生物多様性条約第10回締約国会議(CBD・COP10)を終えて


愛知県名古屋市で開かれていた、生物多様性条約第10回締約国会議(CBD・COP10)は、2010年10月30日未明にすべての討議を終え、最後の全体会議で3つの決議を採択して幕を閉じました。最終的に締約国すべてが合意して、ABS議定書(名古屋議定書)、新戦略計画(2020年目標)、そしてそれを達成するための資金動員計画を採択したこと自体は、国際社会が再び一丸となって、地球環境問題へ取り組んで行くという政治的意思を示すことに繋がりました。しかし各決議の内容や、採択に至るまでの過程を振り返ると、今後に課題を残したことも事実です。

国際合意成る!

2010年10月30日午前1時29分、全体会議に諮られた3つの決議の最後、新戦略計画を実行に移すための資金動員計画案にコンセンサスが得られ、議長である松本環境大臣の「採択します」の宣言とともに、CBD・COP10はすべての審議を終えました。

前夜、締約国にとって最大の関心事とも言えるABS議定書(名古屋議定書)の作業部会が、時間切れで議定書案を確定できず、議場には失望感が漂いました。閣僚級の会議で何とか成立に結びつけようと、議長国として日本が急きょ議長案を策定し、翌朝回議するといった事態に陥ったため、最後まで国際合意に達することができるかどうか、不透明なまま進んだ今回のCOPでした。

環境問題は今やグローバル化の一途をたどり、生物多様性の保全もそうですが、気候変動問題の解決も、国連の枠組みのもとで全世界が足並みを揃え、対策を講じていく必要があります。しかし、2009年にデンマークのコペンハーゲンで開催された、国連気候変動枠組条約(UNFCCC)のCOP15では、京都議定書の約束期間が終わる2013年以降の国際枠組みに合意することができず、地球の将来に黄信号がともってしまいました。

今回のCBD・COP10は、そのコペンハーゲン会議後、初めての大きな国際会議であり、1カ月後にメキシコでの国連気候変動枠組み条約のCOP16を控えているというタイミングもあって、合意の行方に大きな注目が集まっていました。

各国が抱える問題や国益のぶつかり合いを乗り越えて、国際社会が再び一つの指針(決議)のもとに、地球環境問題の解決に向け、前進することができるか? 2週間続いた交渉の中で、各国政府代表団の発言の端々に、その責任を感じていることが伺えましたし、WWFもこの点をロビーワークの柱に据えていました。

したがって、ABS(遺伝資源の利用から生じた利益の公平な配分)に関する「名古屋議定書」の成立とともに、3つの決議が揃って採択されたことで、今回のCBD・COP10が、国際社会が信頼関係を取り戻す上で大きな役目を果たした、と言うことができるでしょう。

 

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詳細報告 目次

2010年目標の評価と「愛知ターゲット」

ABS「名古屋議定書」の成立

終わりに

 

2010年目標の評価と「愛知ターゲット」

2週間にわたるCBD・COP10の国際交渉は、実際難航しました。地球上の生物種の多くに棲みかを提供する途上国と、自然を守るに十分な資金を出すと約束していた先進国の間に溝が目立ち、当初の予定通りには進みませんでした。各締約国は自分たちの立場を崩そうとせず、歩み寄りが見られなかったためです。

多岐にわたるテーマを扱う生物多様性条約の性格上、テーマごとに作業部会(WG)が設けられて、各国代表団の間で決議案に関する調整が進められますが、特に意見の隔たりの大きい文案については、その部分だけを検討するコンタクト・グループという下部会議体が設けられ、集中審議します。

それでも紛糾する場合は、さらにその下にICG(Informal Consulting Group非公式協議グループ)と呼ばれる小グループや、あるいはコンタクト・グループの議長が招集する少人数のグループが招集されて文案を練り、それを上申して確定作業を進めていきます。

今回の会議でWWFが最重要課題に挙げていたのは、ポスト2010年目標(新戦略計画)の策定でした。大幅な未達に終わった「2010年目標」を挽回し、生物多様性の保全と持続可能な自然資源の公平な利用を実現するためには、計測可能で意欲的な地球規模の次期目標を掲げることが求められます。

