ガボン政府が保管していた象牙を焼却処分に
2012/06/27
2012年6月27日、ガボン政府は、違法な象牙の取引とゾウの密猟を許さない、という強い決意を示すため、これまでに政府が押収し、保管していた象牙4,825キログラムを焼却処分することを決定しました。これは約850頭分のゾウの牙に匹敵する量です。
違法取引の根絶を誓う「意思表示」
WWFの中部アフリカ地域プログラムオフィスの代表、ステファニー・コナードは「押収された違法な象牙や、出所のわからない在庫象牙が、国際的に合法なものとして売られるなどということは、決してあってはならないことです。ガボン政府は、このような象牙は利用しないという決断を下しました。WWFはその決断を支持します」と述べています。
また、ガボン国立公園局の事務局長であるリー・ホワイト博士は、
「ガボンは現在、犯罪組織が送り込むハンターや、アジアに象牙を送る密輸団に席巻されています。だからこそ、野生生物の違法取引を、とりわけ象牙の密輸を根絶するのだという強力な意思表示をする必要があるのです。今、これをやらなければ、遠からず、ガボンの森を振るわすマルミミゾウ(アフリカゾウの亜種。別種であるとする説もある)の声を、私たちは永遠に失うことになるでしょう」と話しています。
TRAFFICで長年、象牙取引問題に取り組んできた専門家であるトム・ミリケンも、次のように訴えています。「政府が抱える在庫象牙は、適切に管理しないかぎり、すぐに"足が生え"、違法取引へと紛れ込んでしまいます。ザンビアで3トンの象牙が、厳重に保管していた部屋から消えてなくなったのは、つい先週のことです。モザンビークでも2月に1.1トンの象牙が消えました。今回のガボン政府の行動は、象牙を誘惑の魔手から引き離すための、非常に効果的な手段だといえるでしょう。」
激しさを増しつつある象牙の違法取引
2012年6月21日、ワシントン条約(絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約=CITES)の第62回常任委員会に提出されたレポートにより、2011年に発生した象牙の押収量が、記録がとられるようになった1989年以来、最大件数にのぼったことが明らかになりました。
1989年は、ワシントン条約によって、象牙の商業的な国際取引が完全に禁止された年です。以来、ワシントン条約に違反して国際取引される象牙は、各地の税関などで押収されることとなりました。象牙の国際取引禁止は、ゾウの個体数減少に対する一定の歯止めとなってきました。しかし近年、再びゾウの密猟と象牙の違法取引が激しさを増しています。
2011年に発生した象牙の押収量は、1989年以来、最も高い数値を記録しました。また、ゾウの密猟も、過去10年で最も高いレベルで発生しています。これはいずれも、6月23日から27日にかけてスイスのジュネーブで開催されている第62回ワシントン条約の常設委員会に提出されたレポートの中で指摘されたことです。
レポートは、以下の専門機関の情報を集積し、分析したものです。
- ワシントン条約の取り組みのひとつであるMIKE(ゾウ違法捕殺監視システム)
- ゾウの個体群の状況に関するIUCN(国際自然保護連合)のデータ
- TRAFFIC(*)によって管理されているETIS(ゾウ取引情報システム)
- UNEP-WCMC(国連環境計画・世界自然保護モニタリングセンター)が管理するワシントン条約における取引データベース
- ※TRAFFIC(トラフィック)は、野生生物の取引を監視・調査するNGOです。WWFとIUCN(国際自然保護連合)の自然保護事業として、世界およそ30ヵ国のネットワークで活動しています。
犯罪組織の関与も
象牙だけでなく、皮や肉、生きたゾウなど、ゾウの取引全般に関する情報を蓄積するシステムであるETIS(Elephant Trade Information System)のデータは、象牙の押収量が世界的に最も多かった5年間の中に、2009年、2010年、2011年が入っていることを示しています。
2011年だけで、大規模な象牙の押収が14件も起こりました。ETISの記録が蓄積されてはじめたのは1989年。以来、現在までの23年間の中で、2桁を記録したのは2011年が初めてです。押収量の合計も、24.3トンと見積もられており、最大の量となっています。
大規模な象牙の押収(1回の取引で800キログラム以上の場合をいう)が増えているという事実は、犯罪組織の関与があることを示してもいます。
