2014年秋、クマの大量出没の予測(WWFジャパンまとめ)
2014/10/07
2014年の秋、日本各地でクマの大量出没の発生が懸念されています。その要因の一つとして注目されているのが、堅果類(ドングリなど)の実りの状況です。WWFジャパンでは、堅果類の豊凶調査を実施した先進的な都道府県の情報を中心に、各都道府県の関連情報をまとめました。
クマの大量出没について
クマは例年、生息地である奥山に食物が少なくなる夏になると、ある程度の頻度で人里へ出没しますが、ドングリなどが奥山で実る秋になると、そうした行動は収まります。
しかし年によっては、奥山の実りが不足することがあり、平常の数倍のクマが出没することがあります。これがクマの大量出没といわれる現象で、社会的な問題となっています。
特に近年、本州では2004年、2006年、2010年に、全国的な大量出没が起こっています。その結果、クマによる農業被害や人身被害が多発。また、被害防止のため多くのクマが捕獲されました。
こうした大量出没の原因は、クマの問題である食糧不足のみとは限りません。
過疎化が進む中山間地域の社会・経済問題や、狩猟者の減少など、人間の側の問題もその要因の一つです。
クマの大量出没は、これら複数の要素が重なって、起きると考えられています。
大量出没の予測について
とはいえ、その年のクマの大量出没に直接的な影響を与えていると考えられているのは、やはり奥山の食糧不足です。
クマは冬眠に向け、秋になるとブナ・ナラ類などの実をたくさん食べますが、それらの木々がどのくらい実をつけるかは年によってさまざまで、ほとんど実をつけない年もあります。
そこで、クマが秋の食物として依存している木々の実りを調べることで、ある程度、その秋のクマの出没傾向を予測することができます。
出没予測の指標となる樹種は、地域によって異なりますが、主にブナ、ミズナラ、コナラなど堅果類(かたい皮や殻に包まれた果実や種子)が挙げられます。
これらの「木々の実り調査(堅果類の豊凶調査)」は、都道府県単位で行なわれていますが、現在のところ、すべての都道府県が実施しているわけではなく、一部の先進的な自治体に限られています。
WWFジャパンによるまとめ
事前にクマの出没を予測し、それに備えることで、クマとのトラブルを減らそうという取り組みは、とても意義があることだと考えます。
今後はより多くの都道府県でより精度の高い調査が行なわれるようになると共に、調査の結果が広く告知され、多くの人に認知されることが望まれます。
そこで、WWFジャパンでは、2014年秋に堅果類の豊凶調査を実施した都道府県が、公開している結果を取りまとめました。
また、一部の都道府県が取り組んでいる堅果類の豊凶調査の他に、多くの地方自治体が注意喚起のために出しているクマの目撃・出没情報などについても収集しています。
予めこうした情報と意識を持ち、行動することは、実際にクマの出没が起きた時に発生する被害を減らし、さらに被害を防ぐために行われるクマの捕獲を減らすことにもなります。
WWFではぜひ、お住まいの地域やお出かけを予定されている地域の情報をご確認いただき、クマとの不要なトラブルを避ける一助としていただきたいと考えています。
それは「クマとの共存」を考える上で、とても大切なことです。
各都道府県による堅果類の豊凶調査結果:2014年(WWFジャパンまとめ)
2014年10月14日現在、WWFジャパンまとめ。情報を入手次第、適宜更新していきます。
都道府県 | ドングリなど、 秋の実りの調査 (堅果類の豊凶調査) | 特記事項 | 関連情報 (目撃、出没情報など) | 連絡先 |
---|---|---|---|---|
北海道 |
ブナ、ミズナラ、ヤマブドウ、サルナシについて、一部の地域で1~2種類が凶作になったものの、全体としては極端な凶作傾向は確認されず。 |
市街地や農地へのヒグマの出没が例年より、極端に増える可能性は高くないと推測。 | 北海道「ヒグマの保護管理」 | 北海道環境生活部環境局生物多様性保全課 |
青森 | 青森県「クマにご注意ください」 | 青森県自然保護課 | ||
岩手 | ブナは凶作または皆無になることはほぼ確実と見込まれている。 | ■ツキノワグマの出没に関する注意報 | 岩手県「ツキノワグマによる人身被害状況・出没状況について」 | 岩手県環境生活部自然保護課 |