「生物多様性」という概念は計測するのが困難なものではありますが、「生物多様性の損失速度を顕著に低下させる」という「2010年目標」の立て方自体が抽象的で、達成度を具体的に評価できないことが、成果を出せなかった一つの原因である、という反省があります。

そこで生物多様性条約の締約国は、次の目標年を「2020年」と定め、それまでの10年間に達成すべき保全目標を20項目にまとめ、2010年5月にナイロビで開催されたSBSTTA(生物多様性条約の科学技術助言補助機関)で詳細に検討し、COP10に提出しました。
これが「2020年目標」、すなわち「愛知ターゲット」(採択後の名称)です。

今回の会議では、第2作業部会で確定作業に入った、この「2020年目標」でしたが、特に具体的内容については、各国交渉官によるより詳細な検討が必要との認識に基づき、第1週目はコンタクト・グループで議論が重ねられました。

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2020年目標案の現実

「地球の将来は、世界の生物多様性の保全が、次の10年間に確実に達成できるかどうかにかかっている」生物多様性条約の締約国すべては、この認識を共有しています。

しかし、具体的にどのような目標設定をするか、には大きな隔たりがありました。科学的な知見に基づいて提案された20の目標案の間にも、各国の隔たりが大きいものと、比較的順調に合意に至ったものがありました。

例えば、今回、CBDで大きく取り上げられた「自然資源の持続的な利用」という観点から、初めて具体的に目標の中に盛り込まれた6番目の「過剰漁獲、破壊的漁業の禁止」条項。

具体的な数値目標は伴わないものの、水産業のあり方を規定する内容の導入とあって、日本を初めとする海洋国の抵抗が予想されました。

実際、過剰漁獲という言葉を残すか削除するか、あるいは水産業の影響を「“絶滅が危惧される種”に対して生態学的な許容範囲に収める」か、「“すべての資源”に対して生態学的な許容範囲に収める」かで、日本とEUその他の国々の間で議論が闘わされました。

しかしこの時は、コロンビアが提案した「生態系ベース手法(Ecosystem-based approach)」による管理という言葉の導入によって、突破口が開かれました。「生態学的な許容範囲」の計測可能性がより明確になり、各国が文案に賛成したのです。

最後まで難色を示した日本も、30分の検討時間ののちに、承認の旨をコンタクト・グループに伝え、大きな拍手が起こりました。

難航した新戦略計画の策定

しかし、他の条項はなかなか議論の収集がつかず、2020年目標の策定は遅々として進みませんでした。特に難航したのは、以下の5つの目標項目です。

  1. 締約国の意見が2つに分かれ、対立が大きい:目標5と目標11
  2. ABS作業部会とのすり合わせが必須:目標16、18
  3. 「資金動員計画」のコンタクト・グループとの協議が必須:目標20

これらの議論の流れを、もう少し詳しく振り返ってみましょう。

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1.生物多様性消失を食い止める、保護区の創設

1.に挙がっている二つの目標は、「生物多様性の消失を食い止め」「地球上の一定地域を生物多様性保全のために保護区とする」という、今後の生物多様性保全の現場に指針を与えるものとなります。

2008年にドイツ・ボンで開催されたCBD・COP9におけるWWFのキャンペーン(ゼロ・ネット・デフォレステーション;森林消失正味ゼロ宣言)を具体化し、実行していく上でも欠かせない内容ですが、直接、数値目標が明記されることもあり、各国の利害が対立し、第1週目には決着がつきませんでした。

2週目に入ると、コンタクト・グループと作業部会の間を、条文が目まぐるしく行き来しましたが、それでも対立する各国は互いに譲らず、結局最後は、議長裁量で一つの数字にまとめられ、閣僚級の政治判断に委ねられました。

