【第3部:費用算定編】 第3章 自然エネルギーの費用算定
2013/05/09
自然エネルギーとして、太陽光発電、風力発電、地熱発電、水力発電を取り上げて、その費用を算定した。各電源費用の算定にあたっては、コスト等検証委員会7)や固定価格買取制度に関する調達価格等算定委員会5)の資料を参照した。各自然エネルギーの規模は以下のようになっている。
太陽光および風力は、非常に大きく導入が進展すると予想されている。そのコスト低下の様子を学習曲線により計算した。進歩指数(累積生産量が2倍になるときのコスト低下割合)は、過去のコスト低下の分析から得られている数値が今後も続くものとして、太陽光で82%、風力で90%に低下すると想定した。
以下の太陽光と風力に関する計算は、「純粋電力用」について計算している*。同じ規模の出力の燃料生産用の太陽光と風力を含めるとほぼ2倍になる。
累積生産量(設備容量)の計算にあたっては、燃料製造用の太陽光と風力の発電設備を含めている。これらの技術の製品は海外への輸出が想定でき、これにより累積生産量が増大するのでさらに費用低下が考えられるが、ここでは考慮しなかった。
図3.2には、以上の計算で使用した各種の自然エネルギーの設備費用の2050年までの時間的変化を示している。この費用は累積生産量をベースにして学習曲線による計算を行ったものである。
3.1 太陽光発電の費用
太陽光発電は追尾式のような高度技術を想定せず、すでに実用化されている固定式を想定している。設備の寿命は20年、設備利用率は12%、年間運転費として1kWあたり0.5万円の費用を見込んでいる。年間発電金額として化石燃料ベースのBAU総合電力価格を用いて発電量を評価した。これが運転費用(節約額)となる。2050年までに寿命20年で設備の交代が生じてゆく過程をシミュレーションで検討している(表3.2)。
- ※WWFシナリオでは、将来の熱・燃料需要の一部は、電化されるか、もしくは余剰電力から作られた水素によって供給されると想定している。このため、純粋な電力需要を満たすための電力量を「純粋電力用」と呼び、熱・燃料需要を満たすための電力量を「燃料製造用」と呼んでいる。
純粋電力用の太陽光発電は、2010~2050年の40年間に設備投資が69.5兆円、運転費用が−48.1兆円、正味費用は21.4兆円になっている。投資額に対するリターンは2030年台になると大きくなり、2050年以降に運転費用が小さくなる形になっている(表3.2・図3.3)。
3.2 風力発電の費用
風力発電は陸上風力と洋上風力があり、これを区分して扱った。風力発電の設備の寿命は20年、学習曲線の進歩指数は90%であり、コスト低下の余地を見込んだ。
設備利用率は27%、年間運転費として1kWあたり0.6万円の費用を見込んでいる。年間発電金額として化石燃料ベースのBAU総合電力価格を用いて発電量を評価した。これが、運転費用(節約額)となる。
1)陸上風力発電の費用
陸上風力発電の1kWあたり建設コストは、2010年に30万円とし、学習効果により低下してゆくものとした。
純粋電力用の陸上風力は、2010~2050年の40年間に設備投資が7.6兆円、運転費用が−15.3兆円、正味費用は−7.7兆円になっている(表3.3・図3.4)。
2)洋上風力発電の費用
洋上風力は陸上より風況がよいので設備利用率は大きくなるはずだが、詳細な気象データがないため陸上と同じ条件とした。したがって以下の計算結果は、節約される費用の観点からは控えめなものになっている。
洋上風力発電の年間運転費は0.6万円/kWを計上している。ただし、1kWあたりの建設コストは、2010年に50万円としているが、すぐに学習効果により低下してゆくことがわかる。
純粋電力用の洋上風力は、2010~2050年の40年間に設備投資が9.8兆円、運転費用が−14.3兆円、正味費用は−4.5兆円になっている(表3.4・図3.5)。投資額に対するリターンは陸上風力より小さいが、洋上の気象データが入手できればこの数値は大きく改善されるものと考えられる。