宮城 | 宮城県「平成26年度クマ出没情報」 | 宮城県自然保護課 | ||
秋田 | 秋田県「ツキノワグマによる人身被害状況と被害防止について」 | 秋田県生活環境部自然保護課 | ||
山形 | 県内のブナは、ほぼ凶作となる見込み。結果は、12月頃に掲載予定。 ⇒詳細はこちら |
山形県「クマに関すること」 | 山形県みどり自然課 | |
福島 | 会津地方のブナは「凶作」になることが予想される。 ⇒詳細はこちら |
会津地方では「ブナの結実度予想から、特に注意が必要!!」としている。 ⇒詳細はこちら |
福島県会津地方振興局管内「クマにご注意ください!!」 福島県県北地方振興局「ツキノワグマにご注意ください(県北地方)」 |
福島県自然保護課 福島県会津地方振興局県民環境部県民生活課 |
栃木 | ミズナラが高原地域や県南地域で凶作、県北地域が不作 コナラが高原地域や県南地域で不作 クリが高原地域で不作 ⇒詳細はこちら |
クマの出没が晩秋まで続くことが懸念され、通常はクマがいない里地周辺でもクマが出没する可能性がある。 ⇒詳細はこちら |
栃木県「ツキノワグマの保護管理」 | 栃木県環境課 |
群馬 | 【利根沼田地域】 ブナは大凶作 ミズナラは並作 コナラは並作 クリは不作 【県内全域】 ブナは大凶作 ミズナラは不作 コナラは不作 クリは不作 ⇒詳細はこちら |
クマが多く出没する地域である「利根沼田地域」では、ブナが大凶作となった。一方、ミズナラ、コナラの実りが並作を見込めるため、山の餌が全くないわけではないが、秋以降の出没に十分な注意が必要。 ⇒詳細はこちら |
群馬県「ツキノワグマの出没等について」 | 群馬県環境森林部自然環境課 |
埼玉 | 埼玉県「クマに注意!」 | 埼玉県環境部みどり自然課 | ||
東京 | 東京都環境局自然環境部計画課 | |||
神奈川 | 神奈川県「ツキノワグマ情報について」 | 神奈川県環境農政局 水・緑部 自然環境保全課 | ||
富山 | ブナは凶作 ミズナラは凶作 コナラは不作~並作 |
■「ツキノワグマ出没警報」 | 富山県「平成26年ツキノワグマの目撃痕跡情報」 | 富山県生活環境文化部自然保護課 |
石川 | ブナは 凶作 ミズナラは並作~凶作 コナラは 並作~豊作 ⇒詳細はこちら |
■「ツキノワグマの出没注意情報発令と今後の対応」 | 石川県「ツキノワグマによる人身被害防止のために」 | 石川県環境部自然環境課 |
福井 | ブナは凶作 ミズナラは不作 コナラは不作 ⇒詳細はこちら |
■最高段階の「レベル4(危機事象)」 「県ツキノワグマ人身被害対応マニュアル」に設定されている4段階の出没レベルで、最高となるレベル4。 「出没が広域にわたって同時期に多発し、かつ、活発な人間活動が見られる山里・農村部・市街地などで、連続的に個体や痕跡が確認され、人身被害発生の危険性が高い場合または人身被害が発生した場合」 |
福井県「ツキノワグマによる人身被害防止のために」 | 福井県自然環境課 |
山梨 | 山梨県「ツキノワグマ出没に対する注意について」 | 山梨県森林環境部みどり自然課 | ||
長野 | ナラ類(コナラ・ミズナラ)は不作~並作 ブナは凶作 クリは不作、一部並作 ⇒詳細はこちら |
今秋出没は例年より増加するものと見込まれ、特に堅果類の結実が、地域的に不作・並作のばらつきが大きいことから、えさを求めて行動範囲が拡大することが想定される。 | 長野県「ツキノワグマによる人身被害を防ぐために」 | 長野県林務部鳥獣対策・ジビエ振興室 |
岐阜 | ブナは大凶作 ミズナラは凶作(岐阜、西濃及び中濃圏域は大凶作) コナラは凶作(西濃圏域は大凶作) ⇒詳細はこちら |
■緊急重要情報 :クマの大量出没に注意してください!! 「ツキノワグマが餌を求めて人間の生圏に出没する頻度が極端に高まる(大量出没の)可能性が極めて高いと考えらる。」 ⇒詳細はこちら |
岐阜県「熊にご注意ください」 岐阜県「乗鞍鶴ヶ池駐車場付近でのクマ目撃情報について」 |
岐阜県環境生活部自然環境保全課 |
静岡 | 静岡県「静岡県のツキノワグマ」 | 静岡県環境部環境局自然保護課 | ||