以下に参考までに、候補に挙がった文案を紹介します。さまざまな「カッコ書き」がついては消えましたが、これらは各国の国益と切っても切れない縁があります。

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目標5. 2020年までに、[森林を含む]すべての自然の生息地の消失速度が、[少なくとも半減し][または可能なところでは][限りなくゼロになり]、劣化や分断化が顕著に減少している。
(By 2020, the rate of loss of all natural habitats, [including forests] is [at least halved] [or where feasible] [brought close to zero], and degradation and fragmentation is significantly reduced.)
目標11. 2020年までに、少なくとも[15%][20%][25%]の陸域と内陸水域[、それから[6%][10%][20%]の沿岸と海洋域]の、特に生物多様性と生態系サービスに重要な地域が、効果的で公平に管理された生態的を代表する地域とそのあいだをつなぐシステムを含む、保護区やその他の地域ベースの効果的な保全策によって守られ、より広い陸域、海域へその恩恵が及んでいる。
(By 2020, at least [15%] [20%] [25%] of terrestrial and inland water [and [6%] [10%] [20%] of coastal and marine areas], especially areas of particular importance for biodiversity and ecosystem services, are conserved through effectively and equitably managed ecologically representative and well connected systems of protected areas and other effective area-based conservation measures, and integrated into the wider land- and seascape.)

この二つの目標の議論には共通の傾向があり、途上国からの「保護の効果を上げ、目標を達成するためには、今以上の資金調達が必須である」という立場と、「資金提供をするためには、確実な成果をあげるための意欲的な目標とそれを測る指標の設定が不可欠」という先進国(おもにヨーロッパ)の立場の対立です。

WWFが発表した「生きている地球レポート2010年版」によれば、世界の「生きている地球指数」は1970年に比べ30%減少。
しかも、主に先進国が分布する温帯域は29%指数が上がったのに対し、熱帯域は60%も減少しています。

そしてこの熱帯域の「生きている指数」の減少は、途上国の自然資源に対する世界的なトレード、特に先進国への輸出が引き起こしている、という構図も明らかになっています。各国の取るべき対策は、これ以上の生物多様性の損失が起こる前に、きちんと保護と持続的な利用を確立する以外ありません。

この道筋を確実なものにするために、目標5と11は、決定的な意味を持っています。
特に2010年までの世界の取り組みの結果をもって、次の10年への道筋を考えるなら、過去の遅れを取り返すぐらいのけん引力のある目標の設定は不可欠でした。しかし、結果は陸域17%、海域10%という、意欲的とは程遠いものになってしまいました。

特に陸域は、2010年目標10%に対し、現状が12%と目標を上回る成果を得ているにも関わらず、20%に引き上げることができませんでした。
中には25%を主張する国もありましたが、一方でメキシコなど数値目標の設置自体に反対する国もあり、コンタクト・グループ議長裁量で現行と最大値の間をとったというのが実情です。

また海域については、確かに現状1%に対して10倍という目標値ではあるのですが、科学が推奨する最低値20%の半分にしかなりません。

そもそも2010年目標10%に対して、あまりにも成果が低かったことに問題があるのであって、そのまま現状を容認して次期目標を同率で変えないのでは、政治的メッセージとしても弱いと言わざるを得ません。

特に、議長を務める日本政府の立場は、世界から注目されています。
経済大国としての資金提供はもちろん、海に囲まれた海洋国として、意欲的な目標設定への貢献は重要でした。実際、最初の提案の際には15%という数字を出し、また20%の可能性も否定しなかった日本政府ではありましたが、結局議長として各締約国を説得しきれなかったことは残念です。

2.ABS議定書にまつわる伝統的権利の明記

2.のグループに含まれる目標16(議定書の規定を、目標として遵守を謳う)と18(少数民族、地域社会の伝統的知識の保護)の文案は、ABS議定書作業部会の進捗を横目で睨みながら、徐々に詰めが進められて行きました。結局、10月28日のABSコンタクト・グループ案の非採択を受けて、最終日、ABS議長案の回議の結果を待ちながら、急ピッチで確定が進みました。

