Rio+20開催記念シンポジウム報告


リオ+20会議開催の2週間前にあたる2012年6月7日、WWFは、シンポジウム「地球一個分の企業経営」を開催しました。テーマは「グリーンエコノミー時代を生きる」です。東京にある国連大学「ウ・タント国際会議場」には、様々な業種から約300名の方々が参加し、地球の持つキャパシティを越えない範囲で経済活動を行なうために、企業に何ができるのかについての発表や議論に耳を傾けました。

グリーンエコノミー時代を生き抜く「地球一個分の企業経営」とは?

【プログラム】

  • 第一部

    基調講演(1)
    「グリーンエコノミーに向けて ~生きている地球レポート2012からのメッセージ」
    WWFインターナショナル自然保護部長 ラッセ・グスタフソン
    WWFジャパン 自然保護室長 東梅貞義

    基調講演(2)
    「グリーンエノコミー時代の企業 ~ユニリーバにとっての生物多様性と気候変動」
    ユニリーバ・ジャパン・カスタマーマーケティング株式会社 代表取締役 プレジデント&CEO 
    レイ・ブレムナー

    パネルディスカッション
    「企業の自主的な気候変動対策とは?」
    WWFジャパン 自然保護室気候変動・エネルギーグループプロジェクトリーダー 池原庸介
    佐川急便株式会社 総務部総務担当部長(環境担当) 石野順三
    日本コカ・コーラ株式会社 広報・パブリックアフェアーズ本部環境パフォーマンスマネジメント
    グループ部長 髙杉洪太
    日本テトラパック株式会社 環境本部マネージャー 金井路也
    UDトラックス株式会社 生産担当バイスプレジデント 岩倉和彦
     
  • 第二部

    発表(1)
    「世界の薬用・アロマティック植物の保全と企業のかかわり-フェアワイルドとは」
    トラフィック イーストアジア ジャパン シニアプログラムオフィサー 金成かほる

    発表(2)
    「持続可能なパーム油と認証」
    WWFジャパン 自然保護室森林グループシニアオフィサー 村田幸雄
    株式会社コントロールユニオンジャパン 営業部 山口泰

    発表(3)
    「海洋生物多様性保全と水産物調達」
    WWFジャパン 自然保護室水産プロジェクトリーダー 山内愛子
    イオン調達株式会社 生鮮調達商品本部水産調達部部長 山本泰幸

    発表(4)
    「生物多様性に配慮した調達の最前線 ~住宅メーカーの資材調達」
    WWFジャパン 自然保護室森林グループリーダー 橋本務太
    ミサワホーム株式会社 経営企画部CSR・環境推進課課長 中田義規

    発表(5)
    「バリューチェーンへの深化 ~紙と生物多様性」
    WWFジャパン自然保護室責任調達(紙)担当 古澤千明
    味の素株式会社 環境・安全部専任部長 杉本信幸
     
  • 第三部

    パネルディスカッション
    「グリーンエコノミーに向けた企業の取り組みとは」
    株式会社レスポスアビリティ 代表取締役 足立直樹
    味の素株式会社 環境・安全部専任部長 杉本信幸
    イオン株式会社グループ 環境・社会貢献部社会貢献&コミュニケーションチームマネージャー  鈴木裕章
    日本テトラパック株式会社 環境本部マネージャー 金井路也 
    ミサワホーム株式会社 経営企画部CSR・環境推進課課長 中田義規
    WWFジャパン 自然保護室森林グループ 粟野美佳子

第一部 グリーンエコノミー時代の企業

基調講演(1)「グリーンエコノミーに向けて ~生きている地球レポート2012からのメッセージ」

WWFインターナショナル自然保護部長 ラッセ・グスタフソン
WWFジャパン 自然保護室長 東梅貞義

第一部では、まず、一つめの基調講演として、WWFインターナショナル自然保護部長のラッセ・グスタフソンが「生きている地球レポート2012年版」の内容を紹介。「人類は現在、地球1.5個分の資源を消費しつづけている。これは、地球が本来、生み出すことのできる資源の量を50%も越えた消費が起きていることを示しています。この現状を見据え、将来の世代に大きな負荷を残さないため、今すぐ行動が必要であること、そして、人類には「よりよい選択」をする可能性がまだ残されています」と訴えました。(この基調講演は、ビデオでの講演です)

