憂慮すべき日本の温室効果ガス排出量削減目標
2015/04/24
2015年4月24日、日本の2030年に向けての温室効果ガス排出量削減目標として、「25%削減程度(2005年比もしくは2013年比)」という数字が大臣間で調整されているという報道がありました。電力については、2030年時点で原子力が20~22%、再生可能エネルギーが22~24%で検討されているというその内容は、まるで日本が、震災・原発事故前に戻るかのような展望を示しています。WWFは、この目標では、日本が国際社会から「公平で科学的に妥当な」目標を掲げた国として認められることは困難であると考え、現状の議論に懸念を表明するとともに、緊急の声明を発表しました。
- 【2015年4月24日 声明】公平でも科学的に妥当でもない目標案:これでいいのか、日本?
- 【2015年4月28日 声明】再生可能エネルギーの成長抑制は受け入れられない
- 【2015年4月30日 声明】日本の約束草案:誰のための目標なのか?
2015年4月24日 声明
公平でも科学的に妥当でもない目標案:これでいいのか、日本?
温室効果ガス排出量削減目標とエネルギーミックスの現状の議論を深く憂慮する
2030年に向けての温室効果ガス排出量削減目標として、「25%削減程度(2005年比もしくは2013年比)」という数字が大臣間で調整されているとの報道があった。電力については、2030年時点で原子力が20~22%、再生可能エネルギーから22~24%で検討されているという報道がある。
WWFジャパンは、この温室効果ガス排出量削減目標案および背景としてのエネルギーミックスの議論に、深い懸念を表明する。
まず、この目標では、国際社会から「公平で科学的に妥当な」目標を掲げた国として認められることは困難である。国際的な共通目標である「世界的な気温上昇を産業革命前と比較して2℃未満に抑えること」に十分に貢献するだけの目標とはみなせないからである。さらに、日本政府自身がすでに閣議決定している2050年比80%削減という目標とも整合していない。80%削減を着実に達成するための着実な削減を想定して試算すれば、2030年時点で少なくとも2005年比29%削減を達成していなければならないからだ。
このように野心が低くなることの背景には、まるで、震災・原発事故前に戻ったかのようなエネルギーミックスの議論がある。
4年前、東日本大震災と福島原発事故を経て、私たちは、「このままではいけない」と感じ、エネルギーや社会のあり方を大きく変える決意をしたのではなかったのだろうか。しかるに今の議論では、「安定供給や電気料金を考えれば、原発を再稼働し、40年を超えて運転して、CO2の排出の多い石炭も安いから維持するのが当然」という、以前と変わらない声が強く反映されている。
今のエネルギー・気候変動政策の困難は、そもそも、不正や事故で期待通りに稼働しない原発への過剰な依存がもたらし、短期の経済性を重視した石炭の野放図な拡大によってもたらされた排出増で、他の排出削減取り組み効果が帳消しにされるという事態から来ている。90年から今に至る石炭消費増加量は
CO2に換算すれば1億4千万tにもなり、これは日本の現在の排出量の約1割にも相当する。
過去の反省を活かし、私たちは、今回こそ、再生可能エネルギーと省エネルギーの活用を突き詰め、低炭素社会へと、着実に移行していくべきである。そのためには、電力以外も含めた再エネと、省エネのポテンシャルをいま一度見直し、削減目標を野心的なものへと変えるべきである。それは、日本全体にとって大きなチャレンジかもしれないが、同時に低炭素社会へ向けたビジネスチャンスをつかむことにもつながる。
そして何より、温暖化の影響に脆弱な世界の人々や生物を危機から救うことに、日本が真剣であることを世界に示すチャレンジとなる。今の目標案では、どうやって世界に日本は「公平で科学的に妥当である」と説明できるのだろうか?。
2015年4月28日 声明
再生可能エネルギーの成長抑制は受け入れられない
低すぎる再エネ目標と高すぎる石炭と原子力目標
経済産業省・総合資源エネルギー調査会長期エネルギー需給見通し小委員会において、2030年の各エネルギー源の割合、いわゆる「エネルギーミックス」の案が示された。
WWFジャパンは、この中でも特に、再生可能エネルギー電力の比率が低いことに大きな懸念を表明する。震災・福島原発事故以降、再生可能エネルギーを大きく拡大させていくことに多くの国民が合意したはずであるのに、政府案は、2030年時点の電力において、震災前の20%という目標よりも、たった2~4%の増加に留まる「22~24%」になるとしているだけである。
さらに、この内訳として、コスト的にも量的にももっとも主流となりえる再生可能エネルギーである風力を2%、太陽光も7%と抑えてしまっており、もはやこれでは導入目標ではなく、抑制目標と言わざるを得ない。WWFジャパンは、再生可能エネルギー全体として、電力の少なくとも35%以上を2030年までに目指すことが可能であり、燃料費の削減により経済的にもプラスになると考える。にも関わらず、提示された導入目標は、これに遠く及ばないだけでなく、最もその導入ポテンシャルを知っているはずの風力や太陽光の各業界団体が示した目標からみても低い。むしろ明確に再生可能エネルギーの成長を抑制しようという意図さえ見え隠れする。再生可能エネルギー産業の拡大や競争力向上の機会を奪いかねない。