3.2020年目標を達成するための資金

そして3.の資金動員計画は、今回の議論の中で、もっとも先進国と途上国の溝が明確になった目標項目でした。前述の「生きている地球レポート2010年版」の結果にも表れているように、先進国は自らも大きく依存している世界の生物多様性を保全するため、責任を持って資金提供の仕組みを整えていくべきです。

しかし実際は、個別の国が単発で資金提供を申し出るだけで、国際社会としての具体的なコミットメントは一つもできずに終わりました。特にEUは、イタリアが抵抗しているという噂も漏れ聞こえましたが、内部調整がつかずに何一つ数字を出すことができず、ヨーロッパからロビー活動のため出張して来ていたWWFの政策担当者たちも憤慨していました。

第2作業部会の中で、2020年目標の議論とは別に進められていた資金動員計画コンタクト・グループでは、まず目標値を設定する前に、指標の詰めが行なわれ、それは比較的順調だったのですが、肝心の「2020年までに世界でいくら必要か」という話が進みません。

業を煮やした途上国代表として、ブラジルが、2020年目標コンタクト・グループの目標項目20の討議の中で、「2020年までに少なくとも2000億ドルが必要」という具体的な数値を提案しました。
保全活動を実行する途上国側には、保全目標ばかりに数値目標が組み込まれ、資金動員目標は曖昧なまま、という現状に対する不満が強いことが、この場面で一層はっきりしたのです。

結局、この目標20には、具体的数字は要検討となって組み込まれませんでしたが、2012年までに必要な資金を見極め、具体的資金動員計画を策定することが合意されました。

WWFはポジションペーパーでも言ってきたとおり、生物多様性という要素を、「国家勘定」の中に組み込むことが重要だと考えています。
これは、国家予算を策定する際に、生物多様性保全に必要な資金をあらかじめ算入しておくことを意味しますが、今回の2020年目標でも目標2に明記されました。
ですから、各国の分担をはっきりさせ国家勘定に反映させるためにも、資金動員目標数値の設定は速やかに行われることが求められます。

パッケージ・ディール

今回のCBD・COP10での作業部会における検討は、遅れに遅れました。
中でもABS議定書作業部会に加え、前述の「新戦略計画(2020年目標)」と「資金動員計画」のコンタクト・グループは、閣僚級会議が始まる第2週中盤にもつれ込み、「新戦略計画(2020年目標)」に至っては、最終日まで粘っても作業部会に上げる文案がまとめきれませんでした。

もちろん、進行のまずさにも原因の一端はあったと考えられますが、出席している各国代表団が、他のコンタクト・グループの進捗を観ながら、交渉の切り札として使うためにのらりくらりと合意を避けていた気配もあります。

その切り札とは、途上国にとっては2020年目標へのコミットメント、先進国にとっては資金供与へのコミットメントです。このような決議のあいだの癒着(?)は、パッケージ・ディール(合意)と呼ばれ、必要な条項が過不足なく揃うという意味では大切な考え方ですが、各国間の対立が激しい場合は、すべての議論が停滞してしまうことにも繋がります。

結局、今回のCOP10では、このパッケージ・ディールの遅れが響いて、2020年目標の最終文案もコンセンサスベースというより、コンタクト・グループの議長裁量でまとめられた仮の文案が上申されました。

それが閣僚級の非公式会合で超特急で審議されて、最終の全体会議へ持ち込まれることになりました。2週目の閣僚級会議開始に合わせ、各国代表団に「合意を最優先で審議せよ」という指針が、回覧されたにもかかわらずです。

この“パッケージ”は、最後の全体会合でも論議を呼びました。議長の松本大臣が「残る3つの決議について、3つの採決が終わった段階で3つが決議されたものとする」と宣言したところ、さっそくキューバから「別々に採決すべきだ」という動議が出され、ボリビアも同調しました。

ここで紛糾して時間切れ、という最悪の事態は何としても避けなければなりませんから、議長国日本も踏ん張って、物別れの事態は免れましたが、今後、このようなパッケージをめぐる政治的駆け引きが、ますます激化することを予想させる一こまでした。

 

