漁獲量を上回るカニが流通?ロシアのカニ密漁の現状
2015/06/08
野生生物が息づく太平洋北部のベーリング海、そしてオホーツク海。それは、スケトウダラ、サケ、カニを中心とする水産資源が豊富な恵みの海でもあります。しかし現在、この海域では、水産資源を狙った密漁が増加し、破壊的な違法漁業が横行。自然環境への悪影響と、資源の枯渇が懸念されています。WWFは2014年10月、特にロシアにおけるカニの密漁を助長している、アメリカ、日本、韓国などに向けた貿易の現状をまとめた報告書「違法なロシア産カニ:貿易フロー調査」を発表。このたび、その日本語版を公開しました。
豊かな海を脅かす違法漁業
アザラシ類やトド、ラッコ、大小の鯨類など、多くの海生哺乳類の生息域である、太平洋北部のベーリング海とオホーツク海。
アリューシャン列島や千島列島など、その沿岸域にあたる島々には、一つで数万羽にのぼることもある、水鳥たちの集団繁殖地が点在します。
これらの生きものたちの営みを支える、魚や貝などの豊富な魚介類は、古くから漁業にも大きな恩恵をもたらし、世界的にも最も重要な水産資源を生み出す漁場の一つと目されてきました。
しかし現在、この海域では違法な、また深刻な環境破壊を伴う漁業(IUU漁業)が深刻化。特にロシア水域のカニについては、資源の枯渇も懸念されています。
そこでWWFは、問題の実情と、ロシアでのカニの違法漁業が世界の水産市場にどのような影響を与えるのかを明らかにするため、違法なロシア産カニの貿易状況を調査。
2014年10月にそれを報告書「違法なロシア産カニ:貿易フロー調査(原題:Illegal Russian Crab: An Investigation of Trade Flow)」にまとめ、発表しました。
報告書(PDF形式)
漁獲量を上回るカニが流通?
この調査では、ベーリング海、オホーツク海を中心とした、太平洋北部一帯のロシアの海域で、違法・合法を問わず漁獲されたカニが、その後どのように輸出され、市場に流通したのか、貿易の流れに焦点を当てました。
また、ロシア産のカニの現在の資源状況の評価結果と、公開されている貿易統計データ、人工衛星が記録した漁船の行動履歴などについても、専門家へのインタビューをふまえ、分析を行ないました。
その結果、アメリカ、日本、韓国をはじめとする、世界の水産市場で流通しているロシア産のカニの総量が、ロシア政府が法律で定めた漁獲量を、大きく上回っていることが判明しました。
この事実は、実際に流通しているロシア産のカニの中に、密漁された違法なものが多く含まれている可能性が高いことを示しています。
こうした事態が今後も続けば、資源を保全しながら利用する、持続可能な漁業の実現が脅かされ、豊かな海の自然も、より深刻な環境破壊にさらされることになるでしょう。
ロシア産活きガニおよび冷凍ガニの輸入市場(2012年)
ロシア産カニのロシアによる輸出量と日本による輸入量(1999年~ 2013年)
保全に向けた取り組みと日本との関わり
ロシアでは現在、政府の漁業部門における腐敗や違法漁業の拡大を抑えるため、破壊的な漁業の防止に向けた国家行動計画の承認をはじめ、主要な輸入国との間で協定を交わすための協議に着手しています。
また、この問題を解決するためには、カニを消費している輸入国側の理解と協力も欠かせません。
とりわけ日本は、ロシア産の活ガニ、冷凍ガニともに世界有数の輸入国であり、この違法漁業問題に深く関わっている可能性があります。
実際、今回の調査でも、日本のロシア産カニの輸入量が、ロシア政府が報告している日本への輸出量を、大きく上回っていることが明らかになりました。
これは、日本で消費されているロシア産のカニに、違法漁業によるものが多く含まれており、それらがロシア政府の許可なく、日本の港で引き渡されているためと考えられます。
解決に向けた一歩「日露協定」の締結
これを受けて、日本政府とロシア政府は2014年12月10日、「水産物の密漁・密輸対策に関する日露協定」を締結。
日本の港での荷揚げに際し、合法性を保証するための証明書の添付が、新たに義務付けられることになりました。
WWFの報告書でも指摘されている、こうした処置を通じた、トレーサビリティと合法性の確保は、問題の解決に向けた重要な取り組みであり、今回の日露協定も、現状の打開に向けた大きな一歩といえます。
こうした、密漁を取り締まり、違法なカニをはじめとする水産物の流通を減少させるルールの確立と、その確実な施行は、海の現場で行なわれている違法な漁業を抑えることにつながるものです。
WWFは今後も、報告書の内容を基に、各国の政府や漁業、流通関係者に向けた提言を行ない、オホーツク海とベーリング海の豊かな自然を守り、水産資源の持続可能な利用を推進する活動を行なってゆきます。
報告書
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