次に、最もCO2排出量の多い化石燃料である石炭の割合を、現状とほぼ変わらない、26%という高い割合で維持すると想定しており、世界の気候変動対策の流れに完全に逆行する。
また、原子力の20~22%という数字は、計算上、40年という運転期間を超えて60年まで運転するか、新規増設を想定しなければありえない数字である。決して「原子力依存度低減」を達成する数字ではなく、国民感情から考えても非現実的な想定であると言わざるを得ない。
最後に、これまでは、電力に議論が集中したが、本来であれば、エネルギー消費量全体の4分の3を占める「電力以外のエネルギー(熱・燃料)」も含めたエネルギー全体の中でどのように省エネ・再エネを伸ばしていけるかももっと議論するべきである。今回、数字としては出されているが、この点について議論が尽くされたとは言い難い。
安定供給とともに、電力料金をおさえることが至上命題であるかのような議論がされてきたが、それは化石燃料価格が現状のまま、高くなっていくことはないという想定に立っており、現実的ではない。本来は価格が下がっていく再生可能エネルギーの拡大こそが、中長期的にみれば、最良のコスト戦略である。
2015年4月30日 声明
日本の約束草案:誰のための目標なのか?
既得益に固執する産業のための目標案なのか?これでは温暖化を緩和する"削減"目標とは言えない
環境省・経済産業省の合同審議会において、日本の新しい気候変動対策目標案として、「日本の約束草案要綱(案)」が提示された。それによれば、日本の目標は、2030年度に温室効果ガス排出量を2013年比で26%削減の水準にするとある。
WWFジャパンは、この目標では、「地球の平均気温の上昇を2度未満に抑える」という国際的な目標に、日本としての責任と能力を踏まえた十分な貢献をするには圧倒的に足りないと考える。再エネ・省エネの可能性を徹底的に見直し、少なくとも30%以上の削減目標にするべきである。
今回の約束草案要綱(案)にはいくつか問題がある。
まず、「2度未満」目標に貢献するために、日本の責任と能力から考えた「必要な」水準は、90年比で40~50%削減(13年度比では46~55%削減)であり、これには遠く及ばない。
次に、日本政府自身が過去に閣議決定している「2050年までに80%削減」という目標を順調に達成するための排出経路にさえのっていない。同2050年目標を着実に達成するためには、2030年時点では最低限でも29%削減(2005年比)を達成してなければならず、現時点で遅れが予見できてしまう。
また、2013年という基準年が採用されている点も問題である。これは、2013年とすれば、EU・アメリカの目標との比較で野心的に見えるという小細工以外の何ものでもない。2013年を基準とすると、端的にいって、2013年までに排出量を減らしてきた他国の努力が評価されないことになる。これまで、日本は「努力をした国が評価されるように」という主張を国際社会でもしてきたが、当のその国が、このような基準年の操作で比較可能性を確保しようとするのは、国際的信用に関わる愚行である。
こうした消極的な議論の背景には、4月28日に別の審議会で提示されたエネルギーミックスの案がある。低い再エネ目標からは、日本のエネルギーシステムを大きく変革し、新しい時代に即したダイナミックかつ低炭素型のエネルギーシステムへと移行させていくという意志がまったく感じられない。
低い省エネ目標からは、エネルギー効率分野で、真の世界トップを走り続けていくのだという決意が感じられない。高すぎる原子力や石炭の割合からは、過去の政策失敗への根本的反省が見られない。
特に問題は、再エネの主流となりうる風力をたった1.7%、太陽光を7%と極端に抑える計画となっている点である。
これは、変動する再エネ電源を主流とする電力システムへ向けた変革の腰を折るものであり、原子力と石炭を中心とする、いわゆる「ベースロード型」のシステムを今後も継続するという意思の表明に他ならない。
これは老朽原発を60年にわたって使い続けるという、国民感情を無視した非現実的な想定にたったものであるため、結果としてはCO2排出量の多い石炭中心となる可能性が高く、この非常に弱い削減目標の達成すらあやうい。
これでは、既存のエネルギーシステムを維持した方が得になる電力や重厚長大型の一部の産業利益を代弁するにすぎない。
それらの声が、あたかも産業全体の声であるかのように装い、低炭素社会へ向けての変革を後回しにすれば、日本の取り組みは、深刻な遅れに見舞われる。このことを私たちは深く憂慮する。
■参考
・WWFジャパン:『脱炭素社会に向けたエネルギーシナリオ提案』
・声明「日本の2030年温暖化目標「90年比1割減」はありえない」
■お問い合せ先:
WWFジャパン(公益財団法人 世界自然保護基金ジャパン) 気候変動・エネルギーグループ
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