南アフリカでサイの密猟が急増
2011/01/14
かつてアフリカに広く生息していたクロサイとシロサイ。密猟によって激減した2種のサイが、現在最も多く生息している国が、南アフリカ共和国です。しかし、その南アフリカで近年、組織的なサイの密猟が急増。2010年の1年間で333頭が、2011年に入ってからも少なくとも6頭が、密猟の犠牲になりました。
南アフリカの危機
アフリカ大陸の各地で、ここ数年サイの密猟が急増しています。クロサイとシロサイ合わせておよそ2万1,000頭が生息している、世界最大のサイの生息国、南アフリカからも、深刻な事態が報告されています。
同国で密猟増加の兆候が顕著になったのは2008年。この1年間に、同国で密猟の犠牲になったサイは83頭でした。
2009年にはそれが122頭に増加し、2010年には333頭が密猟されました。同じ年、南アフリカ政府の努力によって、162件の密猟が検挙されましたが、その後も密猟は止まず、2011年になってもすでに6頭が殺されるなど、問題は続いています。
南アフリカ最大のサイの個体群が生息し、サファリ・ツアーで世界的に有名なクルーガー国立公園でも、密猟が頻発。すでに146頭が殺されました。
近代化する密猟
こうした密猟の背景には、ベトナムをはじめとするアジア諸国で、サイの角が伝統薬の成分として重宝され、多くの場合違法であるにもかかわらず、いまだに高値で取引されていることがあります。
この密猟の原因自体は、30年前とさほど変わっていません。
しかし、密猟の現場の状況は大きく変化しています。WWFアフリカサイ・保護プログラムのマネジャーであるジョセフ・オコリは、次のように言っています。
「南アフリカで密猟に従事する犯罪組織は、高度に組織化されており、先進テクノロジーを用いています。これは、伝統的なタイプの密猟とは違います」。
実際、行なわれている密猟の多くは、ヘリコプターや暗視スコープ、消音器などを装備した銃器などを駆使し、夜間に警備をかいくぐって行なわれています。この背景には、訓練された要員を抱える犯罪ネットワークの存在も指摘されています。
脅かされる保護100年の歴史
アフリカのサイは、この100年の間、自然保護の歴史の中で、敗北と成功の道をたどってきました。
アフリカ南部に生息するシロサイの亜種ミナミシロサイは、狩猟によって19世紀の終わりに、100頭以下にまで減少。
1960年代に、10万頭いたクロサイも、その後、東アフリカを中心に吹き荒れた密猟の嵐の中で2,410頭にまで激減し、同じ頃アフリカ中部に2,000頭あまりが生息していた別亜種のキタシロサイは、懸命の保護の努力にもかかわらず、生息地各国で起きた内戦の中で絶滅しました。
しかし、ミナミシロサイは南アフリカでの100年におよぶ手厚い保護により、現在は2万頭にまで回復。クロサイも同じく、南アフリカや東アフリカ諸国の努力によって、4,200頭まで回復しました。
それでも、クロサイは国際自然保護連合(IUCN)のレッドリストでは、最も絶滅のおそれが高いとされる、CR(近絶滅種)というランクに指定されています。
こうした状況の中で、南アフリカを中心に再び増えつつある密猟は、長い間続けられてきた保護活動の努力を脅かす、深刻な問題といえるでしょう。
新たな取り組みの中で
この問題を解決するカギは、狙われるサイの角を消費している、アジア諸国にあります。
WWF南アフリカの事務局長モーン・デュ・プレシは、こうしたサイの角に対する需要が、犯罪組織にサイの密猟を実行させる、インセンティブになっている、と指摘しています。
「アフリカでもアジアのいずれでも、サイの角を取引することは、法律で禁じられています。サイの大規模な密猟を止めるためには、こうした国々で、きちんと法律が守られるよう執行を強化するために、まとまった資金を投入するといった努力が必要になのです」。
また、政府が密猟者に厳しい罰則を科すことも、過去数十年にわたり築き上げられてきたサイ保護活動の実績を守る、確かな意思表示となります。
WWFやトラフィックでは、こうした密猟の防止を強化するための南アフリカ政府の取り組みを支援すると共に、サイの生息に適した環境を整え、保護区を拡大する取り組みを続けています。