ABS「名古屋議定書」の成立

CBD・COP10における、もう一つの注目の的であった、ABS(遺伝資源の利用から生じた利益の公平な配分)の新議定書の成立についても、議論は難航しました。

そもそも、生物多様性条約では、1)生物多様性の保全 2)生物多様性の持続可能な利用 3)遺伝資源の利用から生ずる利益の公正かつ衡平な配分 という3つの目的を掲げています。

この2つ目と3つ目の目的が、条約に組み込まれた経緯は、保全だけを前面に打ち出した条約では途上国の参加が得られにくいと考えられたためです。

しかし、各国の利害がかかわる3つ目の目的に関しては、長い間、具体的な内容を詰めるための検討が十分な形でなされてきませんでした。

2002年になって、ようやく法的拘束力のない自主的な「ガイドライン(ボン・ガイドライン)」が採択されましたが、この対応だけでは、途上国の積年の不満を癒すことはできず、同年に南アフリカで開かれたWSSD(ヨハネスブルグサミット)において「利益配分のための国際的制度(International Regime、IR)の構築」が世界実施文書に明記されたのです。

これを受け、生物多様性条約の下に設置されていた、ABS作業部会において、2003年以降、名古屋での2010年10月まで、検討が続けられてきました。

困難をきわめた議定書案の策定

2008年のCOP9では、「COP10開催までの2年間の内に3度作業部会を開催し、ABSに関する国際的レジーム(制度)に関する検討を終了させよ」という決議が採択されました。

これを受けて、2009年4月にパリで、11月にモントリオールで、2010年3月にカリで、3回のABS作業部会が開催され、検討が続けられてきました。しかし、その進捗ははかばかしくなく、やむなく7月にモントリオールで作業部会を再開することとなりました。

しかし、それでも議定書案はまとまらず、10月のCBD・COP10直前まで、作業部会を延長。COP10の前月の9月にモントリオールにおいて地域間検討会合ING(Interregional Negotiating Group:ABS作業部会の下に置かれた議定書文案を協議する会議体)を開き、議定書案の策定を終了させることにしました。

ところが9月の4日間にわたる地域間検討会合でも議定書案はまとめられず、やむなくカルタヘナ議定書の第5回会議(MOP5)が名古屋で開催されている10月13日から16日にかけて、INGを再開しました。しかし10月16日のABS作業部会には、検討済みの議定書案を提出できずに終わってしまいました。

そして、ABS議定書は、その案が用意されないまま2010年10月18日のCOP10開幕を迎えることになりました。

初日の全体会議にて、ABS作業部会共同議長は経過の報告に続き、各国の議定書策定に対する意欲は高く、引き続き検討を継続することを求めました。その結果、非公式協議グループ(ICG)を立ち上げ、22日の全体会議に報告することが決まりました。

非公式協議グループといっても、メンバーはこれまでのABS作業部会メンバーと同じで、検討が引き続き行なわれる形となりました。しかし22日になっても、結局案はまとめることができず、全体会議において、本来は会議が休みになるはずの週末の土日2日間の延長を求め、これが承認されました。

WWFも当然ながらABS交渉の行方を強い関心をもって見守りました。
会期中は広範囲におよぶWWFのネットワークの強みを活かして、途上国、先進国の情報を精力的に収集するとともに、非公式協議グループにおける進捗に黄色信号が灯り始めた22日には、「すべての国は実効ある議定書のために柔軟性をもって交渉に当たること」を求める緊急声明を発表しました。

日本政府による議長案の提示

しかし、週末を含む初めの一週間で、議論にはある程度の進捗は認められたものの、いくつかの困難な課題は相変わらず未解決な状況が続き、その現状が週明けの25日(月)の午前中に開かれた全体会議で報告されました。

そこで全体会議では、議定書案をまとめるために、議論の更なる延長を認めることとなりました。
午後には協議会場に近藤環境副大臣も出席。交渉の最終決着に向けて更なる努力を求めました。

しかしその日の晩、残された課題の中でも最も難関とされていた「遵守」(不正利用等防止のための法的な仕組み)に関する条文の検討を行なっていた小グループの共同議長が、初めて交渉が「危機」に瀕している、と発言。ここまで続いてきた非公式協議グループが、大きな壁に直面していることを示唆したのです。