続いて、WWFジャパン自然保護室長の東梅貞義が、Rio+20会議で企業に期待されていること、そして、WWFジャパンがRio+20会議に期待することについて発表しました。Rio+20で採択されようとしている文書「ゼロ・ドラフト」において、企業に対し、グリーンエコノミー実現のリーダーシップをとることへの期待が述べられていることを紹介。加えて、人類の生産・消費活動の最前線を担っている企業が、資源の調達や、エネルギーの使用において環境への配慮に取り組めば、大きな変化を起こすことができること、その一つの具体的な実現方法として、信頼できる認証制度の充実が必要であることを提示しました。

基調講演(2)「「グリーンエノコミー時代の企業 ~ユニリーバにとっての生物多様性と気候変動」

ユニリーバ・ジャパン・カスタマーマーケティング株式会社 代表取締役 プレジデント&CEO レイ・ブレムナー

二つめの基調講演では、ユニリーバ・ジャパン・カスタマーマーケティング株式会社の代表取締役であり、プレジデント&CEOであるレイ・ブレムナー氏より、CO2の排出量削減や節水、森林回復、持続可能な農作物への転換など、多角的な取り組みが紹介されました。「日々の小さな変化を産むことが重要であり、それを億単位の人に広げることで、大きな変化を起こせる」とのメッセージは、多くの企業に進むべき方向を示し、また、エールを送るものとなりました。

パネルディスカッション「企業の自主的な気候変動対策とは?」

第一部の最後には、WWFが世界全体で企業とともに進めている気候変動対策プログラム「クライメートセイバーズ」の参加企業によるパネルディスカションが実施されました。日本のクライメートセイバーズ第一号である佐川急便をはじめ、日本コカ・コーラ、日本テトラパック、UDトラックスの4社を交え、京都議定書の第一約束期間終了や、東日本大震災による影響の中で、省エネをはじめとする気候変動対策を持続可能なかたちで進めていくには何が必要かについての意見交換が行なわれました。

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パネルディスカッション登壇者および発表資料

< コーディネーター>
WWFジャパン自然保護室 気候変動・エネルギーグループ 池原庸介

< パネリスト>
佐川急便株式会社 総務部総務担当部長(環境担当)石野順三

日本コカ・コーラ株式会社 広報・パブリックアフェアーズ本部 環境パフォーマンスマネジメント グループ 部長 高杉洪太

  • 発表「コカ・コーラのCO2排出削減取り組み 」(資料は公開していません)

日本テトラパック株式会社 環境本部マネージャー  金井路也

UDトラックス株式会社 バイスプレジデント 生産担当 岩倉和彦

第二部 企業課題としての生物多様性保全

木材、紙、水産物、薬… 地球上の生物多様性を、人類は昔から「資源」として利用してきました。しかし今、世界各地で、資源の過剰な利用が起きています。自然資源の利用を、持続可能な形に改善していくこと。それは、地球環境の根幹をなす生物多様性を守る上で、避けて通れない課題です。

第二部では、WWFがこれまで取り組んできた野生生物取引、森林保全、海洋保全という分野の中で「地球一個分の資源利用」を実現していくための具体的な方策について、協力企業を交えた発表が行なわれました。

発表(1)「世界の薬用・アロマティック植物の保全と企業のかかわり -フェアワイルドとは」

発表者:トラフィックイーストアジアジャパン シニアプログラムオフィサー 金成かほる

薬やハーブ、アロマ、スパイス、お香などに用いられる「薬用植物」は、人工的に栽培されているものが多いと思われがちだが、流通している薬用植物種の75~90%は、今も野生から採取されている。そして、薬用植物種の21~45%が絶滅の危機にある。そこで、薬用植物の「安定的な供給と品質保持」をめざして、企業側からの要望によって作られた制度が「フェアワイルド」である。フェアワイルドの基準に従って、持続可能な採取とフェアな取引がおこなわれているかなどが審査され、認証を受けたものについては付加価値がつく。製品の「安全性」「品質」「持続可能性」が保証されるだけでなく、採取者の生活向上にも結びつくものとして注目されている。ただし、導入までに時間と労力がかかること、制度そのものがまだあまり知られていないことなどの課題もある。