3.3 地熱発電の費用
地熱発電の設備の寿命は20年、学習曲線の進歩指数は90%としてコスト低下の余地を見込んだ。設備利用率は70%、年間運転費として1kWあたり2万円の費用を見込んでいる。年間発電金額として化石燃料ベースのBAU総合電力価格を用いて運転費用を評価した。
地熱発電は、2010~2050年の40年間に設備投資が10.9兆円、運転費用が−18.3兆円、正味費用は−7.3兆円になっている(表3.5・図3.6)。投資額に対するリターンは自然エネルギーのなかでは大きいほうである。
3.4 水力発電の費用
水力発電の年間設備利用率は、46%程度であり、太陽光発電の12%、風力発電の27%と比較するとかなり高いものである。
WWFシナリオでは今後建設する水力発電は中小水力のみと見込んでいる。水力発電設備の寿命は40年、1kWあたり建設コストは平均して90万円とした。学習曲線の進歩指数は100であり、これ以上のコスト低下はないものとした。年間発電金額(=運転費用)として化石燃料ベースのBAU総合電力価格を用いて発電量を評価した。
水力発電は、2010~2050年の40年間に設備投資が6.1兆円、運転費用が−7.7兆円、正味費用は−1.6兆円になっている(表3.6・図3.7)。
3.5 太陽熱の費用
太陽熱については、年間太陽輻射の40%を吸収して利用可能としている。1m2あたりの年間捕獲熱量は、41.9kgOEに相当する。太陽熱コレクタの価格は、1m2あたり2010年に5.7万円であり、大量生産が進展するとき進歩指数90%を想定した。2050年には2.9万円に低下する。太陽熱によって代替されるエネルギーとしては、灯油を想定した。参照したBAU灯油価格は、2010年に7.8万円/TOEであり、2050年には2.61倍に達している。
2010年から2050年までの設備投資は26.6兆円、運転費用は−83.4兆円、正味費用は−56.8兆円になっている(表3.7・図3.8)。
3.6 バイオマスの費用
バイオマスに関する費用の算定が他の自然エネルギーと異なる点は、燃料費用の想定が必要な点である。しかし、現状では、バイオマス燃料に関する価格データは、見通しはおろか実績ですらほとんど整備が進んでいない。そこで、バイオマス燃料が代替することになる化石燃料の費用に着目した。もし、バイオマスが普及するとすれば、代替する化石燃料の価格が参照点となると考えられるからである。
バイオマスは、家庭用、業務用、産業用、 輸送用の各種の利用を想定している。それ ぞれの用途において、バイオマスが代替す ることになるBAUにおける燃料(灯油、A 重油、ガソリン)に対応して、2010年には、 表3.8のようにバイオマスの価格を2倍に 想定している。
対応する化石燃料価格は2050年まで上昇してゆくが、バイオマス価格は変わらないもの とした。このため、2030年ごろには価格の逆転が生じる。
バイオマス利用においては、燃焼ボイラーの設備投資額を熱量1kWあたり9万円とし た。
バイオマスの設備投資は、40年間で8.4兆円、運転費用は−14.3兆円、正味費用は−5.9 兆円となっている(表3.9・図3.9)。
バイオマスの部門別供給量は、図3.10に示すように、産業用が大きく、輸送用がこれに 続いている。
脱炭素社会に向けたエネルギーシナリオ提案 <第三部 費用算定>
PDF版はこちら 全文 / 概要版
第1章 | エネルギー価格と費用算定の方法 |
---|---|
1.1 エネルギー価格 1.2 将来の電力価格 1.3 費用算定の方法 1.4 費用算定の対象 |
|
第2章 | 省エネルギーの費用 |
2.1 産業部門の省エネルギー費用 2.2 家庭部門の省エネルギー費用 2.3 業務部門の省エネルギー費用 2.4 運輸部門の省エネルギー費用 |
|
第3章 | 自然エネルギーの費用算定 |
3.1 太陽光発電の費用 3.2 風力発電の費用 3.3 地熱発電の費用 3.4 水力発電の費用 3.5 太陽熱の費用 3.6 バイオマスの費用 |
|
第4章 | 費用算定のまとめ |