26、27、28日と、COP10の最終日直前まで、それぞれ小グループごとに検討は続けられました。それでも、28日午後7時30分の「ABS会合の交渉の進展を報告するための」全体会合では、「かなりの進展がみられたものの、議定書案をまとめるには至らず」という報告が。それに対し議長の松本環境大臣は、さらに午後0時までに更に検討を継続し、それまでに議定書案がまとめられなかった場合は、明日の全体会議で議長案を提出するとしました。

会議は最後の延長に突入しましたが、残りの数時間でまとめられるはずもなく、結局COP10最終日の29日には、日本政府から提案された議長案について、各国との調整が午前・午後と行なわれ、最終的な議長案が夕方からはじまった全体会議にかけられることになったのです。

「名古屋議定書」の採択と評価

この議長案は、途上国と先進国の間の対立点のいくつかについて、ある点では途上国に、また他の面では先進国に有利な内容を含んでおり、また本質的に合意の困難な点は曖昧にしたまま、その後の運用に任せる、といった妥協の産物といえました。

基本的には各国ともCOP10での「ABS議定書採択」という成果を欲していたことと、これまでの作業部会や非公式協議をこれ以上続けても出口が見えそうにないことなどから、全体会議では一部から不満である旨の発言記録の要求や一部語句の修正はあったものの、最後にはABS議定書「名古屋議定書」は採択されることになりました。

この名古屋議定書をどう評価するべきか。
一言で表すならば、名古屋議定書の採択は非常に大きな成果であり、生物多様性条約がその目的を達成するための基本的な体制がようやく整ったといえるでしょう。

もちろん議定書の内容は途上国、先進国いずれの側から見ても不満の多く残るものです。しかし、そのような内容でしか、成立し得なかったとも言えます。今後は名古屋議定書の実施を通じて、遺伝資源から得られる便益の衡平な分配が確実に実現されるよう見守ることが重要です。

終わりに

過去40年ほどの間に、地球環境の豊かさは、生きている地球指数(LPI)が示しているとおり、約3割も失われて来ました。特に熱帯では60%もLPIが低下しており、事態が深刻です。

今回の名古屋でのCBD・COP10は、この事態を改善してゆくために、生物多様性の保全に向けた世界の「政治的意思を示すこと」が、会議成功の大きなカギとなっていました。

議論の中では、強固なミッションと、野心的な目標をもった2020年目標などを含む「新戦略計画」を採択し、長期的かつ安定的な資金を確保することが必須でしたが、COP10だけでそれが達成されたとは言い難く、道半ばです。

また、名古屋で合意された目標にしても、よりよい具体策に落として行く上では、まだまだ詰めるべき細かな課題が残されています。これからCOP11がインドで開かれるまでの2年間、議長国を務める日本には、こうした課題を解決して行く上で、世界をリードする大きな責任があります。

今回のCBD・COP10で、生物多様性条約と国連気候変動枠組み条約の協働を進めることでも、合意がなされました。森林生態系にはたくさんの二酸化炭素が蓄えられていますが、毎年1,300万ヘクタールというペースで森林(一次林)が失われています。

森林の減少と劣化を食い止めることを新戦略計画に盛り込まなければ、気候変動枠組み条約で言われている、「地球の温度上昇を2度未満に抑える」という、目標を達成することはできませんし、また、世界の生物多様性を保全することもできません。

今後の国際社会の取り組みは、2週間後のメキシコ・カンクンでのCOP16へ引き継がれて行きます。
その際、資金、モニタリング、国家計画の3つは気候変動枠組み条約にも、生物多様性条約にも共通して必要な要素です。しかし、ますます複雑化する国際交渉の中で、パッケージ・ディールの難しさが、合意への道のりを妨げるものになってはいけません。

WWFはこれらの合意が具体的な現場の保全に結びつくよう、今後も各国政府への働きかけを積極的に行なっていきます。

関連資料

WWFインターナショナル 発表資料(PDF形式:英文)

 

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