渡り鳥にとって大切な場所はどこ? 重要渡来地マップを作成


日本各地で失われる、干潟などの湿地の自然。その保全のため、WWFジャパンは、シギ、チドリなどの渡り鳥が飛来する国内の湿地の中で、特に重要な68カ所の渡来地を明らかにした、新しいマップを公開しました。今も多くの課題を抱える湿地の自然をいかに守ってゆくか、日本の自然保護のゆくえが問われています。

失われる日本のウェットランド

日本各地の沿岸に広がる、干潟などの湿地(ウェットランド)は、多種多様な生きものたちのすみかであるばかりでなく、水を浄化する役割を果たし、漁業や観光業を支えてくれる、経済的にも高い価値を持つ環境です。

しかし、日本ではこれらの価値が十分に理解されてこなかったため、1945~2005年の間に、埋め立てや干拓などの開発により、約40%の干潟が消失したと言われています。

また、季節ごとに数千キロの距離を飛び、これらの場所を訪れる渡り鳥、シギ・チドリ類の渡来数も、ここ20年の間に4~5割が減少。その原因の一つは、生息地の減少と悪化にあると考えられています。

WWFジャパンは、環境省の全国調査(モニタリングサイト1000)の結果をもとに、シギ・チドリ類等の渡り鳥の重要渡来地68か所を独自に選定し、普及啓発資料を作成しました。

これらの湿地は、ラムサール条約やフライウェイパートナーシップに参加・登録基準を満たすものであり、国際的にも価値が高いと認められる湿地で、適切な保全管理が必要です。

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多くのシギ・チドリ類が訪れる、九州・八代海の球磨川河口。広大な干潟が広がる。

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シギ、チドリ類は、主に春秋に、干潟など日本の水辺に渡ってくる。

日本の重要な湿地のマップを発表

この問題に取り組むため、環境省では現在「モニタリングサイト1000」という長期の生態系観測事業を展開しています。

2004年度より開始されたこのプロジェクトは、シギ・チドリ類や、ズグロカモメ、クロツラヘラサギなど、さまざまな生物種や環境の変化を調べ、干潟をはじめとした湿地環境の保全管理に役立てるというもので、WWFジャパンも開始当初から、その全国事務局を勤めるなど、事業の推進に取り組んできました。

そして、プロジェクト開始から5年以上が経過した2009年度、全国各地の調査員や市民グループのメンバーの協力により、渡り鳥を中心とした生物に関する、かなりのデータが蓄積されたことから、WWFジャパンでは、これを基に、新しい湿地の保全管理を進めるための普及資料「ぼくらのまちに渡り鳥がやってくる ~日本のシギ・チドリ類重要渡来地案内~」を作成しました。

これは、2004~2008年度の調査データを検討し、国際的な湿地保全条約である「ラムサール条約」や、渡り鳥保全のための国際的枠組み「東アジア・オーストラリア地域フライウェイパートナーシップ(通称シギ・チドリネットワーク)」の参加・登録基準を満たした、全国68カ所の湿地を、特に重要なエリアとして選出、地図として作成したものです。

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クリックすると大きな地図が開きます。

いまだに解決されない問題

 この68の湿地は、いずれも国際的にもその価値が認められた、豊かで貴重な自然環境といえます。
しかし、2009年の時点で、これらのうち鳥獣保護区に指定されているのは、22カ所にとどまりました。土地の改変が原則的に禁止されている、特別鳥獣保護地区は、わずか6カ所。全体的に見ると、保全のための十分な措置が施されているとは、いえない状況です。

さらに、保護区とされている一部の湿地を含めた、55カ所(81%)において、渡り鳥の生息に影響を及ぼしかねないとされる脅威が報告されました。
最も多かったのは、レジャーなど、人の直接的な利用によるもので、この他にも、海岸侵食などの環境変化が多く認められるなど、将来的な自然環境の保全にとって、課題となる問題が多数あることが、あらためて明らかにされました。

2010年、名古屋では第10回「生物多様性条約」締約国会議が開催されることになっていますが、ここでは、海洋保護区の増設と、管理の向上が主要な議題の一つとなります。

多くの渡り鳥が息づく自然は、豊かな環境の証。WWFジャパンでは会議に向け、湿地の存在と価値を広く知ってもらい、湿地の保全と利用のあり方を考えていくため、今回作成した資料を役立ててゆきたいと考えています。

 

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