発表(2)持続可能なパーム油と認証

発表者:WWFジャパン 自然保護室 森林グループ シニアオフィサー 村田幸雄
株式会社コントロールユニオンジャパン 営業部 山口泰

パーム油は、アブラヤシの実から採取する植物油で、菓子・食品から化粧品、洗剤に至るまで幅広い製品に使われている。一方で、持続可能でないパーム油の生産が、マレーシアやインドネシアの熱帯雨林破壊を引き起こしている。しかし、パーム油には、単位面積あたりの収穫量が高いという側面もある。パーム油が持つ生産効率のよさは、世界が必要とする植物油を生産しながら、同時に生物多様性も守ることの実現に貢献する可能性を持っているといえる。そこで、2004年に「持続可能なパーム油のための円卓会議」が設立され、2011年には、RSPO認証パーム油の生産量は500万トンを超えた。また、RSPO認証パーム油の流通を適切に管理し、トレーサビリティの機能を提供するためのシステム「RSPO SCCS認証」も始まっている。パーム油を扱う企業には、RSPOの会員となり、認証パーム油への切り替えを進めてほしい。

発表(3)海洋生物多様性保全と水産物調達

発表者:WWFジャパン 自然保護室 水産プロジェクトリーダー 山内愛子
イオン調達株式会社 生鮮調達商品本部水産調達部部長 山本泰幸

WWFでは、水産物を扱う企業に対して、まず、①資源状況 ②生態系への負荷 ③管理体制の3点を審査できる「基準」を用いた、取扱い製品のチェックを呼びかけている。さらに認証製品への切り替えや、持続可能な製品の拡充、そして「調達方針」の策定を求めている。WWFとしては、MSC認証を推奨している。また、近年、著しく伸びてきている養殖業についても、ASCという新たな認証制度が始まった。水産物の利用を持続可能なものにしていくために、日本の企業が行っている取り組みの中には、味の素株式会社によるカツオの標識放流調査への支援というのもある。カツオの資源量や行動に関する科学的なデータを蓄積することによって、国際的なカツオ資源管理へ貢献するものといえる。また、ニチレイフレッシュでは、インドネシアで、持続可能な方法で生産されたブラックタイガーの買い付けを通して、現地のさまざまな関係者を巻き込む形で生産の改善を進めている。

イオン株式会社は、2006年に日本で初めてMSC認証の水産物を販売した。消費者に、認証ラベル付きの水産物がどういう意味を持っているのか、理解してもらうための普及活動にも力を入れている。認証取得にかかるコストについては、価格に転嫁するのではなく、プライベートブランドの導入によって吸収することをめざしている。

発表(4)生物多様性に配慮した調達の最前線 ~住宅メーカーの資材調達~

発表者:WWFジャパン 自然保護室 森林グループ長 橋本務太
ミサワホーム株式会社 経営企画部 CSR・環境推進課課長 中田義規

世界の自然林は毎年1,300万ヘクタールずつ減少している。この状況に歯止めをかけるための活動のひとつとして、WWFは企業に対し「責任ある木材調達」を求めている。具体的には、木材調達の方針を策定し、その方針に沿った調達へ向けて段階的な取組を行なっていく、というもの。木材だけでなく、水産物やパーム油などについても、同様のやり方が成り立つ。木材に関しては、製紙メーカーや、住宅メーカーなどの中のトップランナー企業が「責任ある木材調達」にすでに取り組み始めている。ミサワホームは、木材調達方針をつくる目的を、生物多様性の保全と位置付けている。情報公開を行ない、毎年の進捗状況が確認できるようになっている。こうした方針は、WWFジャパンとミサワホームが協力して作成した。

