日本初上陸!ASC認証の養殖サケ
2014/02/28
自然環境や地域社会に配慮して生産された養殖水産物(シーフード)を認証する「ASC認証」が、いよいよ日本で本格的な広がりを見せ始めました。2014年3月1日には、ノルウェー産の養殖サケが、このASC認証を受けたシーフードとして国内で初めて販売されます。地球環境の保全をめざすために、持続可能な社会を実現する手立ての一つとして、WWFが日本でも推進してきたASC認証普及の取り組みは、今回の国内での流通開始により、大きく前進することになりました。
環境に配慮した「養殖水産物」
今、世界の海では、天然の水産物の漁獲量が頭打ちの状況にあります。 その背景にあるのは、世界人口の増加や健康志向の強まりによる、魚食傾向の拡大。そして、それに伴う、水産資源の減少や枯渇です。また海洋環境の破壊や汚染も見逃せません。
そうした中で、近年は養殖による水産資源の生産量が拡大してきました。現在では、世界の水産物全体の半分が、この養殖水産物によって占められています。
しかし、こうした養殖による水産業の拡大は、同時に海洋環境や地域社会に負の影響を及ぼすものとしても、問題視されてきました。
例えば、養殖場を開発するために行なわれる自然環境の破壊や、排出される汚水や廃棄物、薬品などによる海洋環境の汚染。養殖魚が野外に逃げることによる、病気などの拡散や外来生物の問題です。
さらに、養殖するために捕獲される魚の稚魚(*)や、餌にする天然魚の乱獲なども生じており、漁業資源の枯渇にもつながる大きな要因を持っています。
*「養殖」には、天然の稚魚や成魚を捕獲して、いけすで太らせてから出荷している場合と、人工ふ化した仔魚を育てて出荷している場合とがある。
こうした問題を解決し、環境に配慮した持続可能な養殖業を、世界各地で確立、推進するために、2010年、ASC(Aquaculture Stewardship Council:水産養殖管理協議会)が発足しました。
ASCは、環境に大きな負担をかけず、生産現場の人権などにも配慮して生産される「責任ある養殖水産物」を普及させるために、WWFとIDH(オランダの持続可能な貿易を推進する団体)が支援して設立された、独立した非営利組織です。
ASCによる認証制度は、ASCが認定した第三者機関による「責任ある養殖場」の認証と、そこで生産された水産物に他の水産物が混ざらないようにするCoC(加工流通過程の管理)認証から成っています。
さらに、認証を受けた製品であることが消費者に一目でわかるように、エコラベルを貼付して流通させる仕組みも備えています。
つまり、消費者が店頭で、このASCのマークのついた水産物を選ぶことで、海の環境と、地域の人々の暮らしを守る取り組みを、支援できるのです。
日本で初となるASC認証製品の販売
このASCの認証を受けた養殖水産物の販売が、2014年3月1日より、いよいよ日本でも始まりました。
販売される認証製品は、日本でマグロと並び、特に多く消費されているサケです。
実は、このサケの養殖と、その需要の増大も、環境と社会に深刻な影響を与えるとして、以前から注目されていました。
これを受けてWWFは2004年、サケの養殖に伴う自然への影響を特定し、最小限にするための基準を策定する『サケ水産養殖管理検討会』という円卓会議を設置し、運営委員の一員として参画するとともに、養殖生産者や、流通業者、研究者、民間団体などの多様な関係者の参加を得て、9年をかけて、環境配慮の国際的な基準を完成させたのです。
今回の日本の市場でのASC認証サケの流通と、消費者による購入が実現した背景には、こうした取り組みの成果と、その販売に踏み切った企業の大きな努力がありました。
現在、世界で流通しているサケの7割は、養殖されたものです。さらにそのおよそ6割は、ノルウェーとチリの2つの国で生産されており、日本はこの2つの国から養殖サケを多く輸入しています。しかし、2010年にWWFジャパンが発表した『寿司(さかな)ガイド』は、ノルウェー産・チリ産の養殖サケは、ともに、環境・社会への負荷が大きいことが示されていました。
その意味でも、今回、環境や社会に配慮したノルウェー産の養殖サケが日本でも購入できるようになったことは重要です。ASCの認証を受けたノルウェー産タイセイヨウサケ(アトランティックサーモン)は、全国の「イオン」約400店舗で販売されます。
これついて、ASCのクリス・ニネス最高責任者は、「日本全国でASC認証サケが販売されることは、養殖産業に変革をもたらす大きなステップだ」と評価。
またWWFも、世界的な養殖サケの大きな市場である日本でのASC認証サケの販売が開始されたことと、消費者がASCラベル付製品を直接選べる機会を得たことが、海の環境保全と、養殖水産業の発展を両立していく上で、大きな意義があることを強調しました。
将来の水産養殖を、持続可能なものに変え、その流れを大きくしてゆくために、WWFは今後も日本でのASC認証の拡大を目指してゆきます。