開催報告:企業向け森林セミナー「パーム油と森林破壊」
2013/10/07
インドネシアでは、パーム油のとれるアブラヤシ農園が急拡大し、森林の減少が続いています。どうすれば歯止めをかけることができるのか、WWFは持続可能なパーム油の利用を促進することがひとつの手だてになると考えています。2013年9月11日、RSPO(持続可能なパーム油のための円卓会議)によって認証されたパーム油について、企業関係者のみなさまにご紹介するセミナーを都内で開催しました。約80名のご参加があり、企業関係者の方々の関心の高さがうかがわれました。
海外から講演者を迎えて
WWFジャパンの事務局長である樋口隆昌は、WWFが2年に1度発行する『生きている地球レポート』を引用し、「生きている地球指数」(Living Planet Index)が1970年を基準にとると28%も低下し、地球の生物多様性が大きなダメージを受けていることを話しました。
特に、熱帯では60%も低下していることにふれ、人々がFSC(森林管理協議会)、MSC(海洋管理協議会)などの認証製品を優先的に購入することで、改善に向かわせることができる可能性があると言及しました。
RSPO(持続可能なパーム油のための円卓会議)についても今回のセミナーで理解を深めていただき、どのように協働していけるか、いっしょに考える機会としたいとあいさつしました。
今回のセミナーには、WWFインターナショナルとWWFインドネシアから講演者を呼び、RSPOというパーム油に関する認証制度と、欧州での広まり、そしてインドネシア現地の実情について紹介しました。
パーム油生産とその問題
パーム油はアブラヤシから得られる植物油です。食品や洗剤など多目的に利用され、私たちの身近な商品の原料となっています。熱帯地域を中心に栽培されていますが、インドネシアとマレーシアの2カ国で世界のパーム油生産のおよそ85%を占めています。
今もインドネシアでは年に50万ヘクタールの勢いでアブラヤシ農園は拡大しています。アブラヤシは、農園の単位面積あたり収量が大豆や菜種などほかの植物とくらべるとずっと大きく、生産性の高いことが特徴です。
WWFインターナショナルでパーム油リーダーを務めるアダム・ハリソンは、そうパーム油について説明することから話を始めました。
そして、問題はパーム油それ自体にあるのではなく、パーム油の生産の仕方にあるのだと強く述べました。
オランウータン、ゾウ、トラ、サイなどの生息地を切り開き、アブラヤシの農園に換えてしまえば、生物多様性に影響を与えます。衛生面、安全面も含む労働条件に配慮がなされていなければ、現地の人々の生活にも影響します。何よりも森林破壊という大きな環境問題を引き起こします。
スマトラ島リアウ州の現状
スマトラ島中央部にあるリアウ州で保全活動に携わるWWFインドネシアのスハンドリは、急速に進む森林破壊について警鐘を鳴らしました。
1985年から2011年にかけて、スマトラ島に2,500万haあった自然林は1,300万haも失われ、半分弱の1,200万haが残存するところまで減ってしまったということです。
なかでも、リアウ州は年に12万haもの自然林が破壊され、もっとも消失が激しいところです。その多くは製紙産業において紙パルプの原料となる樹種に転換されるか、パーム油産業においてアブラヤシ農園に換わってきたのです。
リアウ州はインドネシアでもアブラヤシ農園の総面積が最大であり、パーム油生産が盛んなところです。パーム油は収益性が高いために地域経済の依存が強まっているのです。
森林の著しい減少は、例えばゾウの生息地を奪い、その個体数の減少につながります。同時に、生息地を失ったゾウは村や畑に出没し、軋轢を生じます。ゾウはアブラヤシを好むため、農園に引き寄せられてしまうのです。
軋轢の結果として、2012年には過去最多の15頭のゾウが死にました。トラも同様に、人との間で摩擦が生じています。
リアウ州における問題の所在
こうした野生動物の貴重な生息地が損なわれるのは、ひとつには農園開発が必ずしも合法的に行われていないことに起因します。
テッソ・ニロ国立公園などインドネシア政府やリアウ州政府などの法律によって、森林に対して保護の網がかけられているところであっても、地域の有力な指導者によって、土地利用に関する許可証が発行されてしまうことがあるのです。
WWFインドネシアのスハンドリは土地利用の合法性に問題があると指摘します。
そして、リアウ州の6割以上を占める泥炭地を開墾する際には、水を抜き、火を放つという野焼きが横行しています。野焼きは重機を購入する必要もなく、もっとも安価な方法だからです。
ただし、いったん火がつくと消すのが困難となり、燃え広がった煙は煙害をもたらします。海を隔てた向こう側にあるマレーシアやシンガポールに煙が流れていき、国際問題に発展しているのはよく知られているところです。
こうした問題を把握した上で、WWFインドネシアでは、リアウ州のアブラヤシ農園に関する5つのプロジェクトを立て、それぞれ戦略に沿って活動を実施しています。
アブラヤシ農園の違法な開発を食い止め、持続可能なパーム油生産に転換していく必要性をスハンドリは説きました。