「ミサワホームの木材調達ガイドライン」は、2009年からWWFとの協議に入り、2010年6月に5年間の行動計画として発表した。ガイドラインを導入したことによるメリットとしては、生物多様性の保全に貢献できたこと、同業他社との差別化になったこと、仕入先の環境への意識付けができたことなどがあげられる。しかし一方で、仕入先への無理な強制は、コストアップにるながるという懸念も感じた。今後の課題としては、建材などの複合材のトレーサビリティーを確認できるようにすること、業界全体における環境保全意識を向上させること、などがある。

発表(5)バリューチェーンへの深化 ~紙と生物多様性~

発表者:WWFジャパン 自然保護室 責任調達(紙)担当 古澤千明
味の素株式会社 環境・安全部 兼 CSR部 専任部長 杉本信幸

インドネシアのスマトラ島では、現在も貴重な自然林の減少が続いている。いくつかの理由があるが、その一つにAPP社とAPRIL社といった製紙メーカーのための製紙原料調達がある。WWFは通常、特定の企業を名指して批判する方法はとらない。しかし、この2社については、話し合いや提言を重ねてきたが、改善が見られないだけでなく、あたかも環境に配慮しているかのような「グリーンウォッシュ広告」も問題の深刻化をさせる要因となっていることから、WWFとしてもより明確なメッセージを表明している。「合法かどうか」だけでは、生物多様性保全への配慮がなされているかどうかは判断できない。インドネシアから大量の紙を輸入している日本には、責任ある調達が求められている。これは、社内のコピー用紙や印刷物などエンドユーザーとして紙を使う側であっても、環境に配慮した紙を選ぶという取り組みが必要であり、長期化する熱帯林の破壊という問題に対して、重要な貢献となることを意味する。

味の素グループは、「いのち」のために働き、持続可能な 社会の実現に貢献する、という環境理念をかかげている。環境についてのさまざまな取り組みのうち、紙については、特に他の企業に比べて、特に紙を多く使用しているわけではないが、生態系や生物多様性に配慮して生産された原材料の使用を推進するべきであると考えている。全世界、全事業利用域を対象に、事務用紙、容器包装用紙、販促推進に使う印刷物の用紙について、責任ある調達方針を有する事業者との取引を優先することをめざしている。生物資源の持続可能な利用は、企業にとっては事業の存続を左右する重要なことだと考える。負荷を減らすだけでなく、回復させるところに踏み込む必要があるのではないか。

第三部 パネルディスカッション:

シンポジウムの最後には、株式会社レスポスアビリティ代表取締役の足立直樹氏がコーディネーターとなり、「グリーンエコノミーに向けた企業の取組とは」と題してディスカッションが行なわれました。やはり焦点はコスト。ある程度は他の経費を削ることで吸収できるが、より高い環境配慮を進めるには、顧客はもちろん、従業員や業界全体にも、環境保全のためのコストへの理解をもっと広めなければならないという課題が確認されました。

パネルディスカッション登壇者

<コーディネーター>
株式会社レスポスアビリティ 代表取締役 足立直樹
<パネリスト>
味の素株式会社 環境・安全部専任部長 杉本信幸
イオン株式会社グループ 環境・社会貢献部社会貢献&コミュニケーションチームマネージャー
鈴木裕章
日本テトラパック株式会社 環境本部マネージャー 金井路也 

ミサワホーム株式会社 経営企画部CSR・環境推進課課長 中田義規
WWFジャパン 自然保護室森林グループ 粟野美佳子

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企業の取り組みと、消費者を結びつける

今回のシンポジウムには、さまざまな業種から300名を越える参加がありました。環境保全に関心を持つ企業がスムーズに取り組みを始められるようにすること、さらに、そうした企業の取り組みを、消費者が積極的に応援できるようにすること。それは今や、WWFにとっても、果たすべき重要な役割のひとつとなっています。

Rio+20開催記念シンポジウム 開催概要

日時 2012年6月7日(木)9:30~17:30
場所 国連大学 ウ・タント国際会議場
(東京都渋谷区神宮前5-53-70)
参加費 無料
主催 WWFジャパン

 

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