愛知 | ドングリの実りは、県内では並作 | 尾張西三河地域では、隣接する岐阜県東濃地域の実りが悪いことから、ツキノワグマの里地への出没が高いと予測される。 設楽地域では、隣接する長野県南信地域の実りがやや悪いことから、ツキノワグマの里地への出没の可能性がやや高いと予測される。 ⇒詳細はこちら |
愛知県「熊出没情報など」 | 愛知県環境部自然環境課 |
三重 | 三重県獣害対策課 三重県みどり共生推進課 |
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滋賀 | 湖北および高島地方の山地において ブナ、ミズナラは凶作 コナラは不作 ⇒詳細はこちら |
堅果類全体の実りは平年よりやや少ない状況であり、高標高地に生育するブナやミズナラの実りが悪いため、比較的低地に生育するコナラやクリを求めて、クマが生息域周辺の集落へ出没する可能性がある。 一方、液果類は平年並みの実りであることや、9月の出没状況を踏まえると、大量出没にはならないと考えられる。 ⇒詳細はこちら |
滋賀県「ツキノワグマの保護管理について」 | 滋賀県自然環境保全課 |
京都 | 京都府「ツキノワグマについて」 | 京都府農林水産部林務課 | ||
大阪 | 大阪府「アライグマやサル、イノシシ等の出没にご注意ください!」 | |||
兵庫 | ブナは大凶作 ミズナラは並作の下 コナラは並作の下 3種全体として並作の下 ⇒詳細はこちら |
山のドングリ類の実りは、全体としては並作の下だが、ドングリの実りには地域差があり、地域によっては今後、冬眠前のクマが餌を求めて、人里へ出没する可能性もある。 ⇒詳細はこちら |
兵庫県「ツキノワグマによる人身事故をなくすために」 兵庫県森林動物研究センター「ツキノワグマについて」 |
兵庫県農政環境部環境創造局自然環境課 兵庫県森林動物研究センター |
奈良 | 奈良県景観・自然環境課 | |||
和歌山 | 和歌山県「ツキノワグマ」 | 和歌山県環境生活部環境政策局環境生活総務課 | ||
鳥取 | 鳥取県「ツキノワグマの保護・普及啓発 」 | 鳥取県緑豊かな自然課 鳥取県東部生活環境事務所 |
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島根 | 島根県「ツキノワグマ」 | 島根県森林整備課 | ||
岡山 | ブナは凶作 ミズナラは並作 コナラは豊作 ⇒詳細はこちら |
標高の高いところにあるブナが凶作、ミズナラが並作、低いところにあるコナラが豊作の見込み。 そのため、クマは比較的標高の低い所で活動するものと予想され、山里の集落周辺では十分な注意が必要。 ⇒詳細はこちら |
岡山県「岡山県のツキノワグマ」 | 岡山県自然環境課 |
広島 | ツキノワグマが活発に動き回る時期です。ご注意ください! 「秋はツキノワグマがエサを求めて活発に活動する時期。特に今年度は、全国的にも出没が多く注意が必要。」としている。 ⇒詳細はこちら |
広島県「ツキノワグマ」 | 広島県自然環境課 | |
山口 | 山口県「ツキノワグマによる被害を防ぐために」 | 山口県自然保護課 | ||
徳島 | 徳島県「徳島県ツキノワグマ対応指針」 | 徳島県自然環境戦略課 |
- *注1 ここで取り上げた都道府県は、環境省が発表している「H26年度におけるクマ類の捕獲数(許可捕獲数)について」に基づいています。
- *注2 表中の「―」の記号は、都道府県として未実施または未公開、あるいはWWFジャパンとして該当情報を把握することができなかったことを示します。
参考情報
関連サイト
クマ類の分布図
日本クマネットワーク(2014)「ツキノワグマおよびヒグマの分布域拡縮の現況把握と軋轢抑止 および危機個体群回復のための支援事業」 報告書より。
環境省(2004)による分布確認地点を水色で、その後の分布拡大エリアを赤色で示している。
- ※注意
日本クマネットワークが独自に行なったこの事業では分布周縁部に着目し、生息地内部の情報までは収集することができなかったため、分布の縮小に関しては言及していない。なお、生息数やその増減についても言及していないことに注意が必要である。