ETISの記録は、ほとんどの密輸象牙は、ケニア、タンザニアなど東アフリカにあるインド洋に面した港から出荷されていることを示しています。また、おもな密輸先は中国とタイです。2009年まではマレーシア、フィリピン、ベトナムが中心でしたが、近年、違法取引の中心地は、中国とタイに移っていると見られています。中国政府は、2012年の初旬に大規模な捜査を行ない、1366.3キロの象牙を押収するとともに、13人の容疑者を逮捕しました。
特に中部アフリカで顕著に
ゾウの密猟を監視するシステムであるMIKE(Monitoring the Illegal Killing of Elephants)には、2005年以来、ゾウの密猟が着実に増えている事実が記録されています。中でも2011年は、モニタリングを始めた2002年以来、最も高い値となりました。
密猟は、アフリカゾウがすむすべての国で増加していますが、中でも、中部アフリカの国々で特に顕著となっています。2012年のはじめには、カメルーンのブバ・ンジダ国立公園で数百頭のゾウが殺害されるという事件が起こり、国際的な注目を集めました。
こうした中、2012年6月6日、チャドの首都ンジャメナで開催されていたCOMIFAC(The Central African Forests Commission:中央アフリカ森林委員会。2005年発足)の会合において、新たな地域計画が採択されました。
違法な取引によって危機にさらされている、アフリカゾウをはじめとする野生生物の保護を増強するための法の執行と、密猟対策の強化を共同で実現することを、各国が約束する内容です。
この地域計画に署名したのは、COMIFACに加盟している10カ国(ブルンジ、カメルーン、チャド、中央アフリカ共和国、赤道ギニア、コンゴ共和国、コンゴ民主共和国、ガボン、ルワンダ、サントメプリンシペ)です。
こうした生息国の取り組みを支えるためにも、ゾウの取引にかかわるすべての場面において、厳しい法執行が求められています。IUCNの種の保存委員会・アフリカゾウ専門家グループの代表、ホーリー・ダブリン氏は、関係国の会合で「アフリカゾウの生息地、違法な象牙の中継地となっている国々、そして消費国。これらすべてが共通のビジョンを持ち、より高い計画性と協調性を持って、時間と資源を集中して投資することが求められています」と呼びかけました。
WWFは、これからもMIKE(ゾウ違法捕殺監視システム)とETIS(ゾウ取引情報システム)の管理・運営を支援するとともに、「Green Heart of Africa」プログラムを通して、中部アフリカ諸国の生物多様性保全と、密猟・密輸の根絶をめざす活動を続けていきます。
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2008年に輸出された「在庫象牙」と、ガボン政府が焼却した象牙の違いについて
2008年、南部アフリカ4か国(ボツワナ、ナミビア、ジンバブエと南アフリカ共和国)から日本と中国に向けて、在庫象牙の輸出が、合法的なものとして行なわれたことがあります。輸出されたのは、いずれも出所が明らかなゾウの牙でした。この輸出は、ワシントン条約によって以下の条件が付けられた上で許可されました。
- ゾウの保護・管理がコントロールできている南部アフリカ4ヵ国の象牙に限り許可
- 条約で定められた基準を満たす国内取引の監視システムがある日本と中国のみに許可
- 自然死したか、もしくは人間等に危害を加えて駆除されたアフリカゾウから採取されたものに限り許可
また、2008年に輸出をおこなった4か国は、その後9年間、象牙の国際取引認可を求める提案を、ワシントン条約締約国会議に提出しないことも、併せて決定されています。
こうした決定がおこなわれた背景には、南部アフリカ4か国では、政府によるアフリカゾウの保護・管理が適切なレベルに到達し、アフリカゾウの生息数も安定してきていたことがあげられます。それに伴い、ゾウが人里に出てきて畑を荒らすなど、人間とのトラブルが増加。自然死したアフリカゾウから採取された象牙も増えてきて、その管理にかかる費用も、厳重を期すれば期するほど、かさむこととなっていました。
そこで、出所の明らかな在庫の象牙を国際取引することで資金を生み出し、人間とアフリカゾウの摩擦を解消するためや、アフリカゾウの保護に使いたいという提案が、この4か国からワシントン条約の締約国会議に提出され、数年にわたる議論の末、認められることとなったのです。
WWFとTRAFFICは、このときの在庫象牙の輸出については、支持を表明しています。一方で今回、ガボンで焼却が決定されたような違法取引の現場で押収された象牙や、出所のわからない象牙は、国際的な商業取引をすべきではないと考えます。