保護価値の高い森林は保護し、パーム油関連企業にはRSPOメンバーになることを促します。
よりよい農園管理手法を導入し、野生動物と人との軋轢を緩和します。適正に法律を執行し、不法に土地を占有している人たちには警察などの関係当局に対応を求めます。
また、テッソ・ニロ国立公園の周辺には、多数の小規模農家が存在することから、RSPO認証の取得支援をおこなっています。新たな開墾の対象となる土地が保護価値の高い森林に該当しないかどうか確認するツールキットも作成しています。
国立公園内の違法占有者に対しては、違法行為に対して、2006年以来、12の裁判が起こされています。また政府機関によって国立公園内の15~20haの違法なアブラヤシが取り除かれました。
国立公園での違法な栽培を調査
こうしたテッソ・ニロ国立公園および隣接する伐採許可地(以下、「テッソ・ニロ森林地帯」とする)における違法なアブラヤシ栽培の実態を、WWFインドネシアのチームが調査し、その結果をイルワン・グナワンが報告しました。
その調査結果によると、合法な農園は27%に過ぎず、25%は違法、48%については違法か合法かを詳細に調べなければ明らかにできない農園であったということです。そして、違法な農園開発は依然として続いています。
テッソ・ニロ森林地帯は、すでに52,266.5haが違法に占拠されてしまっています。うち約70%の36,353haがアブラヤシ農園となり、既にアブラヤシ果房が生産されている土地は15,819haにのぼります。
残りの土地も、数年後にはアブラヤシ果房が生産されるようになる見通しです。違法農園の所有者は541人・グループであり、企業からの資金提供を受けて、農園を営んでいる小規模農家も含まれます。
テッソ・ニロ国立公園に関しては、衛星画像の分析から、自然林は29%相当の約24,000haしか残されていないということです。
搾油施設に関わる企業と交渉
テッソ・ニロ森林地帯の周囲には、アブラヤシ果房から油を絞りパーム油を生産する搾油関連施設が50もあります。こうした工場を所有する企業の中にはウィルマー社、アシアン・アグリ社というRSPOメンバーとなっている会社があります。
WWFインドネシアの調査によって、この2社の搾油工場が、違法なアブラヤシ果房を購入していることが分かりました。
そこで、2012年のはじめ、テッソ・ニロ森林地帯における調査結果をまとめた報告書の草稿をもとにして、2社と会合を持ち説明を求めました。
その後、この2社はすばやく対応し、テッソ・ニロ森林地帯で違法に栽培されたアブラヤシ果房を受け入れないことを宣言しました。
"STOP ILLEGAL SUPPLY(違法な果房の持込み禁止)"などと書かれた看板を工場前に掲示していることも、WWFインドネシアは確認しています。ただし、こうした意思表示が忠実に実行されるかどうか、今後、しっかりモニタリングしていく必要性があります。
またWWFインドネシアは、テッソ・ニロ森林地帯における調査結果報告書の草稿を、2012年11月5日にインドネシア林業省に提出しました。
2013年2月、同国の林業大臣は、違法占有者の立ち退きに取り組み、違法占有問題に対処するための財政支援をおこなうと述べました。WWFインドネシアは、これを歓迎し、実行に移されるよう強く望んでいます。
消費国に求めることとRSPOの社会・環境基準
それでもWWFインドネシアのイルワン・グナワンは、リアウ州で生産されるパーム油の大半に違法に栽培されたアブラヤシ果房が混入している可能性があり、そうしたパーム油が日本にも輸入されている可能性があることを指摘しました。
そのため、消費国である日本の企業には、購入時に合法性の確認を求めること、違法なものが混入している場合は拒絶することを求めています。
そうすることで、管理体制の強化につながり、違法なアブラヤシ果房が混入することを防ぐことができ、またRSPOへの信頼性や企業イメージの向上にもつながるとして話をしめくくりました。
次にWWFインターナショナルのアダム・ハリソンが再登壇し、RSPOのあらましを説明しました。
RSPOは2004年に設立され、生産者、商社、加工業者、小売業者、NGO、銀行・投資家など多数のステイクホルダーからなる非営利団体です。
いまでは世界中でメンバー数1200を超える規模になっています。
RSPOはメンバーに対し、環境基準と社会基準を定めています。
例えば、環境基準としては保護価値の高い地域でのアブラヤシ栽培の禁止、土壌の浸食を最小限にすること、野焼き禁止。
また、社会基準としては土地の所有は合法的でなければならないこと、従業員への待遇を十分なものにすること、労働組合の組織化を認めることなどが規定されています。
パーム油は、農園から搾油所、輸送業者、精油所、加工業者(製造業者)、小売業者など多数の業者の手を経て、消費者に届きますが、これらサプライチェーンに関わるあらゆる企業がRSPOの認証を取得する必要があります。
RSPOの3つの認証モデル
RSPO認証は、大きく3つに分けられます。
アイデンティティ・プリザーブド(Identity preserved):
