%削減」に対応したブリッジシナリオも含めています。加えて、改めて、「100%」自然エネルギーが可能であることを、省エネルギーの可能性、自然エネルギーのポテンシャル、必要なコストの3点から示しています。
※2017年版は、2011/13年版の第1部〜第4部を1冊にまとめてアップデートしています。電力系統については、2011/13年版・第4部の内容がほぼそのまま適用できます。
- ※費用算定部分の計算に一部誤りがあったため、本編および概要版の修正を致しました(2017年4月13日)。
記者発表資料
脱炭素社会に向けた長期シナリオ2017 発表会 開催概要
日本の長期戦略:脱炭素社会への道筋を描く
~WWFジャパン・脱炭素社会に向けたエネルギーシナリオ アップデート版発表会~
日時 | 2017年2月16日(木)14:00~17:30 |
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内容 | ・「脱炭素社会に向けた長期シナリオ2017」発表の趣旨と意義 山岸尚之(WWFジャパン 気候変動・エネルギーグループ長) ・「脱炭素社会に向けた長期シナリオ2017」の説明 槌屋治紀(株式会社システム技術研究所 所長) ・長期シナリオ2017についての槌屋先生へのインタビュー (聞き手)小西雅子(WWFジャパン 気候変動・エネルギーグループ プロジェクトリーダー) ・質疑応答 |
場所 | ベルサール新宿グランド コンファレンスセンター ルームF |
主催 | WWFジャパン |
参加者数 | 約100人 |