密輸の犠牲になるセンザンコウ
2010/07/29
ウロコを持つ哺乳類として知られるセンザンコウ。このセンザンコウの密輸が今、アジアの各地で摘発されています。最近も、中国で7.8トンもの冷凍されたセンザンコウの密輸が摘発されました。食用や、薬の原料としての高い需要が、密輸の引き金になっていると見られています。
大規模な密輸が発覚
鋭い爪で土やアリ塚を掘り返し、70センチにもなる長い舌を使って、アリやシロアリを食べる哺乳類、センザンコウ。全身を固いウロコに覆われたこの動物の密輸が、近年アジア各地で多数報告されています。
摘発された事例は特に中国、そして、センザンコウ類の主要な生息域である東南アジアの各地です。
これらの事例では、いずれもセンザンコウが十数頭から100頭、時には数百キロという単位で見つかっており、しかもその多くが死んだ状態で発見されました。
2010年6月には、広東省の税関職員が、珠海の高欄島で、不信な漁船を捜索したところ、合計7.8 トン、2,000頭を超える冷凍されたセンザンコウを、1,8トンのウロコと共に発見。中国国籍とマレーシア国籍を持つ乗組員たちが逮捕されました。
このような事件の背景には、近年高まっている、センザンコウ類に対する需要の高まりがあります。
需要が密輸を呼ぶ
センザンコウの需要が高い国の一つは、中国です。
もともと中国では、センザンコウを食用に、また薬の原料として、長い間利用してきました。
しかし、その需要が、中国国内のみならず、東南アジアのセンザンコウ類を減少させることになっているとみられています。
野生生物の国際取引を調査・監視しているトラフィック・ネットワークでは、2009年に発表した報告書『Proceedings of the workshop on trade and conservation of pangolins native to South and Southeast Asia(南アジアと東南アジアを原産とするセンザンコウの取引と保護に関するワークショップの議事録)』の中で、過去数年の間に、東南アジアから中国への密輸が、センザンコウが生息するアジア諸国の野生個体群を、大幅に減少させる結果を招いていることを指摘。
さらに、2000年から、ワシントン条約でアジアのセンザンコウの国際取引が実質禁止されたにもかかわらず、これらのアジア諸国で、法律が十分に機能せず、密猟や不正な取引が盛んに行なわれている点について言及しました。
高まる絶滅の危機
しかし、その後も密輸の報告事例は跡を絶たず、中には、アフリカに生息しているセンザンコウが見つかる例も報告されています。
アジアとアフリカにそれぞれ4種ずつ、計8種が生息するセンザンコウは、2007年の時点では、ほとんど絶滅の危機が指摘されていませんでした。
それが、今では中国およびアジアに生息する、2種のセンザンコウが、「レッドリスト」で絶滅危惧種に指定されています。
今後も、密輸が止められなければ、さらに他のセンザンコウ類にも、危機が及ぶ事になるでしょう。
2010年6月に中国で発覚した7.8トンもの大規模なセンザンコウ密輸事件では、マレーシア人の乗組員が、密輸品を受け取るために、海上での落ち合い場所について、衛星電話で指示を受けたと話しており、衛星電話や海上での貨物の積み替えが、野生生物の密輸手口を、より巧妙なものにしていることをうかがわせます。
中国当局はこの押収について、国際刑事警察機構や世界税関機構(WCO)、ASEAN野生生物法執行ネットワーク、そしてワシントン条約担当者などと情報を共有、マレーシアの自然資源・環境省に合同捜査の打診を行なっており、トラフィックもこの対応を評価しています。
しかし、自分たちの行為がアジアの自然資源にもたらす破壊に、まったく関心を払わず、組織ぐるみで野生生物の密輸に手を染める人たちを取り締まるには、それだけでは十分ではありません。
急激に数を減らしているセンザンコウを守るため、トラフィックでは違法取引の調査を継続すると共に、密輸の取り締まりに当たっている各国の法執行機関への協力・支援に取り組んでいます。