認証されたアブラヤシ果房の生産農園を1つに特定でき、最終製品にまで、その経路をたどることができる。
セグリゲーション(Segregation):
認証された複数の農園で生産された認証油からなり、非認証のパーム油は混ぜ合わされることはなく、認証油は最終製品にまで、受け渡されたことが確認できる。
マス・バランス(Mass Balance):
認証されたパーム油に、非認証油を混ぜることが許容される。ただし、認証油の使用量は確認できる。
これらとは別に、「グリーンパーム(GreenPalm)」という証書を売買するシステムも存在します。実質的に扱うパーム油は認証油ではないものの、証書を購入することで、認証農家を財政的に支援することができます(電力におけるグリーン証書と似たシステムです)。
WWFでは、「マス・バランス」と「グリーンパーム」については、サポートしてはいるものの、将来的には「アイデンティティ・プリザーブド」か「セグリゲーション」に移行することが期待されるとアダム・ハリソンは話しました。
RSPO認証製品であることを示すトレードマークは、2011年に導入され、現在24カ国で合計121のライセンスが発行されています。日本でもこのマークのついた商品が売られています。
認証油の生産能力も拡大しており、2013年9月時点では、206カ所の搾油所、44の企業、175万haの農園が認証されています。
年間約1,000万トンの認証パーム油が生産可能となっており、世界で生産されるパーム油のおよそ15%が認証油です。
ただし、供給が増える一方で、認証パーム油のおよそ50%は余っている状態です。生産者のやる気をそがないように、需要が追いつくようにしなくてはならいとアダム・ハリソンは語りました。
さまざまな取り組みを進めているRSPOですが、改善が必要な部分もまだたくさんあります。
インドネシアに典型的に見られるように、小規模農家がアブラヤシを栽培し、パーム油を生産している例が少なくないことから、認証の手続きと費用面で、こうした小規模農家の参画を支援する必要があるとRSPOは考えています。
ほかにも、政府に働きかける、複雑なサプライチェーンの管理の質を高めるといった改善が必要とのことです。そして、こうした改善を絶えずおこなっているのがRSPOであるとアダム・ハリソンは話します。
WWFスコアカードとEU規則
WWFではパーム油購入企業の協力を得て、認証パーム油の調達状況などを点数化したスコアカードを2009年から1年おきに公表してきました。
これは、市場の側から、RSPOをサポートすることを目的としておこなわれているものです。
スコアカードの公表によって、調達が進んだ企業もありますが、情報公開や透明性が欠けている企業があることも事実です。
ヨーロッパでは、ニューブリテン・パームオイル社という先駆的企業の登場によって、市場が変革していったそうです。認証油を扱わないと生き残っていけないと感じる企業が出始めているというのです。
オランダでは、2013年に市場に流通するパーム油の41%が認証油となっています。イギリスは4年前のデータですが、2009年に24%が認証油に切り替わっています。
欧州委員会は「EU規則(EU Regulation)」を定め、2014年の終わりまでに、植物油脂を利用している商品ラベルには具体的に油の種類を表示することを義務化します。つまり、植物油脂のなかでもパーム油なのか、大豆油なのかといった詳細を表示しなくてはならなくなる予定です。
ヨーロッパでは、パーム油からほかの植物油へ切り替えるように訴える、あるいは、パーム油をボイコットすべきという団体もあります。
しかし、生産性の高いパーム油からほかの植物油に乗り換えると、同じだけの量の油を得るために、もっと広大な面積の土地が必要になってしまいます。
これは賢明なこととは言えず、WWFはこうした動きを肯定しません。「パーム自体が悪いのではなく、その生産方法に問題がある」のですから、生産方法を変える方が妥当なのです。
日本企業への役割と期待
現在、日本企業は28社がRSPOに加盟しています。日本のパーム油の使用量は年間約60万トンで世界第18位と、さほど多くはありません。
しかし、日本のブランドはアジア諸国だけでなく、ほかの海外諸国にも大きな影響力をもっています。例えば、インスタント麺では日本企業は大きな存在感があります。
ユニリーバ、ネスレといった競合企業はヨーロッパですでに行動を起こしています。
日本の商社は多くがすでにRSPOメンバーになっています。日本で認証パーム油を供給する準備は整っており、あとは、需要が日本で増大するのを待って供給を開始しようかという状態です。
一方、製造業と小売業はRSPOメンバーになっているところは、まだ限られていますが、一部の企業がRSPOマークつきの商品を販売しています。
日本の企業には、自社がパーム油をどのくらい使用しており、それがどこから来たものかについて把握に努める必要があります。持続可能なパーム油の購入をもっと進めてほしいとアダム・ハリソンは呼びかけました。
RSPOセミナーの資料
2013年9月11日のRSPO森林セミナーの発表資料はこちら
関連情報
2013年9月11日のRSPO森林セミナーの発表資料はこちら