タイ政府が象牙の取引停止を宣言
2013/03/05
2013年3月3日、タイ政府のインラック・シナワット首相は、タイが今後、象牙の取引を終了することを宣言しました。これは、同日から首都バンコクで始まった、第16回「ワシントン条約」締約国会議(CITES・COP16)の冒頭で公にしたものです。COP16の開催前からタイ政府に対し、象牙取引の停止を要望し、署名活動なども展開してきたWWFでは、このタイ政府の宣言を歓迎しています。
「象牙の取引は行なわない」COP16開催にあたりタイ首相が宣言
177の国が参加し、3月3日からタイのバンコクで始まった「ワシントン条約(CITES)」締約国会議の冒頭のスピーチで、議長国タイのインラック・シナワット首相は、同国が今後、象牙の国内取引を停止することを初めて、公に宣言しました。
タイではこれまで、自国に生息するゾウから生産される、国産象牙の国内取引が、合法的に認められていました。
しかし、国産の合法な象牙と、海外から密輸された違法な象牙の区別が難しいため、違法な象牙のブラック・マーケットになっている可能性が指摘されてきました。
今回の宣言に際して、首相は「次の段階として、国際的なルールに則した形で、国内法で象牙取引を規制するように、法律の改正に取り組む」と宣言。「タイ国内の野生や飼育のアジアゾウと、アフリカゾウ、すべての保護に貢献したい」とその意思を明らかにしました。
象牙のブラック・マーケットを追放する
タイと同様に、ゾウが国内に生息し、自国産象牙の国内取引が認められている国々は、少なからず、ブラック・マーケットの存在が指摘されています。
しかし、タイは特に「世界最大級の象牙取引の無法地帯」と言われるほど、大きな規模の闇市場を有し、活発な違法象牙の売買が行なわれてきました。
当局が認定した合法的な象牙取扱業者は67ありますが、実際の市場調査の結果では、250以上の店で、象牙製品が確認されています。そして、その多くは、外国人観光客向けに販売されていました。
象牙を国外に持ち出すことは、ワシントン条約に違反する行為ですが、そうした違法行為を助長しかねない形で、象牙の売買が行なわれてきたのです。
タイでの象牙取引停止の宣言が実行されれば、こうした違法な取引や密猟といった野生生物をめぐる犯罪を抑え込む取り組みは、大きく前進すると期待されます。
届いた150万人の声
また、今回のインラック・シナワット首相の宣言は、「世界の声」に応えるものでもありました。
タイ国内での象牙取引の禁止は、WWFやAvaazなどの団体が、世界で署名活動を展開し、求めていた措置だったからです。
この署名には、3月3日の時点ですでに150万人が参加。ワシントン条約会議議長国としての、タイ国政府の姿勢と決断に注目が集まっていました。
これに応えたタイ政府の宣言は、絶滅の危機にある野生動植物の保護を目的とした、ワシントン条約の理念に則したものであり、同時に議長国としてのリーダーシップを示すものにもなったといえるでしょう。
もちろん、宣言だけで野生生物をめぐる犯罪がなくなるわけではありません。WWFはタイ政府の決断を歓迎するとともに、今後この宣言を具体化するための国内法の改正等の予定を明らかにし、それに早急に取り組むことが必須であると考えています。
象牙のみならず、違法、または無秩序な形で継続され、野生生物を危機に追いやっている取引行為は、いまだに後を絶ちません。こうした行為を無くし、密猟を減らしてゆくための合意を交わす場として、ワシントン条約COP16の行方が注目されます。